6、心臓に悪いお茶会
「なんだ、あれで終わり?」
「案外あっさりだったわね」
「もっとすごいことになるかと期待してたのに」
前に立つ令嬢たちのひそひそ声が聞こえた。
どうやらこういうことは日常茶飯事らしい。
毎回誰かがクリスティナ様の機嫌を損ね、罵倒されるらしい。
そのための生贄。
そのためになんらかの事情で貴族になった女性が招待されるんだ。
そして成り上がり者の洗礼を受けて泣く泣く帰っていく。
ここはどうやらそういう会らしい。
「でもほら、今回は大本命が残ってるじゃない」
「そうそう、貧民上がりの成り上がり者がね」
前の令嬢たちが楽しそうに話している。
それって私のこと?
やっぱり私はそのために招待されたの?
でもなんでみんな私のことを知ってるの?
誰が言ったの?
ザックは言うわけないし。
ロイ様が?
でもロイ様は私の味方なんじゃなかったの?
その答えは次の会話に含まれていた。
「サンドラ様が面白い余興を用意していると言ってたでしょ?」
「うふふ。私もそれを楽しみに来たのよ」
な!
サンドラ?
サンドラは私のことを知ってるの?
なんだってサンドラが私のことを……。
「あなた! 前に出なさい!」
再び怒鳴り声が聞こえて、ひゃっと叫びそうになった。
まさか私のことかと思ったが、違った。
「も、申し訳ございません」
呼びつけられたのは、前列の女性だ。
あれは……。
確か私の前の白い馬車に乗っていた貴婦人だ。
大きなカツラを付けて、華やかな装いのご婦人だった。
さっきの平民出身の女性と違って、流行のドレスだと思ったけど。
「そちらのあなたも出てきなさい」
「も、申し訳ございません」
他のご婦人も前に出されている。
そのあと五人ほどの婦人たちが呼びつけられていた。
みんなに共通するのは……。
紫のドレス……。
「なぜ呼ばれたかは分かってるわね。すぐに出ておいきなさい!」
「は、はい。申し訳ございません」
紫のドレスを着た婦人たちは、そそくさとサロンから出て行った。
うそでしょ?
まさかクリスティナ様の紫のドレスと色がかぶってるから?
そんなことで追い出すの?
まるで昔の芸能界の大女優の掟みたいなことが本当にあるの?
「あー、危なかったわ。今日は紫のドレスとどちらにするか迷ったのよ」
「お側付きの方たちはいいわよね。事前にクリスティナ様のドレスの色をご存知なんだもの」
「私たちは毎回ひやひやしながらドレスの色を選ぶのにね」
なんて心臓に悪いお茶会なのかしら。
のん気にお茶なんて飲んでられないわよ。
こんな会に、なんだってみんな来るのよ。
私はもう二度と来たくないわ。
エミリアの友人たちにしたって。
青ざめた顔でうつむきながらも、なんで来るの?
絶対楽しんでないじゃない。
ようやく自分の席にたどりついたクリスティナ様はメイドが五人がかりでドレスの裾を持ち上げて、ゆっくりと着席した。
「みなさま、ご着席ください」
執事の合図で他のご婦人たちも椅子に座った。
それと同時に給仕係がティーポットを片手にお茶をついで回る。
そして部屋の四隅に立つバイオリン弾きが音楽を奏でて、お茶会が始まった。
次話タイトルは「乙女会の実体」です




