28、飴ケース売りの美少女
「すごいや、お姉ちゃん」
ネロは小さな岩の上で膝を抱えて座り、私の描く絵をキラキラした目で眺めていた。
スランは希望通りのアメのケースを作ってくれた。
道具でくぼみをつけるだけなので溶接する必要もなく、さすがに仕事が早い。
前世の世界でも充分通用するほど端の始末が上手で、それがむしろいい味を出している。
やっぱりスランのブリキ細工の腕はかなりいいみたい。
そしてその完璧な曲線で出来たケースのフタに私はキャンディーの絵を描いた。
包み紙の両脇をねじったオーソドックスなキャンディーの絵や、赤と白のアメをねじって棒状にした定番キャンディー。ガラスケースに入った色とりどりのアメ。水晶のような氷砂糖。
すべて前世のキャンディーのイメージだが、デザインはいくらでも湧いてきた。
細かい部分にはペン先も使って丁寧に描いた。
マッチケースより50ルッコラも高く売るつもりだから、昨日よりは手がこんで高そうな絵を描かねばならない。
アメを二・三個入れて持ち歩けるぐらいの大きさのケースだ。
ちょっとしたプレゼントや手土産にもいいだろう。
ペン先に絵の具を流し込んで新たな手法で描くたびに、ネロはずっと感心している。
「すごい。お姉ちゃん、上手だね! すごいよ!」
「前世の美大の教授には褒められたことないのにね」
作品にこんな絵を描こうものなら「ありきたりな大衆作品」とバカにされただろう。
「でもこの世界では斬新な新進気鋭イラストレーターよ」
「なに言ってるのかよく分からないけど、お姉ちゃんはやっぱり魔法使いだよ。すごいよ」
ネロは澄みきったブルーの瞳で、訳の分からないことを口走る姉をずっと褒め続けてくれる。
ホントにいい子なんだから。
それだけでテンションが上がって創作意欲が増していく。
「これが乾いたらさっそくロリポップに売りに行きましょう。そして美味しいものを買ってお風呂にも入るわ」
この素直で愛らしい弟になんとしても人間らしい暮らしをさせてあげたい。
今の私はとにかくそのために突き進むことしか考えてなかった。
◇
「アメのケースはいりませんか? アメを持ち運ぶのに便利ですよ。小さなバッグにも入ります。お友達へのプレゼントにも最適ですよ」
私は昨日と同じようにロリポップの前でアメのケースを売った。
幸い今日はサンドラはいなかった。
サンドラの流した風評も、今日の令嬢たちにまで届いてない。
こういう時はSNSのない時代はありがたい。風評の広がりも前世よりずっと遅い。
だが薄汚れた服の貧民の少女に近付いてくる令嬢がなかなかいなかった。
汚らわしいという目で見て通り過ぎていく。
これは今日もダメかと諦めかけた時、彼女が現れた。
「まあ、可愛い! なんてステキなの? 皆さま見て!」
冴子……いや、ナンシーだ。
大げさに叫んで周りの令嬢を集めてくれた。
「本当だわ。出かける時に持っていくのにちょうどいいわね」
「お友達にプレゼントしたいわ。一つ下さいな」
「私は二つ下さるかしら」
私も私もと、あっという間に売れてしまった。
すごい。一つ売れたら後は一瞬だった。
昔のバナナの叩き売りには人寄せ要員としてさくらがいたと聞いたことがあるけど、ナンシーがまさにさくらになってくれた。おまけに……。
「私も欲しいわ。いやだ売り切れ? 次はいつ売りに来るの?」
「明日は売りに来る? 五個欲しいわ」
予約注文まで入った。
「あ、ありがとうございます。明日も必ず来ます!」
言いながらナンシーを見ると、ウインクを返してくれた。
ナ、ナンシーいいいい!!
心の友よおおお!!
これだけでも涙が出そうなほど嬉しかったのに、さらにナンシーは私に近付いてきて信じられないことを言った。
「実は今日もあなたがいないかと思って来たの」
ナンシーの後ろには昨日と同じく執事のような黒服の男性が立っている。
たぶん執事を連れている令嬢は、貴族の中でも格が高いのだと思う。
他の令嬢はナンシーには様をつけて呼び、スカートをつまんで丁寧に挨拶していく。
このナンシーがさくらになってくれたから、これほど一瞬で売れたのだ。
「昨日買ったマッチケースを眺めていて思ったのだけど、あなたは注文も受けてくれるのかしら?」
「注文?」
私はナンシーの緑の瞳を見つめた。
前世の冴子はもちろん日本人なので黒目だったが、彼女は緑目の方が似合うのだと今気付いた。ドレスはシックな色合いとポイントを押さえたフリルだけで、他の令嬢のようにフリル過多になってなくて品がある。冴子は前世でもセンスが良くて嫌みのない美人だった。
そして誰に対しても公正で、人の才能を素直に認められる人だった。
前世ではトリックアート化粧以外で私が認められたことはなかったけど……。
「部屋に置く新しい水差しが欲しいと思っていたの。ずっと部屋に置いておく物だから、眺めていて楽しくなるような素敵なものがいいなと思って。どうかしら。あなたが私のために作ってはくれないかしら?」
「私がお嬢様のために?」
「報酬は……そうね10000ルッコラでどうかしら?」
「い、い、10000?」
夢のような話だ。それだけのお金があれば服も買えるしお風呂だって毎日入れる。
「十日で出来るかしら?」
「は、はいっ! 出来ます!」
「じゃあ十日後のこの時間にここで待ってるわ」
「ありがとうございます!」
や、やったあああ!
いよいよ幸せ回がやってきたわ。
神様、ようやく私にお慈悲を下さる気になったのですね。
少し遅すぎる気もするけど、もちろん文句など言いません。
あなたは憐れな子羊をお見捨てになるような方ではないと信じていました。
ありがとうございます! ありがとうございます!
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※ 現在のレイラの所持金 1500ルッコラ(ただし750はスランに払う)
次話タイトルは「お風呂に入ろう」です。
※レイラの持ち金が変動した時だけ所持金残高を書くことにしました。




