42、セリーヌの思い
「大丈夫、セリーヌ?」
私はセリーヌを丸椅子に座らせて尋ねた。
通されたのはロリポップで最初にスランと入った調理台のある部屋だった。
「……」
セリーヌはふて腐れた顔のまま無言だった。
服はやぶれ、手足も顔も擦り傷と打撲だらけだ。
「少し滲みるけど我慢してね。バイキンが入ったら大変だから」
ケンに濡れた布巾を貸してもらって、セリーヌの傷口に当てる。
「やめてっ! どういうつもり? いい人ぶってケン坊ちゃんへの点数かせぎ?」
セリーヌは私の手を払いのけて叫んだ。
うう。なんでかレイラの立場よりもセリーヌの立場の気持ちの方がよく分かる。
だって私はいつもセリーヌ側の人間だったんだもの。
このレイラのように美に恵まれた人間に同情されたくなんてない。
まして私はケンにプロポーズまでされている。
セリーヌがそれを知ったら、どれほど腸が煮えくり返ることか。
じゃあどうすれば良かったの?
あのまま見殺しにして、自警団に連れていかれるのを指をくわえて見てるの?
そんなこと出来ないじゃない。
傷だらけで立ち上がるのさえ辛そうなセリーヌを、その場に置き去りになんて出来ないじゃない。
「あんたになんて、私の気持ちは分からないわ。美人でいっつもちやほやされてきたんでしょ? 男はみんなあんたに親切で、ちょっと甘えれば何でも言うことを聞いてもらえるとか思ってるんでしょ?」
「それは……」
まさに前世の私が直子に思ってた言葉だ。
「こんな人生、もういらないの。私なんて死んでよかったのよ」
「セリーヌ……」
「なんで助けたのよ。やっと終われると思ったのに! うう……ううう……」
「……」
なにか言葉をかけたいと思うけど、美少女の私が何を言ったところで逆効果だ。
前世の私なら、こんな絶望的なブスでも希望を失わずに生きているんだと思わせることができたかもしれないけど……。
「元気だして、お姉ちゃん」
顔を覆って泣くセリーヌの頭を、ネロがそっと撫ぜた。
「うう……あんた……レイラの弟だっけ?」
「うん、そうだよ」
「あんたこそ、どうしたのよ、その顔。腫れてるじゃないの」
「お父ちゃんにね……ちょっと殴られたんだ」
ネロは少し困ったように微笑んだ。
「父親がこんなひどい事を?」
セリーヌは驚いたようにネロを見てから私に視線を向けた。
その表情で、セリーヌが親には恵まれていることが分かった。
何かを得れば、何かが足りない。
それが人生なのかもしれない。
足りないものを埋めるために、私達はあがき苦しみながら、前に進む。
「あなたが死んでしまったら、お父様はきっと悲しむわ」
ふと、前世の父親の顔を思い出した。
トラックに轢かれた私を見て、お父さんはきっと悲しんだだろう。
絶望的なブスであったとしても、お父さんは私を愛してくれていた。
それだけは、はっきり分かる。
先に死ぬなんていう親不孝をして、私はこの世界にいる。
そうまでしてこの世界にきた意味は?
もしも。
誰かを救うために私がここにいるのなら……。
私は自分の持つ力を惜しむべきではない。
ふうっと息をはいてから、まっすぐセリーヌを見つめた。
「あなたを美人にしてあげるわ、セリーヌ」
次話タイトルは「セリーヌの変身」です




