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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
幸せの場所へ

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迷子の仔猫(9)

 思う存分泣くがいいさ、ロイス。流した涙が乾いた時、お前は一つ大人になってる。相手に我を通さず、「思いやる」という心を知る大人にな。


 泣き声に引き寄せられる魔獣(こもの)なんか俺に任せとけ。いくらでも退けてやる。だから、今は相棒に甘えて好きなだけ泣けばいい。


「ちょっとゆっくり走るでやんす」

 お前も男だな、ラウディ。

「へへ、こんな泣き顔を雌に見られるのは恥ずかしいでやんしょう?」

 夜になるまでに帰れりゃいい。


 ホルスやアムリナもそれなら心配しないだろう。泊りも覚悟するようリーエから伝えてあったが、八歳の子供が夜営は親としちゃ不安しか無いじゃん。


 薄暗くなる頃になってプリムントの宿場町に着いた俺たちはすぐにホルスの魔法具店へと帰る。相棒に付き添われたロイスは、お袋さんの顔を見るとまた涙があふれてきたみたいだ。迎えたアムリナに取り縋って嗚咽を漏らす。


「ロロは無事に両親に会えたのね?」

「うん」

 立派だったぞ、あんたの息子は。

「偉かったわね。ちゃんと送り届けてあげて」

「うん、良かった。寂しいけど……、本当に良かったって思ったんだ。だって、ロロにはお父さんもお母さんもいて……、兄弟も……、ふえっ、いっぱい……、くぅっ、いて……、とっても……、ふぅんっ、嬉しそうで、楽しそうで、はぁ、家族と一緒が一番だって思ったから」


 むせび泣くロイスは言葉に詰まりながらも、一生懸命自分の気持ちをお袋さんに伝えようとしている。な、アムリナ、良い子に育ってんだろ?


「ええ、良かったわね。ロロもあなたに感謝してると思うわ。それに幸せになってほしいと思っているはず」

 正しいな。その通りだ。

「ね、その涙も大切だけど幸せにならなくてはいけないの。あなたにも家族が増えるんだから、その子も幸せにしてあげて。キグノみたいにちゃんとお世話してあげてほしいわ」

「え? 家族?」

 やっぱりか。妊婦の匂いだもんな。

「本当ですか? おめでとうございます!」

 ロイスを差し置いて、なんでそんなに嬉しそうなんだ、相棒。

「えと……、僕、お兄ちゃんになるの?」

「そうよ。今のロイスなら素敵なお兄さんになれるね」

「はぁ、すごい……」


 おいおい、そんなボーっとしてるようじゃ立派な兄貴になれないぜ。まあ、産まれるまでには心の整理も付いてるだろ。


「お願いね、お兄ちゃん」

「うん!」

「ロロよりずっと大変よ? だって一()近くも歩くことさえできないんですもの」

 産まれたばかりの人間は手間が掛かって仕方ないもんな。

「頑張って、ロイス」

「うん、僕頑張るよ。ロロに負けないよう、早く大きくなるんだ」


 いや、そいつはちょっと無理な相談じゃん。


   ◇      ◇      ◇


 それから数陽(すうじつ)はホルスのとこに世話になってた。親父さんは今回の件を依頼にして冒険者報酬を払いたいと言ってくれたが、相棒は遠慮して受け取らなかったのさ。口にはしなかったが、近しい人間として手伝っただけだって思いたかったんだろうな。

 その代わりと言っちゃなんだが、例の魔法具ランプを格安で譲ってもらう。まだ旅暮らしは続くから便利じゃん?


 別れの時がきて少し寂しそうなロイスだけど、今度は泣いたりせずに笑顔で送り出してくれる。ロロとの経験はこいつを一回りも二回りも強くしたんだ。


「これは間違いないのよ。ロロはロイスのことを絶対に忘れたりしないから」

「うん、僕も絶対に忘れない。リーエのことも。いっぱいありがとう」

「ええ。じゃあね。素敵なお兄さんになってね、ロイス」

 達者でな。


 リーエは今回のことを噛み締めるように俺の横を歩いてる。ラウディは乗ってもらいたいようだけど、今は空気読んどけよ。


「ずるいね、わたし。キグノとは絶対に離れたくないって思っているのに、ロイスにはロロとお別れするのが正しいなんて言ったりして」

 状況が違うだろ? お前には俺しかいなかった。


 伯父のクローグは到底無理。伯母のウィスカは受け入れてくれそうだったけど、俺のことで悩ませるのは気兼ねだったんだろう。それくらいの距離があったって意味だな。


「でも、驕りじゃないって思っていいでしょ? キグノもわたしの傍が一番幸せだって」

 当たり前じゃん。


 前はな、思ってた。

 お前を幸せにしてくれるやつの所へ送り出したら、あとはシェラードとお祝いとお別れをして野へ帰ろうってな。それが正しい形だって思ったのさ。

 今となっちゃ馬鹿な考えだったって分かってる。俺がお前と離れたくないんだよ。気付いちまった以上もう無理だ。俺はどこへでも付いていくぜ。後悔すんなよ。


「ねえ、キグノ。もしもの話よ」

 なんだ? やぶからぼうに。

「もし、ホルツレインの辺境に大牙獅子(グレートファング)と肩を並べて戦う冒険者が現れたら素敵だって思わない?」


 相棒は俺の耳に頬を寄せて、内緒話をするように夢物語を吹き込んでくる。


 そいつはいくらなんでも、おとぎ話みたいででき過ぎじゃないか?

「ね、面白くないかな?」


 冗談としちゃ笑えるぜ。頬っぺたぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第九十八話はさよならのその後の話でした。この辺りの展開は作者にも辛い感じでした。感情移入で、ちょっとぶりに書きながら涙を流してましたとも。

とはいえ、エピソードもお終い。次は懐かしのホルムトへ。

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