44、セリーヌの変心?
「えっ? これ……わたし……?」
セリーヌは信じられないという顔で手鏡をのぞきこんでいる。
「そうよ。どう? 我ながらかなりの美人に仕上げたと思うわ」
「うん! すごい美人! 私ってこんなに美人になれたの?」
「そうよ。努力次第でいくらでも伸びしろはあったのよ」
前世の私には伸びしろすらなかったんだもの。
セリーヌはまだまだ救いのあるブスだったのよ。
「これで分かったでしょ? 死ぬなんて早まっちゃダメよ。あなたにはまだまだ明るい未来があるんだから」
「うん。知らなかった。メイクだけでこんなに変われるなんて。ありがとう。レイラ」
セリーヌは嬉しそうに私の手をとった。
心なしか顔付きまで優しくなった気がする。
本当はさんざん意地悪をされてきたセリーヌにメイク道具を見せるのは躊躇ったんだけど、やっぱりやって良かった。
さっきまで死にたいって言ってた人が、こんなに嬉しそうに笑うんだもの。
「私、服を着替えてからみんなに謝りに来ようかな。だってせっかくこんな美人になったんだもの。こんな泥だらけの服じゃみっともないでしょ?」
セリーヌは自警団に引きずられて破れて泥だらけの服のままだった。
「そうね。それがいいかもしれないわ」
セリーヌが嬉しそうに部屋を出ようとしたところで、ケンが入ってきた。
「うおっ! びっくりした。え? だれ?」
ケンはセリーヌとぶつかりそうになってから、首を傾げた。
「ケ、ケン坊ちゃん。私です。セリーヌです」
「セリーヌ?」
ケンは記憶にあるセリーヌと目の前のセリーヌを同じ人間だと認識するのに、しばらくの時間を要した。
それから「えっ!」と声をあげて、もう一度セリーヌを見た。
「ホントにセリーヌなのか? 声は確かに同じだが……」
「うふふ。レイラにメイクしてもらったんです」
セリーヌは驚くケンに満足したように微笑んだ。
「レイラに?」
ケンは私に視線を移した。
「ケン坊ちゃん。本当にすみませんでした。心から反省しています。私、レイラにメイクしてもらって、生きる希望が持てました。これからは生まれ変わったつもりで、真面目に生きようと思います」
セリーヌはケンに深々と頭を下げた。
「お、おお。そうだな。反省したんなら良かった」
ケンは素直にセリーヌの謝罪を受け取った。
良かった。
なんとか丸くおさまったみたい。
私はホッと安心したのだが……。
話はそう簡単にはいかないらしい。
セリーヌはケンが珍しく優しいことに、すっかり舞い上がっていた。
「あの……今から服を着替えてきて、店のみなさんにも謝ろうと思います」
「そうだな。それがいい。みんなまだ怒ってるからな」
セリーヌの申し出にケンもうなずいた。
「そ、それで……あのう……もう一度ロリポップで働かせてもらえないでしょうか? レイラにメイクしてもらえばこんなに美人になるんです。店の看板娘になって、もっともっと人気店になるように、私も今まで以上にがんばりますから」
ん?
ちょっと雲行きが怪しくなってきた。
さっきまで牢屋に入れられて死罪とまで言われてたのに、それを自分から言い出すのはちょっと……図々しいのでは……。
案の定、ケンはムッとして答えた。
「何を言っている。大事な商品を盗むようなヤツが看板娘になんてなれるわけがないだろう。職人たちはお前を牢屋に入れなかったことに納得していない。今も、俺がなだめてきたんだ。ここで働くのはもう無理だ。それに次の売り子は、もう決まってるんだ」
「そ、そんな……」
セリーヌは信じられないという顔で唖然としている。
いや、甘いよ。
甘いよ、セリーヌ。
ケンの言うことの方がもっともだ。
死罪にするには重過ぎるけど、一言あやまるだけで帳消しになるほど軽い罪でもない。
いまやアルフォード家御用達の店となったロリポップの売り子なんて、平民少女なら誰もがやりたい人気職だ。そこに戻れるなんて甘すぎる。
でもそれは二十歳の私だからわかることなんだろうか。
セリーヌは本気で売り子に戻れると思ってたようだ。
ショックを受けたように立ちすくんでいる。
そんなセリーヌに追い討ちをかけるようにケンは言った。
「それよりレイラ、婚約の話は考えてくれたか?」
次話タイトルは「行動するケン」です




