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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
放浪の旅路

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ジリエト商隊護衛(5)

 商隊の警護は話に聞いた通り、のんびりとしたものだった。メレスティへの魔境山脈横断街道は十分に整備されていて、商人の行き来も多い。それは警護の付いた人間の往来が激しいという意味。結果的に魔獣は近寄りがたい場所になる。移動の際は、おそらく人間の往来が止む夜間を選んでいるんだろう。


 それでも全く近付かないわけではなく、はぐれ魔獣が姿を見せるくらいのことはあるようだぜ。一度だけ姿を見せた泥犬(マッドドッグ)はすっ飛んでいって一撃で仕留めてやった。街道に迷い込んで人間に牙を剥くような間抜け野郎はさっさと片付けとくに限る。

 俺が役に立つと分かったキエルは満足げだ。これで相棒の顔は立っただろう。あとは呑気にさせてもらうぜ。


「ここは広くて走りやすいでやんすよー」

 気分がいいな。見通す先までずっと道ってのは。

「真っ直ぐだから全力で走りたくなるでやす。でも我慢するでやんす」

 そうしてくれ。こいつは相棒の仕事だからな。

「おいらの仕事でもありやんしょう?」

 まあな。


 どうも馬車についていくだけで終わる仕事になりそうじゃん? 俺の出番もそうは無さそうな気がするぜ。結構なこった。


「フィンさんの武器って槍ですか?」

 そういえば泥犬が出やがった時に、柄の長い武器を持ってたな。

「ああ、これ?」

 ひょいと取り出すから、やっぱり『倉庫持ち』なんだな。

「ハルバードっていうのよ。突いても斬っても叩いてもいい雑な武器ね。俺に似合ってると思わない?」

「そんなことありません。長いから扱いに慣れるの大変そうです。戦闘系の方って普段から練習とかいっぱいしなくちゃいけないんでしょう? 尊敬してます」

「いい子いい子」


 リーエはスフィンウィーに頭を撫でられて嬉しそうだ。上の姉妹みたいに感じてるんじゃないかと思う。兄弟姉妹がいたら道も変わったのかもしれないが、今の家族は俺だけだもんな。


   ◇      ◇      ◇


 それからも何事もない道が続く。


 相棒に話を聞いたペセネとセドネが俺に乗りたがってそうそうに音を上げたり、ロッドリングに目を付けたニルガーンが欲しがって価格交渉してきたりもしたが、それらはみんな道行きの座興ってやつだろう。

 そんな感じだとラウディも俺も大きな出番のないまま依頼を終えられるって安心するじゃん。こんな仕事ばっかりなら冒険者暮らしも面白いよな。


「どうしたの? すっごく楽しそうだけど。それ、さっきのメッセージ?」

「はい。返事がくるなんて思ってなくって嬉しくって」

 ちょっと驚きだよな、相棒。


 今夜の泊りの宿場町で、一応冒険者ギルドに立ち寄ったリーエにメッセージが届いてたんだ。

 このメッセージっていうのは、冒険者徽章書換装置の情報通信機能を利用した、伝文のやりとりができるサービス。それぞれの地に置いてある伝文装置と違って、徽章を持っている人間ならどこでも受け取れるし、もちろん所在が明らかな相手にも届けられる。

 冒険者登録を済ませたリーエは、アルクーキーのルドウ託児院のモリック宛てで、自分が冒険者として旅している旨のメッセージを送っていたのさ。それの返事をここで受け取ることになるとは俺も思ってなかったけど。


『君が治癒魔法士として無事に旅を続けているのを喜ばしく思っている。コストーたちに伝えると皆安心するとともに非常に喜んでいた。彼らが強く望んだので、こうして返事を送ることにしたので、皆の声を伝えよう。  モリック


 元気そうでなによりね、リーエ。私たちと違って旅慣れているあなたのこと、心配するのは差し出がましいのかもしれないけど心だけは受け取ってね。  レイデ


 元気ですか? あれからステインガルドは重苦しい空気でいたたまれない気持ちだったけど、僕たちはすぐにアルクーキーに引っ越しました。最初は少し戸惑ったけど、今はここでの暮らしにも慣れてきました。リーエも頑張ってください。  コストー


 リーエがいなくなって寂しかった。何度も泣いちゃったけど、アルクーキーにもお姉ちゃんがいっぱいいて慰めてくれたので大丈夫です。でも、やっぱりリーエとキグノに会いたいです。  ルッキ


 アルクーキーは人も物もいっぱいでびっくりした。リーエが言った通り、お菓子ばっかり食べないように頑張ってるよ。リーエも頑張ってください。  パントス』


 あいつらも元気にやっているみたいだな。

「またいつか、会える()がくるのかな……」

 距離は離れちまったけど、心は離れていないんならそんな()もくるんじゃないか?

「笑顔で再会できるよう頑張らなきゃ」

 そうだな。


 相棒は食事を再開する。

 お前は強くなってる。後悔しないで、それを将来のこととして考えられるようなら大丈夫なんじゃないかと思うぜ。

 いつか、そう、いつかで良いんだ。今は前を見据えて、しっかりと確かめながら進もうぜ。

 生活が落ち着いて、将来を考えられるようになるまで俺を頼ればいい。この命はお前の為にあるんだと決めているんだからな、相棒。俺に生き延びる道を示す言葉をお前が与えてくれた()から。


 だから、その肉の欠片は俺の口に放り込んでくれよぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第八十一話はコストー達からの伝文の話でした。仲良しだった子供たちからのメッセージにも涙は要らなくなりました。あと必要なのは幸せです。

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