12、反撃
「どうでしょうって何よ」
「あんなものをクリスティナ様に食べさせようとなさるつもり?」
婦人たちが蔑むように言った。
「いいえ。嫌だったら無理にとは申しませんけど」
私はもったいつけるように言った。
「どういう意味ですの?」
「うふふ。負け惜しみもたいがいになさいな」
「これだから卑しい生まれの者は身の程知らずで困るわ」
円卓の婦人たちが口々に私をののしる。
その婦人たちに私はにっこりと微笑んだ。
「ええ。皆さまのおっしゃる通り、残念ながら私はあまり良い環境で育っておりませんでしたの。ですがどういうわけか、このクッキーを食べるとどんどん肌にツヤが出て白くキメ細かくなってまいりましたのよ」
「な!」
婦人たちはまじまじと私の肌を見つめた。
もちろんこの中の誰にも負けない玉のような肌だ。
でもクッキーのおかげではない。
前世から持ち込んだパックや美容液で荒れた肌を丁寧にケアしたからだ。
でもその程度の嘘ぐらいついてもいいわ。
だっておばさまの心を込めたクッキーを侮辱したんだもの。
「このクッキーにはきっと美白効果があるのではと、クリスティナ様にお持ちしましたが、残念ですわ。お猿さんが美白肌になってしまいますわね。おほほほ」
「……」
婦人たちが動揺した顔を見合わせた。
「まさかほんとうに?」
「でもあの方の肌は確かに美しいわね」
「貧民があそこまで美しい肌になるなんて」
「本当かしら」
美のためなら努力を惜しまない婦人たちだ。
美白と聞いたら黙っておけない。
しかもそれを証明するほど私の肌は手入れが行き届いている。
「皆さま! だまされてはいけませんわ!」
しかしサンドラが立ち上がって叫んだ。
むー。サンドラめ。
いっつも私の邪魔ばかりして。
「そんなの嘘に決まってますわ。クッキーで肌が白くなるなんてあるはずないもの!」
ご名答。
クッキーに美白効果なんてないわよ。
でもあなたにだけは言い負かされるわけにはいかないの。
「さようでございますか? 残念ですわね。では無理にとは言いません。どうぞ庭のお猿さんに分けてやって下さいな」
私は籠を持ったまま立つ執事に告げた。
「は、はい……。では……」
執事は戸惑いながらも私の申し出通りに籠を持って出ていこうとした。
だが。
「お待ちなさい」
クリスティナ様が執事を呼び止めた。
みんながクリスティナ様に注目する。
「そのクッキーは私のお部屋に運んでちょうだい」
サロン全体がざわざわとどよめいた。
「え? ですが猿に……」
「よいから私の部屋に運びなさい!」
「は、はい。かしこまりました」
クリスティナ様に命じられ、執事はあわててサロンを出ていった。
「まあ、クリスティナ様がお認めになったわ」
「それほどあの方の肌が綺麗ってこと?」
「ここからではよく見えないけど」
「私もその美白クッキーが食べたいわ」
「手に入れられないものかしら」
婦人たちがそれぞれのテーブルで騒いでいる。
よっしゃー! 勝ったわ!
サンドラめ。どうよ。
サンドラは鬼のような形相で悔しそうに私を睨みつけていた。
ふんだ。
そんな怖い顔しても負けないんだから。
あなたがエミリアにしたことに比べたら、こんなの屁でもないわ。
こんなの序の口だからね。
心の中で強気に毒を吐く私だったが。
そんな私にサンドラは急ににこりと微笑んだ。
「そうだわ。忘れるところでしたわ」
な、なによ。
「今日は初めてご招待したあなたにプレゼントを用意してましたの」
次話タイトルは「サンドラのプレゼント」です




