13、ハンカチの持ち主
「アルフォード家の誰かの持ち物……」
考えてみれば、あの時見た黒馬車は、他のどれよりも豪華だった。
それに腕のいいSPを思わせる従者を連れていた。
よく考えなくても身分の高い人だとは思ったけど……。
アルフォード様といえば、この辺りの王様みたいなもんじゃないの。
「あの……ところで……アルフォード様ってどれぐらい偉いのかしら?」
「ご存知ないのですか? レイラさん」
「え、ええ。なんか偉い人だっていうのは知ってるんだけど」
「この国には十二の領地があり、それぞれに領主様がいらっしゃいます。中でも一番有力だと言われているのが、この西の領地を治めるアルフォード様なのです。他国との取引きも多く、国王様でさえもアルフォード様には逆らえないとまで言われています」
日本で言うところの幕末という感じかしら。
アルフォード様というのは有力藩の殿様のような存在らしい。
「じ、じゃあ、えっとアルフォード家で長い金髪の青年っているかしら?」
「長い金髪? アルフォード家は全員金髪です。そして貴族の男性はほとんどが長髪です」
「そ、そうなの?」
それじゃ全然絞り込めそうにない。
「ですがアルフォード様のご子息なら二人いらっしゃいます」
「息子が二人……」
「長男は今年二十二歳のロイ様。次男は二十歳のレナルド様」
どっちもR・Aのイニシャルじゃないの。
でも、でも、その二人のどっちかで間違いない?
「ですがハンカチの持ち主の可能性は、この二人だけではありません」
「どういうこと?」
「このユニコーンの刺繍を見て下さい。角が短いですよね」
確かに耳と間違えたぐらいだから、そんなに長くない。
「角が短いと何かあるの?」
「子供のユニコーンだと思うのです。三年ほども前の幼い頃ですが、私はこれと同じようなハンカチを見たことがあります」
「ええっ?! そうなの?」
いよいよ核心に近付いてきた。
黒馬車の王子様の正体が判明するのだ。
私はごくりと唾をのんでエミリアの次の言葉を待った。
しかし……。
「子供のユニコーンを刺繍したハンカチは、アルフォード家にゆかりのある男子なら誰もが持っています」
「誰もが?」
「はい。男子が生まれた時に、健康に育つようにと祈りを込めて、守り神のユニコーンを刺繍して贈るのが慣わしのようになっているそうです」
「じゃあ……」
「かなり遠縁の貴族の子息も持っているハンカチだと思います」
「そうなんだ……」
核心に近付いたと思ったのに、誰かを見つけるのは難しいようだ。
私はがっかりと肩を落とした。
「でも……」
「え?」
私はもう一度顔を上げてエミリアを見た。
「このイニシャル。昔のことではっきりと断定は出来ませんが、私の見たハンカチにもこれと同じようなRとAが重なった刺繍がありました」
「ホントにっ?! それは誰?」
私は身を乗り出して尋ねた。
「アルフォード家の子息ではありません。その方はアルフォード家のご子息の従兄弟にあたられる方です。長い金髪をいつもリボンでゆるく結んでいらっしゃいました。年はロイ様とレナルド様のちょうど真ん中、二十一歳です」
ビンゴ!! 間違いない。
「それだわ! その人は誰なの?」
しかしエミリアは少し目を伏せて、言いにくそうに呟いた。
「私の元婚約者……アンソニー・ロックウェル様のハンカチです」
次話タイトルは「修羅場」です




