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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
放浪の旅路

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ジリエト商隊護衛(9)

 ミニング傭兵団の馬鹿どもは、こいつらが元々乗ってきた馬車に縄で縛って放り込む。

 お人好しの相棒は、苦しんでいる者に治癒(キュア)を使おうとしたが、隊商主キエルに説得され命に関わりそうな奴だけに限定した。犯罪者なのだから苦しむのは仕方ないと言われたのさ。

 何人かはキャブリの牙の攻撃で命を落としていたが、そいつらも一緒に放り込んである。そのまま近くの町の衛士隊に引き渡すために。


「おい、衛士! あの魔犬を殺せ! 俺たちはあいつにやられたんだ! 人間を襲ったんだぞ!?」

 なんだ、腹いせか、オリファ?

「黙っていろ。お前の証言など聞いていない」

「聞く必要はありませんよ。単なる嫌がらせです」

 素知らぬ振りか、キエル?

「よく考えてみてください、衛士殿。もし、あの連中がキグノに襲われたんだとしたら、今ごろ彼の胃袋の中身に化けているでしょう? 確かに俺が雇った護衛、『魔犬使い』フュリーエンヌさんの相方は闇犬(ナイトドッグ)です」

 商人だけあって話術は巧みだな。

「魔獣が人間を襲って殺しもしないなんてあり得ませんでしょう? 死体もありますが、あれはキャブリの牙のメンバーが斬り殺しています。それだって護衛任務での正当防衛ですとも」

「ああ、そうだな。だいたい噛み痕も爪の引っ掻き傷も無いっていうのに、魔獣に襲われたって主張がおかしい。牙を剥かれて脅されて、へっぴり腰になったところをやられたんだろう」

「俺らがそんな腰抜けだっていうのか!」

 吠えてるな。

「うるさいな。そんな重武装で往来を闊歩するのは傭兵だから許されていたんだぞ? 盗賊団に堕ちたんだから、どうせ貴様らは傭兵ギルドに縁を切られ、鉱床で強制労働の陽々(ひび)が待ってる。年寄りになって働けなくなるまでだ。覚悟しとけよ」

「冗談じゃない! そんなの真っ平御免だ!」


 結局鉱床で働く羽目になるんなら、最初から頑張れば良かったのにな? それなら強制労働みたいな過酷な環境に放り込まれたりしなかったじゃん? 愚かな連中だぜ。


   ◇      ◇      ◇


 そこからメレスティまでの道のりは何事もなく平穏そのものだったぜ。


「庇ってくださってありがとうございます、キエルさん」

 助かったぜ。

「なに、あのキグノの魔法はあまり大っぴらにしたくなかったんだろう? せっかく良いものを見せてもらったんだ。自分たちの秘密にしときたいもんじゃないか」

「そうしていただけると、彼を興味本位で研究材料にされないで済みます」

「また縁があったら頼むよ。これほど強力な護衛はそうそう居ないからね?」

 縁があったらな。


 堅刃(ロブストブレード)は切り札だから確かにあまり見せたくはないな。それに、使っている俺にもよく分からない点がある。


 そもそも魔法全般に言えることだが、あまりにイメージに偏り過ぎてる。

 堅刃を浮かせるのは簡単なんだ。イメージ通りに動かすのも容易。でも、それって妙な話だろう?

 土属性に適性が高いからできる? そんな単純な話じゃないと思うぜ。


 それなら自分の身体だって浮かせて飛べてもいいはずなんだ。身体の中には俺の制御できる土系に属する成分だって結構ある。骨もそうだし、血の成分だって鉱物だ。土の主成分である珪素も、動物の身体の至るところに利用されてる必須鉱物。

 それらも制御できなきゃ変だろう? 理論的には身体も浮かせて飛べるはずなのさ。


 しかし、現実にそういうことはできない。魔法で空を飛べないのは厳然とした事実なんだ。その辺りに大きな矛盾があるのが不思議でならないじゃん?

 こりゃどうも人間や魔獣の持つイメージってやつに何か絡繰りがありそうだって俺は思ってる。


 そんなことをつらつらと考えたり、世間話に耳を傾けたり、相棒や双子の恋愛話を聞いたり、フィンや双子をぺろぺろしたりしているうちにメレスティに到着した。


   ◇      ◇      ◇


 依頼料も入り、危険手当までたっぷりとはずんでくれたキエルを中心にお疲れさま会が始まった。太っ腹だぜ。そうとう上機嫌なんだな。


「納品の成功に乾杯!」

「今回も良い商売ができたぜー!」

「どうせがっぽり儲かったんだろー?」

 酒が入って、発言も大胆だな?

「当たり前だー! 食えー! 飲めー!」

「ひゃっはー!」


 騒ぐのはいいから俺にも分け前をよこせ。酒の肴は味が濃いものが多いから、いいところを選んでくれよ? ひゃっほう! 騒ぐぜ騒ぐぜ!


「リーエはこれから魔境山脈横断隧道(トンネル)をくぐるんだよね?」

「はい、そのつもりです」

「西方かー。俺たちもいつか行ってみようかなー?」

 いつでも行けるんじゃないか?


 どうやら地方を跨ぐとなると度胸が要るらしい。そのくらい勝手が違うんだとさ。

 文化も違えば常識も違う。そこに飛び込むってのは、いかに冒険者といえども結構な冒険になるみたいじゃん。

 それを聞いて少し不安げだな。まあ、俺たちは冒険者だ。未知なる挑戦はつきものだろ? 行こうぜ、相棒。


「よし、じゃあ、リーエの前途を祝して乾杯!」

「乾杯!」

 お前ら、乾杯できるならネタは何でも良いんだろ?

「行ってきます!」

「頑張れー!」

「楽しんでねー!」

 美味い食いもんを分けてくれるから別にいいけどな。


 塩っぱいぜ。でも、皿までぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第八十六話は護衛依頼完遂の話でした。ジリエト商隊護衛はこれで終了です。キグノたちはトンネルに入り、西方へと旅立っていきます。次のエピソードが終わったら「放浪の旅路」に一区切り付けて、新しい章にしようかな? 次が最終章になるでしょうから。

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