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14、ザックの秘密

「じゃあロリポップという飴屋の絵師をしていたと?」


 サロンで二人になると、ザックの追求が始まった。


 次々に質問され、これまでの経緯を話した。

 ステラ夫人にもだいたいの話はしていたが、とても大雑把な話で納得してくれていた。


 夫人は感情論がすべてで、辛かったでしょう、苦しかったわね、なんてひどいことを、と涙を浮かべて聞くばかりで、私の話に特に疑問も持たなかった。


 おそらく貧民や平民というものもよく知らないのだと思う。

 貴族に生まれ、穏やかに平坦に公爵夫人として慎ましやかに生きてきた人なのだろう。


 だが目の前のこの人は違う。


 とても優秀だったというステラ夫人の話どおりに、あらゆる物事を熟知しているように見えた。実際、前世の青沢さんもそういう人だった。


「でも貧民では絵の具を買うこともできないだろう? 画材はどうやって手に入れたんだ?」


 非常にまずい。


「じ、実は、拾いました」


 く、苦しい。苦しすぎる言い訳だ。


「拾った? 絵の具道具を?」


「は、はい。どういう訳か、マッチを売っていてあまりに寒くて凍死しかけたんですが、目を覚ますと腕の中に絵の具の入った不思議なケースを抱えていたんです」


 嘘ではない。

 レイラが元々のレイラであったなら、そういう状態だった。

 ただ、私には前世の記憶があるというだけだ。


「そんな不思議な話があるだろうか?」


 ザックは首を傾げている。


 まずい、まずい、まずい。


 こうなったら、対抗手段だわ。

 こっちもザックに聞きたいことがある。


「実は、私はロリポップの絵師としてアルフォード家のお屋敷に来たことがあります。その時、ザックさんをお見かけしたのですが、覚えておられませんか?」


 ザックはあきらかにギクリと目を泳がせた。


 よし! 形勢逆転。


「あの時お会いした方は、とても豪華な衣装を着て、指にウェッジ……いえ、青く光る水晶の指輪をされていました」


 さあ、どう言い訳するの?

 なぜ素性を隠すのかは分からないけど、この人はアルフォード様の次男レナルド様のはずだ。

 ちゃんと分かってるんだから。


「た、他人のそら似ではないか? この程度の顔はよくあるものだ」


 自分がどれほどのイケメンか自覚がないようだ。

 女性であるなら、こんなイケメンを一度見たら忘れない。


 しかも私は前世から知ってるんだもの。

 間違えるはずがない。


「いいえ。私は絵師をしているぐらいですから人の顔は一度見たら忘れません」


「……」


 今度はザックがまずいという顔になっている。


 ロイ様といい、レナルド様といい、一体なにを企んでいるのか。

 

 ステラ夫人は心配しなくていいと言ってたけど、もしもウェッジウッドブルーの絵の具のことが問題になってるなら、ここから逃げてアルフォード領を離れなければ。


 でもネロは無関係だから、このままここで暮らせたらいいのだけど。


 そんな算段をする私に、ザックは思いがけないことを言った。


「君が会ったのは私ではない」


「え?」


 ど、どういうこと?

 もしかして双子?

 本当に他人のそら似?


 動揺する私に、さらにザックは言った。



「私はアルフォード家のご子息の影武者なんだ」



次話タイトルは「ザックの申し出」です

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