不親切すぎますわ!
これで、このトゥーアサ・ジェー・ザナンが大正の世界に有った物と言う事で間違いなさそうね。
それにしても……こんな面倒な仕掛けをしてまで、何がしたかったのかしら、これを作った錬金術師さんは……?
「まあ、良いわ♪私が興味を引かれるのは、この本の内容とか、因果とか、そういうモノでは有りませんもの。ティル・ナ・ノーグのリンゴですもの♪」
でも、これはどうすれば宜しいのかしら?
普通は苗木を育てて、それからお庭に植えるとか、ではなかったかしら。
ですけれど、わざわざ魔法陣の上に種が張り付けてあるのですから、魔法陣を起動させてから魔法陣ごと植えれば良いのかしら?
それとも、土に埋めてから、魔力を流した方が……?
そもそも、埋めるのは魔法陣と種だけで良いのかしら?
魔法陣はわざわざ、最後のページに縫い付けられているわ。
ページごと切り離して……それとも、いっそ本ごと埋めた方が?
「はぁ~、不親切すぎますわ!」
わざわざ、因果の相手の手に渡る様、念入りに複雑怪奇な仕掛けまでしていますのに、肝心のリンゴの木の植え方とか、育て方のとか、マニュアルの紙ぺら一枚、挟んでくれてても宜しくなくて!
うーーん、表紙の中に魔法陣が埋め込まれていた事を踏まえると、背表紙や裏表紙、それに他のページの中にも何か仕掛けが隠されていると見た方が良さそうね。
下手に、ページを切り離すより、トゥーアサ・ジェー・ザナンを一冊まるまる埋めるのが正解かも、ですわ。
今は五時過ぎ。
外はまだ暗いですわね。
ともかく、朝食のお時間まで未だ暫く有る事ですし、お庭に植えに行くとしましょう。
善は急げ、ですわ♪
パジャマからいつもの矢絣の着物と袴に着替えて、トゥーアサ・ジェー・ザナンを持ってお屋敷の裏庭に出る。
お屋敷の裏庭にはお母様のバラ園が有りますの。
更にその向こうには、お爺様の広大の日本庭園が広がっていますわ。
日本庭園の方は、お爺様がお亡くなりに成ってからも、爺が管理して、お爺様の生前同様に綺麗に保たれている。
バラ園の方は、お昼前に手入れして回るのが、お母様と千代さんの日課に成っているわ。
以前、お母様から小町も何か植えてみたらと、バラ園の横の一角を貰い受けましたの。
奥行は大体五メートル、幅が十メートルほどかしら。
リンゴの木を植えるには丁度良いかもですわ。
でも、先ずは道具が必要ですわね。
素手で土を掘るわけにはいきませんもの。
裏庭の隅に、目立たない様建てられた納屋へ向かう。
そういえば、あまり納屋に足を運んだ事は無いのだけれど、鍵とか掛かっているのかしら?
爺や千代さんは、そろそろ起きていると思うのだけれど、朝の支度の邪魔をしても悪いわ。
もし、鍵が掛かっている様なら、学校から帰って来てからにしましょ。
あら?
シャッ、シャッ、と一定のリズムを刻む音。
何方か居るのかしら?
納屋の方に人の気配がするわ。
納屋の正面に回ると、デニム生地の作業着を着た大きな背中がこっちを向いている。
手には鉈を持って、砥石で砥いでる見たいね。
これ程の大きな背中は、蘆屋家には爺以外、もう一人しかいませんわ。
「お早う、イシャイニシュスさん」
「うん?」と大きな背中が振り返る。
「ああ、お前……いや、お嬢様だったな。まだ、日が登っていない。こんな時間にどうした、何か有ったのか?」
「いいえ、少し早く目が覚めただけですわ。それで、そのついでにリンゴの種を植えようと、お庭に参りましたの。イシャイニシュスさんも朝がお早いですわね」
「そうでも無い。集落に居た頃よりはたくさん寝た。既に狩を終え帰ってきている時間だからな」
なんと言うか……なかなか過酷な生活をされてましたのね。
私には、到底無理そうですわね。
「ところで、リンゴは以前集落でも植えた事が有る。種を植えると言ったが、苗木を作るのか?」
「そうでは有りませんわ。少々変わったリンゴですの」
「うむ、良くは分からんが、良かったら手を貸そう」
「ホントですの♪とっても助かりますわ♪」




