金なら有るんや♪
「トゥーアサ・ジェー・ザナンだ!これが此処に有るって……ど言うこと?まったく同じ本って事は無いよね。だってあれは書庫が火事に成って燃えたんだもん。考えられるのは……この平和の世界に元から有ったバージョンってこと?」
そう考えんのが妥当な気がする。
平和の世界も並行世界なら、同じ本が有っても不思議じゃない。
ストーカーさんが言ってた。
「この本は必ず正しい持ち主の手に渡る、例え燃え尽き灰に成ろうとも、そう謂う因果にある。」と、その因果って言うのが何なのかは分ん無いけど、それが働いて、小野小町がこの世界に飛ばされて、ここまで導かれた……のかなぁ?
あれ?
もし、そうならそんな面倒な事しないで、現代の世界バージョンのトゥーアサ・ジェー・ザナンに私を導いた方が早くね?
そしたら、こんな不安な状況に陥らなくて済んだのに……。
いや、事はそう単純じゃ無いかも。
現代の世界では、中世から近世にかけて異端審問による魔女狩りが有ったわ。
ストーカーさんのお爺さんは、スイス人の錬金術師から譲られたって言ってたけど。
その錬金術師さんの先祖が、異端審問に掛けられて殺されたとか……。
そうじゃなくても、その人が錬金術師以外の人生を歩んだのかも。
ともかく、現代の世界にトゥーアサ・ジェー・ザナンは存在し無い。
だから、こんなシュールな世界に私は飛ばされたのかも……。
棚に飾られたトゥーアサ・ジェー・ザナンを手に取ってみる。
「あれ?何これ?表紙が無い!背表紙と裏表紙は有るんだけど、表の表紙が千切られてる……ん?しかもちょっと焦げてる」
焦げた革装丁の表紙って言えば……さっき、祠から持ってきた切れ端よ!
試しに、表紙の千切り取られた跡に、切れ端を合わせて見ると……やっぱりだ、ぴったり合う。
この切れ端はトゥーアサ・ジェー・ザナンの表紙の下側だったんだ。
だから、ウルタールはこの切れ端の匂いを嗅いで、此処まで私を導いて来たんだ。
でも、じゃあこの表紙の上の部分は何処だろ。
まあ、焼け焦げてるみたいだし、火事にでもあって燃えちゃったってことよね。
本来なら、此処にもオガム文字でトゥーアサ・ジェー・ザナンて書かれてる筈なんだけどね……ん?
そう言えば、ストーカーさんから貰ったトゥーアサ・ジェー・ザナンの焼け残った表紙は、上のタイトルが書かれた部分だった。
もしかすると、これって……。
大正に戻った後、断面を合わせて見ないと確証は持てないけど、もしかすると、このトゥーアサ・ジェー・ザナンは平和の世界に有った物じゃ無くって、何らかの術で大正の世界からこの平和の世界に飛ばされた……ってことかも。
もしそうなら、その錬金術師はこう成る事を想定して、異世界に本を飛ばす魔法を施していたって事に成るけど……そんな魔法聞いた事無い。
一体……何者なんだろ?
私や神話の中のイザナギやイザナミ、ペルセポネーみたいに異世界を行き来出来る術か、体質を持ってるって事かなぁ?
そうだ、中もちゃんと確認しなくちゃ。
パラパラと捲って中身を確認。
内容も多分同じ、ダーナ神族が常若の国へ至る話が書かれてるっポイ。
で、肝心の最後のページ♪
「あった!」
縫い込まれた魔法陣とその中央に、ガーゼで貼り付けられたリンゴの種。
「私のティル・ナ・ノーグのリンゴ♪」
ちゃんと欄外にオガム文字でティル・ナ・ノーグの林檎の種って書いて有る。
間違いないわ♪
錬金術師の意図とか、因果とか、確かに気に成ると言えば気になるけど……でも正直、どうでも良いわ♪
これは正月以降、大正でも現代でも、散々苦労したり、怖い思いしたり、危険な目に合って頑張った私への御褒美よ♪
これを、手に入れない手は無いわ!
とはいっても、勝手に持っていくのは泥棒よ。
お姉ちゃんみたいに、言い包めてタダで貰い受ける様なコミュ力も無いし、買うしか無いわね。
で、幾らよ?
金なら有るんや♪金なら♪
『60万円也』
「マ、マジっすか!いや、買え無くは無いんよ、買え無くは……でも、高くね?そもそも、貰うハズだった物なのに……60万円って……」
ラムネ一本、二十円の価格破壊な世界で60万円って……。
ラムネ換算で、この世界の物価は五分の一~六分の一。
そこから換算すると、現代の世界の物価に置き換えると300万円~360万円ってこと……やっぱ、メッチャ高くね!
いや、それに、そもそも、私の持ってるお札ってこの世界で使えんのかって問題もある。
でも、さっきは五十円硬貨が通用した……って言っても小っちゃい子がお会計してたから、あの子が気付かずにって事も……。
でも、メッチャ欲しい!
此処で、手に入れないと、もう一生ティル・ナ・ノーグの林檎と出会う事は無いわ。
ダメもとで、お札が通用するか聞いてみよう。
もっとも……その店員さんが居るかどうかが、一番の問題なんだけどね……。




