9、レイラ、立つ
「クレマン侯爵令嬢、リリアナ様。どうぞ前へ」
執事が名前を読み上げると、一斉にみんなの視線がさっきの四人組に向かった。
四人は青ざめた顔でガタガタと震えている。
「リリアナ様、お立ちください」
さらに執事が言うと、四人のうちの一人が蒼白な顔で立ち上がった。
ガタガタと震えて、今にも気を失いそうな顔色だ。
「リリアナ様はゴディチャゾフのチョコレート菓子を贈られました」
執事はチョコレートの入った箱を掲げ見せた。
「ゴディチャゾフのチョコレート?」
「あれは一番高いセットよね」
「クリスティナ様はあそこのチョコがお気に入りだと聞いたけど」
「どうしてご不興なのかしら」
令嬢たちがコソコソと話している。
それに答えるように執事が言い放った。
「ですが一部のチョコレートが溶けてつぶれていました。保存の悪いものをクリスティナ様にお渡しするなど失礼千万であると、お側付きのご婦人たちよりご指摘がございました」
よく見ると確かに端の方が溶けてつぶれている。
いや、よくない?
味は同じなんだから。
もらったチョコが溶けてたからって騒ぎすぎでしょ。
「あーあ、やっぱりサンドラ様よ」
「きっとサンドラ様が細工なさったんだわ」
な!
まさかサンドラが溶かしておいたの?
彼女たちが選ばれるように?
我が妹ながら、なんてクソったれ女なのよ。
いや、この異世界では妹なんかじゃないわよ。
まったくの赤の他人なんだから。
心底軽蔑するわ。
「さあ、どうぞ前へ。クリスティナ様の前においで下さい」
「……」
リリアナ嬢は、気の毒なほど震えている。
「サンドラ様に嫌われたら終わりよね」
「エミリアと仲のよかった人たちは次々にいなくなってるものね」
「残ったのは簡単に失脚させられない身分の高いあの四人だけよ」
「でもあの四人も時間の問題よ」
「なんとかクリスティナ様のご機嫌をとってこいと送り出されてるみたいだけど」
「サンドラがいる限り、そんなの無理にきまってるわ」
なんか、だんだん見えてきたわよ。
やっぱりエミリアのことはサンドラが仕組んだのね。
そうに違いない。
「リリアナ、何をしてるの? 早くいらっしゃいよ」
サンドラが勝ちほこったように真ん中の円卓から声をかける。
その声にリリアナはびくりと肩を揺らした。
ガクガクと手がふるえ、涙をためている。
かわいそうに。
今までよほどひどい目にあってきたのね。
許せない。
許せないわ、サンドラ。
「早くなさいよ! クリスティナ様をいつまで待たせるおつもりなのっ!!」
強い口調でサンドラが言うと、リリアナは「ひっ!」と小さな悲鳴を上げた。
無理だわ。
この育ちの良さそうな令嬢では太刀打ちできない。
かといって私に何ができるわけでもないけど。
ないけど。
この気弱な少女よりは立ち向かえる。
どうせ元は貧民だもの。
プライドもない。
さらにはブス女生活二十年の雑草根性もあるわ。
落ちたところで元の貧民生活までは戻らないでしょう。
怖くなんかないわ。
リリアナがふるえる足を一歩出そうとしたところで、私は勢いよく立ち上がった。
「お待ち下さい!」
次話タイトルは「美少女降臨」です




