27、緊急事態
「おい、出ろ。商品を出せ」
いよいよ私達の番になった。
町馬車の人間には口調も冷たい。
私とスランは馬車を降りて、積んであった飴のブリキ缶を取り出した。
「お? 女か。珍しいな」
私の姿を見て検品係の表情が少し和らいだ。
店主の言った通り、女性がいた方がいいみたいだ。
しかも、そうだわ。
また緊張で忘れてたけど私、美少女だし。
こ、こうなったら……。
この美貌を武器にするしかないわね。
やったことないけど。
「『ロリポップ』の飴です。このたびはご注文ありがとうございます」
ケンが商品をテーブルに乗せてぺこりと頭を下げた。
「ほう……これは……凄いな」
「この入れ物はなんだ?」
「ブリキ缶です。そこにこの者が絵付けしております」
「この若い娘が?」
男達はブリキのケースを手に目を見開いた。
「ブリキってバケツや水差しに使うやつだろ?」
「あれがこんなに綺麗なケースになるのか?」
感心する男がケースの一つを開けると、ほうっというため息がもれた。
「これが飴?」
「コンフェイトは知ってるが、この包みはなんだ?」
「飴をワックスペーパーで包んでいます。ワックスペーパーにもこの者が絵を入れました」
「ここに見本の飴があります。どうぞ一つずつお取り下さい」
私は予備の飴を差し出した。
賄賂のお金はないけど、飴なら試食用にとたくさん持ってきた。
男達は初めて見る飴の包みを珍しそうに手に取った。
一人が包み紙を開けて中身を確認する。
「綺麗な飴だな。これなら女性や子供が喜びそうだ」
「おい、もう一個もらっていいか? うちの子にやりたい」
「おお。俺ももう一個くれ」
「俺も」
大盛況だ。どうやら私の美貌を使わなくとも乗り切れそうだ。
「よし。じゃあ商品はここで受け取るから、この六番の札を持って城に入って待っていろ。」
や、やったあああ!
私とケンは笑顔を交わして馬車に再び乗り込もうとした。
しかし、その時……。
「おい、待て!」
男の一人に呼び止められた。
ドキリと私とケンは振り返った。
「一ケース足りないぞ」
「え?」
私とケンは驚いてテーブルの上を見た。
「そ、そんなバカな……」
テーブルに積み重なったブリキ缶を数えてみる。
だが確かに九ケースしかない。
「そんなはずはない。俺はちゃんと十ケース数えて馬車に乗せたんだ」
「馬車の中に残ってるのかしら?」
二人で馬車の中を探してみても残ってるケースはない。
「な、なんで? 積み残してきたの?」
「でも何度も確認したんだ。ありえない」
焦る私達に、検品係の機嫌が徐々に悪くなってきていた。
「おい! 早くしろ。まだまだ次があるんだ」
「アルフォード様の目通しの時間に遅れたら大変だ」
「ないなら残念だが不備で帰ってもらうことになる」
「ま、待って下さい」
「今すぐ用意しますから……」
そうは言ったものの、どこを探しても見当たらない。
あわてる私達に町馬車の御車が、おずおずと言葉をかけた。
「あのう……出発前に一つ持ち出した人がいましたよ。坊ちゃんが一つ持って来いって言うから取らせてくれって。それにしては店と反対側に走っていくから変だとは思ったんですが」
「ええっっ!?」
「まさか! 俺はそんなこと誰にも頼んでない!」
「で、ですがお店の従業員の方だったんで、一ついらなくなったのかと思って疑わなかったんですが……」
「そ、そんな……」
「誰だ! 誰が持って行ったんだっ!」
御車は申し訳なさそうに小声で言った。
「女の……従業員の方でした……」
セ、セリーヌ?
まさかそんな……。
次話タイトルは「あの人、登場」です




