残党狩り
プロローグは二話構成に成ります。
「居たぞ!あっちの路地を曲がった!追え!」
「ハッ!」
深夜、大勢の腕章を付けた軍服姿の男達に追われ、男が狭い路地を息を切らせながら走り抜ける。
男は、黒いコートを羽織り、右手には鞄、左手に丸めた羊皮紙を握りしめている。
年の頃は三十後半と言った処か。
この男が追われているのには訳がある。
勿論、相当に後ろめたい理由だ。
それは、半年ほど前から知り合いのツテで参加する様に成った、とあるカルトの儀式がその理由。
この男にとっても、その悍ましい儀式は、参加したくて参加していたものでは無い。
人を贄とし、神と称する化け物に捧げ、自分達参加者もまた、その生贄の血肉を……。
その様な儀式、まともな神経をしている者が好き好んで参加する分けは無い。
だが、その儀式の参加者の殆どは、上流階級でしかも、当然だが神秘主義者でもある。
この男の生業の顧客として、例え悍ましい行為に加担しようとも、お近付きに成りたい雲の上の者達だったのだ。
男の生業とは、表向きは古書店を営んではいるが、裏では違法な魔道具の密輸と販売をしている。
勿論、裏のビジネスの方が実入りが良い。
そして、その儀式に参加する様に成って、そこで知り合った有力者相手に魔道具や魔導書を高額で売りつけ、それで稼いだ金は莫大なモノと成った。
結構な財産だ。
それで証券や土地を買って……。
男の人生は順風満帆のハズだった。
だが一月ほど前の、あの惨劇から歯車は狂いだした。
あの晩、いつもの様に儀式が行われ、その最中に参加者の何人かが、化け物に変わって人を襲いだしたのだ。
男は、死に物狂いで何とか逃げ延びることが出来た。
だが、あれ以来、儀式は行われる事は無く成った。
それでも、既に知己を得た上流階級の有力者を相手に、この一月ほどは、今まで通り商いを続けることが出来た。
しかし、あの事件が切っ掛けかどうかは男には分からないが、儀式に参加していた者達が、大勢検挙されているとの噂を聞いたのが昨夜の事だ。
どうなるかは、先の事は分からない、だが、ともかく男は帝都から姿を消す事に決めた。
もっとも、今まで悍ましい思いをしながらも築き上げて来た物すべてを、失う分けには行かない。
不動産を現金化し、銀行に預けていた預金を降ろし、出来るだけの物を持って逃走する為に、昨夜から奔走していたのだ。
そして、店に憲兵が踏み込んできたのは、未だ全ての準備が終わってはいない、今さっきのこと。
男は取る物も取り敢えず、既に鞄に詰めて有った現金と証券、それと、幾つかの魔道具を引っ掴んで逃走するしかなかった。
自身の店から飛び出し、路地裏を縫う様に走り抜ける。
だが、男にはそれと無く追い詰められている予感がしていた。
いま向かっている方向には川が有り、橋が一本掛かっている。
鋼鉄の部材で組まれ、真ん中には路面電車の線路も通ている、近代的なトラス橋だ。
恐らくこの橋の出口に待ち伏せが居るのでは……。
そう言う不安と確信が、男の脳裏をよぎる。
ザッザッザッザッザ!
追手の足音。
しかし、その方向に逃げるしか選択しが無さそうだ。
「いざと成れば、川に飛び込むしかねぇな……」
男は追手の足音に追い立てられる様に、橋の上に向かうと、橋の中央に人影。
その人影は、懐から何かを取り出す。
男は身構えるが、シュポ!と火が灯り、その人影のタバコを咥えた顔が浮かび上がる。
「ふ~♪津案、お前もどうだ一服。逃げるのにも疲れたろ」
男が、川に飛び込もうかと、一歩動いたその時。
パン!
銃声が鳴り響く。
それと同時に、男の背後からザッザッザと追いついた憲兵達の足音。
「動くなよ、津案正辰。見ての通り、お前を取り逃がす気は無い。サートゥルヌスの密儀とやらの関係者は、全員しょっ引くか射殺しろ、てのが御上の命令だ。今度逃走しようと一歩でも動けば、容赦なく射殺する」
男は観念したかの様に両手を上げる。




