14、試食
「……」
私は呆然とその『物体』を見つめた。
「な、なに、あれ?」
「あんなもの見たことないわ」
「食べ物なの?」
「うそでしょ。どこを食べるの?」
「どこかに目がついてるんじゃないの?」
「恐ろしいわ。なんてことでしょう」
周りの婦人たちがザワついている。
「あんなもの切ったら血が飛び散るんじゃなくて?」
「ああ、恐ろしいわ」
どうやらこの国にはなかったものらしい。
うん。インパクトはあるわね。
私も思わず叫びそうになったもの。
見たことのない人には恐ろしいものに見えるのかも。
しかもこのクロッシュから徐々に見えたから恐怖が増したのね。
「皆さま、心配なさらないで。これは植物でしてよ」
サンドラが周りを鎮めるように言い放った。
そう。私はよく知ってる果物だ。
「南国でとれるパイナッポウと言いますの」
ん? パイナッポウ?
パイナップルでしょ?
なんで語尾だけ妙に発音がいいの?
いきがってる帰国子女みたいな言い方はやめてちょうだい。
「パイナッポウですって」
「まあ、聞いたことがないわね、パイナッポウ」
ほら、あなたがそんな言い方するから、みんなパイナッポウで覚えちゃったじゃない。どうするのよ。
それにしても、びびったわ。
パイナップルの皮って大きなウロコに見えて結構グロテスクなのよね。
しかもワニかドラゴンを想像していたところからの葉っぱのヘタは怖かったああ。
何が出てきたのかと思ったわ。
でもこうやって見ると、前世で見慣れたパイナップルだわ。
まったく! 驚かさないでよね。
「さあ、遠慮なく召し上がって下さいな、レイラ様」
サンドラは勝ち誇るように言った。
勝ったつもりでいるのね。
他のご婦人のように怖がってナイフも入れられないと思ってるんでしょうけど。
「まあ! こんな貴重なものを私が頂いてよろしいのですか?」
私はにっこりと微笑み返した。
「ええ、どうぞ。遠慮なさらないで」
「ではいただきますわ」
私はフォークを手にすると、グサリと皮の部分に刺して横に倒した。
その途端「きゃあああ」という悲鳴があちこちで上がった。
見たことのないご婦人たちは、本当に血でも噴き出すんじゃないかと思ったようだ。
私は気にせず、ナイフでギコギコとヘタの部分を切り取った。
またしても悲鳴が聞こえてくる。
パイナップルなら任せてちょうだい。
前世でも大好きでよく食べてたわ。
うん。このナイフ、切れ味最高。
さすがアルフォード家のナイフだわ。
上下のヘタをとって縦に置くと、豪快に半分に切り分ける。
「まあ! 黄色いわ」
「本当に植物でしたのね」
「なんだか甘い香りが漂ってきましたわね」
これならりんごより簡単だわ。
見事な手さばきであっという間に軸を取って八等分した。
「なんてことでしょう」
「まるで切ったことがあるような手さばきですわね」
「でも貧民だったのでしょう?」
「南国の食べ物なんて知るはずないでしょうに」
「な!」
サンドラは驚いた顔で私の手元を見つめている。
そしてぎりりと唇を噛みしめた。
やがて皮を皿のようにして一口サイズに切り分けるとサンドラに微笑んだ。
「よく熟れてますこと。いただきますわね」
ぱくりと頬張ると甘い果汁が口に広がった。
おいしー!
この異世界でパイナップルにありつけるなんて。
「よろしかったらクリスティナ様もいかがでしょうか? フルーツは肌に良いと聞きますわ」
さすがに一個全部食べるのは多過ぎる。
「……」
クリスティナ様は果汁の溢れるパイナップルと私の顔を交互に見比べた。
そしてこくりとうなずいた。
「もらいましょう」
私は同じように切り分けてクリスティナ様の前の皿に乗せた。
「皆さまもいかがですか? とてもおいしいですわよ」
円卓の婦人たちもクリスティナ様に倣ってうなずいた。
「じ、じゃあもらおうかしら」
「肌にいいなら食べてみたいわね」
よっしゃ!
これで完全勝利ね、サンドラ。
サンドラだけが受け取らずにひたすら私を睨み続けていた。
次話タイトルは「ロイ様からの招待状」です




