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ブス女ですけど転生して美少女になりましたの。ほほほ。  作者: 夢見るライオン
第一章 レイラ、マッチ売りの美少女になる
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20、嫉妬される美少女

 店に入ってきたのはスランだった。


「どうしたんだ、レイラ? 泣きそうな顔して」

「スラン……」


 スランの顔を見た途端に、こらえていた涙が溢れてしまった。

 だがそれよりも先にネロがわっと泣いてスランに抱きついた。


「おいおい、どうしたんだ、二人とも? そういえばマッチケースはどうだったんだ? 売れなかったのか?」


 スランはネロを抱きとめながら、横で涙をぬぐう私に尋ねた。


「ううん。ちゃんと売れたの。一つ踏まれて売り物にならなくなったけど十六ケース、ちゃんと売ったの」


「十六ケース? すげえじゃん。やったじゃんか、レイラ」


「それで余ったお金でご飯を食べようと思ったんだけど……」

「うん」


 スランは口ごもる私と、気まずそうなおかみの顔を交互に見た。


「い、いやだねえ、もう。誤解しないでおくれよ、スラン。私はヨハンのツケになってたお金を返してもらっただけだよ。お金があるなら返すのが当たり前だろ? ねえ、みんな」


 おかみは他の客に同意を求めるように尋ねたが、さっきと同じようにみんな視線をそらして自分の食事に集中している。


「お父ちゃんのツケにお金を全部とられて、出て行けって」

 ネロが泣きながらスランに訴えた。


「え? 食事もせずに? お金を全部とられて?」

 スランは信じられないという顔でおかみを見た。


「ち、違うよ。なに勘違いしてんだよ、この子は。ツケは払ってもらうけど、今日の分は私のおごりで食べさせてやるって、そう言ってたんじゃないか。本当はまだまだツケが残ってるんだけど、子供に罪はないからね。そうだろ? スラン」


 嘘ばっかり。そんなこと一言も言ってなかったじゃない。

 でも、周りの大人たちも誰も問いただす人はいない。

 だんだん分かってきた。

 この世界の大人は信用ならない。誰も信じてはいけない。


「さ、さあ、料理を持ってくるから三人とも座りなよ。今日はスランもいることだし、特別サービスでホットミルクをつけてやるよ」


 おかみは急に親切な笑顔になって、私達を席に案内した。

 そして店の奥に向かって叫んだ。


「キャロル! キャロル、スランが来たよ。ホットミルクを三つ出しておあげ」


 しばらくすると、トレイにカップを三つ乗せた少女が頬を染めながらやってきた。

 オレンジ色の三角巾をつけてオレンジのワンピースに白いエプロンをしている。


 ワンピースにエプロンというのが貧民の女の子の服装らしいが、私と違ってワンピースに継ぎはぎはないし、エプロンも真っ白で清潔だった。


 茶色の髪を両脇で結び、青い目をしたすらりとした女の子だ。

 だがすらりとしているものの、顔はおかみさんにそっくりだった。

 そしてスランの前に座る私を見止めると、少し口端を歪めた。

 その歪め方がおかみさんと同じだ。間違いなく親子だろう。


「スラン、どうしてレイラと一緒にいるの?」


 キャロルと呼ばれた少女は、どうやら私と顔見知りらしい。


「ここのドアの前で会ったんだよ。偶然だよ」

「そうなの。そうよね、スランがレイラなんかと……」


 キャロルはホッとしたように微笑んでから、ちらりと私を見た。


(え?)


 その目は敵対心に燃えていた。

 同性からそんな目で見られたことがなかった私は戸惑った。


「スラン。この間は手作りの缶ケースをありがとう」

 キャロルは私に聞かせるようにスランに言った。


「ああ。不具合はない? フタをつけるのは結構難しいからね」


「不具合なんてないわ。ぴったりフタが閉まるからとっても便利なのよ。お父さんもこんなのが欲しいって言ってるの。もう少し大きいサイズを注文しようかって思ってるみたい」


 なんだ。スランがプレゼントしたのかと思ったら、仕事の注文だったんだ。


「ありがとう。いつも助かるよ」

「お礼なんて。スランの腕がいいから頼まれるだけよ。お父さんもスランはきっと村一番の……ううん、街一番のブリキ職人になるだろうっていつも言ってるわ」


 なるほど。村一番の出世をしそうなスランに娘を嫁がせたいのね。

 だからおかみはスランに妙に親切なんだ。

 おかみの豹変ぶりの意味が分かった。


 そしてキャロルはスランと世間話をしながら、私をチラチラと見ている。

 やけに私を気にしているのがどうしてか分からなかったけど……。


 はたと気付いたのだ。


 そ、そうだったわ。

 またしても忘れていたけど、私って美少女だったんだわ。


 キャロルは美少女の私にスランがとられないかと心配してるのね。

 自分より明らかに美しい私に嫉妬してるんだわ。


 知らなかった。

 イケメンとただ一緒に座ってるだけで警戒される美人の気持ちなんて。


 だって以前の私はむしろイケメンと会う時の引き立て役として重宝されてきたのだ。

 合コンの誘いは数知れず、彼氏に捨てられそうだという時にもよく借り出された。


 私と一緒にいるだけで、たいていの女子は奇跡の美女に見えるらしい。

 こいつ飽きたな、と思ってた男子も自分の彼女がいかに奇跡的な美女かと気付いて思い直すそうだ。中でも一番それを利用していたのが妹の直子だ。


 直子は彼氏とうまくいかなくなりかけると、私に紹介した。

 そして帰る頃にはラブラブっぷりを見せびらかして用は済んだとばかり私を追い出した。


 その私が……。

 まさか女子から嫉妬されて警戒されるなんて。


 決して友好的な視線ではないけれど、ちょっと気分がいいじゃない。



 その頃の私はまだ……。

 それがどれほどの危険をはらんでいるかも知らず、美少女気分に浸っていたのだった。



次話タイトルは「レイラ、また一つ悟る」です

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