11、直接対決
「スチュアート公爵令嬢? あなたが?」
クリスティナ様の目が一瞬見開いた。
だが他の婦人たちはもっと目を丸くしている。
ざわざわとあちこちで話し合う声がする。
「はい。レイラと申します。クリスティナ様」
「……」
クリスティナ様はじっと私を見つめた。
う……。
なに、この目力。
圧倒されて動けなくなる。
落ち着いて、落ち着いて。
私は美少女。私は美少女。
なんかおまじないみたいになってるわね。
そのまま一分ほども無言のまま私を見つめた。
それからふいっと隣に座る今日の勝利者フランソワに目を向けた。
「そこをおどきなさい、フランソワ」
クリスティナ様が言うと、フランソワは慌てて立ち上がった。
「は、はい。失礼いたします、クリスティナ様」
そして一礼して自分の席に戻っていった。
クリスティナ様の隣の席が空いた。
そしてその席を扇で指し示し、私を見た。
「お座りなさい、レイラ」
その言葉に周りがどよめいた。
これはどういうどよめき?
やばいことになってる?
やっぱりやばいことになってるのよね。
落ち着いて、落ち着いて。
私は美少女。私は美少女。
ダメだああ。おまじないが効かなくなってきてるよー。
えーい、もうどうとでもなれー!
「失礼いたします」
座ろうとすると、メイドが三人ほどやってきてドレスのスカートを整えてくれた。
この円卓は別格なんだ。
テーブルの上のティーカップも金の絵付けがされていて高そう。
割ったらえらいことになりそうだ。
ステラおばさまはきっと破産してしまう。
気をつけなきゃ。
給仕係がやってきてフランソワのカップを下げて、私のカップを用意して注いでくれた。
「さあ、お飲みなさいな、レイラ」
「は、はい」
まさか毒が入ってるとかじゃないわよね。
それとも笑い薬とか。
サンドラの余興って笑い薬で笑い転げて恥をかかせるとかじゃないよね。
おそるおそるティーカップを持って一口飲んだ。
「……」
とりあえず笑い薬ではなさそうだ。
おいしいローズティーだ。
う……。
どうでもいいけど、じっと見られてる。
さっきからクリスティナ様が目線をはずしてくれないんだけど。
「ねえレイラ。あなたのそのメイクは誰がしたのかしら?」
おもむろにクリスティナ様が尋ねた。
「え?」
「スチュアート夫人は公爵が亡くなられてからは隠居生活で、ファッションなどにも無頓着とお聞きしたけれど、誰か特別なメイク師でも呼んだのかしら?」
「あ、いえ。これは私が自分で……」
「自分で?」
クリスティナ様は驚いたように聞き返した。
「まあ! ご自分でメイクなさったんですって」
「スチュアート夫人はメイク師も雇えないほど困ってらっしゃるのね」
「でもそれにしてはうまくできてますわね」
円卓の他の婦人の言葉を無視してクリスティナ様はさらに尋ねた。
「その紅はどこで手に入れたのかしら?」
「これは……自分で色粉を調合して蜜蝋を混ぜて作りました」
「自分で調合?」
私のメイクが気になってたのね。
それでさっきからじっと見てたんだ。
さすが美を極めたクリスティナ様だわ。
見たことのない化粧品の出所を知りたかったらしい。
こんなことなら私の作った化粧品を手みやげにすればよかった。
「クリスティナ様、それよりも彼女の持参した手みやげですわ」
「そうそう。手作りクッキーなんて」
「クリスティナ様を侮辱してますわ」
サンドラを筆頭に、円卓の婦人たちが余計なことを思い出した。
クリスティナ様は悪ぶれもせずに答える。
「この城の中庭には猿がよくやってくる。あれのエサにすればよい」
クリスティナ様が言うと、婦人たちがぷっと笑い出した。
「まあ、それはよい考えですわねクリスティナ様」
「猿でも食べないかもしれませんわよ」
「ここのお猿さんは口が肥えてますものね」
むっかあああ!
ステラおばさまが一生懸命心を込めて作ったクッキーを猿のエサだなんて。
許せないわ。
見てらっしゃい。
「それはどうでしょうか、皆さま」
私は微笑みながら婦人たちを見回した。
次話タイトルは「反撃」です




