10、美少女降臨
サロン中の全員が突然立ち上がった私を見た。
「どなた?」
「誰かしら? 見たことのない顔だわ」
「お美しい方ね。どこのご令嬢かしら」
みんながコソコソと話している声が聞こえる。
リリアナも驚いた顔で私を見ている。
「なに? 誰なの、あなた」
サンドラはロリポップで会った私に気付かないのか、怪訝な表情で尋ねた。
落ち着いて、落ち着いて。
こういう時は間が大事なの。
シモンヌに教わったとおり、完璧な振る舞いでゆっくり歩く。
慌ててはダメ。
貴族はどんな時も優雅に毅然とした態度で。
注目を浴びた時こそチャンスよ。
みんながゆっくりとクリスティナ様の元へ歩いていく私を見つめている。
大丈夫。
だって私は美少女だもの。
誰もが思わず見惚れるほどの美少女だもの。
前世でどれほど望んでも手に入れられなかった美貌を持ってるんだもの。
美人にさえなれたら、どんな苦労だって耐えてみせるって何度も願った。
その願いがかなったんだから、怖いものなんて何もない。
全員が堂々と歩を進める私を呆然と見送っている。
そしてクリスティナ様の前までたどり着くと、姿勢を正しまっすぐ立った。
ドレスを軽くつまみ、習った通りに腰を低く落とす。
どこからともなく、ほうっというため息が聞こえてきた。
「なんて気品のある方なのかしら」
「あの白く美しい肌をごらんになって」
「あの髪はどちらの髪結師にやってもらったのかしら」
「口紅の色が素敵ですわね。あの色はどこで買ったのかしら」
あちこちで囁く声が聞こえる。
顔を上げると、クリスティナ様の射抜くようなブルーの瞳があった。
う……。
気圧される。
さすがに頂点に立つ人はオーラが違う。
圧倒されそうになる気持ちを必死で立て直す。
「先ほどはお名前をお呼び頂きながら立ち上がることが出来ず失礼致しました。ケーキの洋酒に少しばかり酔ってしまいました」
私が言うと、クリスティナ様はゆっくりと首を傾げた。
「呼んだ? あなたを?」
「はい。お名前を呼んでいただきました」
ざわざわとみんなが騒ぎ始めた。
「お名前を呼んだって……」
「じゃあまさかあの美しい方が……」
「うそでしょ」
「だって元貧民だって……」
私はまっすぐ顔を上げ答えた。
「スチュアート公爵令嬢、レイラでございます。お初にお目にかかります」
名乗った途端、サロンがしんと静まり返った。
次話タイトルは「直接対決」です




