お買い上げ
トゥーアサ・ジェー・ザナンを抱えて、お店の奥へ。
レトロな白熱灯が、古い本が並べられた本棚をオレンジ色に染めている。
今の自分が、大正か現代か、どっちの自分か分から無く成る様な不思議な感覚。
うん?
お店の奥に人の気配。
良かった、誰かいるんだ。
とにかく、これで商談は出来そう。
お店の一番奥に木製のカウンターが、更にその向こうは一段高く成っていて障子が有る。
多分、このお店は住居兼用に成ってるのかな。
で、その障子越しに人影が見える。
「ごめんくださ~い」
声を掛けると障子が開く。
出てきたのは、赤いどてらを着た女の子。
やっぱり、パンダちゃんや、ひょっとこくんと同い年ぐらいで、これもやっぱり、お面を被ってる。
しかも、この子はお多福のお面。
ひょっとこくんと気が合いそうな、チョイスの渋さだわ……。
うーーん、やっぱり大人が出て来ない……。
ともかく、この子と商談するしか無いわ。
先ずは、確認しなきゃ。
「あの、お買い物したいんだけど、この一万円札はこのお店で使えるかな?」
と、一万円札を見せてみる。
我ながら、めっちゃ変な質問だ。
さすがに、お多福ちゃんも、首をかしげてる。
で、首を傾げながらも、その一万円札を手に取り、マジマジと。
一応、私の質問に、偽札か?とか思ったのか、電灯にかざして透かしも見てる。
そんで、一万円札を私に手渡しながら、左手の親指と人差し指で輪を作くる……つまり、OKってことかな?
でも、有り得るのかなぁ……。
多分この、平和の世界は、現代の世界とは、大分歴史が違う様な気がするのよ。
現代の世界の日本では、こんな夕日は長く続かないもの。
この現象一つとっても、歴史が結構違ってくると思うのよ。
だとすると、お札の肖像画も違って来ると思うんだけど……。
あ、カウンターの上に卓上の鏡が有る。
もしかして……。
「チョット、鏡を借りるね」
一応、そうことわって、鏡をこっちに向けて、一万円札を映すと……やっぱりだ!
見た事無いお札。
ウルタールの十円札の時と同じ現象。
そう言えば、さっき「この一万円札はこのお店で使えるかな?」って聞いたわ。
だから、この一万円札も、この世界の一万円札に成ったんだ。
駄菓子屋さんの時もそう。
ひょっとこくんに「じゃあ、五十円玉ね」って渡したから、だからあの時も……。
うーーん、ちょっと詐欺ってる気がしなくも無いけど……この世界のお金として使えるんなら、この子が怒られるような事には成らないよね。
よし!じゃあ、買っちゃおう♪
「この本が欲しいんだけど、お会計お願いします」
トゥーアサ・ジェー・ザナンをカウンターの上に置くと、お多福ちゃんがビクンと成る……ビックリしてるのかな?
で、私とトゥーアサ・ジェー・ザナンを二度見して、裏表紙に貼られた値札を指さしてる。
ああ、こんな大金持ってんの?って事ね。
コートの内ポケットから玉藻堂で受け取ったお金を取り出し、その中から60万円をカウンターの上に。
お多福ちゃんがそのお金を見て、大きく二回頷くと、小躍りしだした……何か可愛い♪
まあ、現代の世界の物価で三百万円以上のお買い上げだもんね。
それにしても、相当嬉しそう。
そんで、お多福ちゃんは小躍りしながらお会計を済ませ、私の手にトゥーアサ・ジェー・ザナンを手渡してくれる。
大正で、焼け落ちた書庫を見て、もう二度と手に入らないって諦めてたけど。
あの時のストーカーさんの言葉通り、この本と私を繋ぐ因果が動き出して、そして繋がった……。
お会計も済んだからトゥーアサ・ジェー・ザナンを抱きしめて本屋を出ようとすると、何故かお多福ちゃんが小躍りを続けたまま付いてくる……なんで?
で、外まで付いてきて、深々とお辞儀。
ああ、「毎度有り♪」って事ね。
その後も、やっぱり小躍りしながら手を振って御見送りしてくれてる。
よっぽど嬉しかった見たいね。
まあ、ともかく……。
「ふふふ♪手に入れたわ♪これで、ティル・ナ・ノーグのリンゴ食べ放題よ♪♪」




