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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
放浪の旅路

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ジリエト商隊護衛(3)

 バランスの偏った感じのするパーティーだぜ。前に出るのは雌ばかり。守りと魔法が雄ときてる。フィンって姉ちゃんが仕切ってるみたいだから、趣味なのかもしれないな。得物を持ってないってことは『倉庫持ち』なんじゃないかと思う。

 筋は通ってる。身体強化能力者と普通の人間じゃ力に大きな差があるからな。あんまり雄雌に拘る必要ないのかもしれない。


「今からか、フィン?」

 なんだ、この雄は? 酒の匂いをこびり付かせて。

「オリファか。あんた、まだこの辺をうろついてるのかい?」

「じきに引き上げるぜ。ここら辺にゃ、もう俺の働き場所がねえ」

「足を洗えばいいじゃないか。鉱区長さんは打診してくださったんだろう?」

 唾を吐くな。そこからも酒の匂いがするぜ。

「鉱員みたいな地味な仕事やってられるか。もっとでっかい仕事をするんだ」

「そんな場所がこの大陸のどこに有る?」

「どこかにゃあるぞ。まとまった旅費を手に入れたら、そこで名を挙げてやる。お前も乗れよ。良い思いさせてやるぜ」

 顔を顰めてる。こいつが嫌いなんだな、フィン。

「冗談じゃない。俺はこの暮らしで十分満足してる。余計なお世話だね」

「ちっ! 志が小せえなぁ」

「あんたのはただの無謀さ」


 雄は唾をそこら中に吐きながら去っていく。躾がなってないな。犬の俺でももっと礼儀正しいじゃん。


「誰だ、あれは?」

 ちょっと気になるな。

「オリファはミニング傭兵団の頭領さ」

「ミニング傭兵団。あまりいい噂を聞かないな。知り合いか?」

「以前、新鉱区の警護に付いた時に一緒になったのよ。その程度。あいつはうちのメンバーのこと気に入ったみたいだけど、俺はそれが嫌で仕方なくてね。嫌らしい目付きでペセネたちを見てくるの。あんなつまらない男のことを気にしなくていいよ、キエル」

 傭兵か。あまり縁のない人間だな。

「鉱区警護の仕事って多いんじゃないのですか?」

「最近はそうでもないんだよ、リーエ」


 イーサルでも一部発見されたけど、メルクトゥーの隔絶山脈沿いの高地には膨大な量の鉱床が眠ってる。親父さんが扱ってたみたいに、メルクトゥーの主産品はそこから採掘できる金属類、中でも貴金属類になる。

 露天掘りできるという意味では好立地なんだが、場所がら山脈から下りてくる魔獣は脅威だ。その脅威から鉱員を守っているのが対魔獣の専門家である冒険者だったり、さっきみたいな傭兵団だったりするそうだ。


「戦後まもなくの頃はすごかったって聞いてます。事情は変わっているのですか?」

「うん、変わってきてる。メルクトゥーは鉱区警護を正規兵に切り替えてきてるのよ。対魔獣戦闘もこなせる兵に訓練して各鉱区へ配置が進んできてるの」

 国の事業だもんな。いつまでもひと任せにはできないってのか?

「事情が許したのも一役買ってるわね。覇王剣チェイン殿下がこの国にみえられてからは、憧れてやってくる戦士が増えたらしいの。彼らを正規兵として雇って訓練したみたいなのよね」

「国自体が強く変わりつつあるんですね?」


 人間ってのは貪欲だ。持てる力は持ちたいと願うんだろうな。

 問題はそこからの舵取りだけど、その辺りはメルクトゥーは穏当らしい。無理な拡大政策に踏み切るわけでもなく、鉱床採掘は調査を進めながらも生産量調整をしているって話だ。資源は有限だもんな。儲かるからって、どんどん掘れば良いもんじゃない。

 兵力にしたって予防策として見ているみたいじゃん。


「フィネシア陛下の治世は素晴らしいと思うのよ。でも、割を食う人間が全く出ないといったら嘘になる」

「冒険者や傭兵さんの仕事が無くなりつつあるんですね?」

「その通り。でも、元々多過ぎたっていうのが本当のところかもね。東方動乱が終わって、食い扶持を失った傭兵団や領兵崩れが大挙してメルクトゥーに押し寄せたらしいわ。その当時は需要があったけど、今はもう無いの」

 食いっぱぐれが増えてきてるんだな。さっきのあれもその一人か。

「俺たちみたいな冒険者はつぶしが利く。この商隊警護みたいに、他にも色々と依頼があるから。あいつらは違うって思ってるのね」

「そうなんですか?」

「連中、元は戦災孤児の集団みたいなのよ」


 東方で大量に生まれた戦災孤児の中の身体強化能力者が集まって傭兵団を作ったらしい。でも、平和になった大陸に傭兵団の仕事なんか無いじゃん。それでメルクトゥーに渡ってきたらしいな。


「自分たちは時代の犠牲者だってうそぶいてるの。でも、あいつらはそんなに苦労してないはずなのよ?」

 平和な世の中なら頑張れば生きられるだろ?

「神使の女王様が大陸全体に戦災孤児の救済を訴え掛けてくださったでしょう?」

「聞いたことがあります」

「だから生き延びられたの。お年寄りの話じゃ、それまでの戦災孤児なんて半分以上は野垂れ死んでいたって言うもの」

 厳しい時代が過ぎ去って今があるわけだな。

「それなのにアウトローを気取って言いたい放題。お世話になってた鉱区長は、傭兵団を解散して鉱員になれば稼ぎ口はいくらでもあるって声を掛けてくれたのに蹴ったのよ。あいつらは過去だけ背負ったお荷物。俺はあんな役立たずは嫌い」

 辛辣だな。気持ちは分かるけど。


 でも撫で方は心得てるじゃん。お礼のぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第八十話はメルクトゥーの現状の話でした。あまり複雑な国際情勢とかには踏み込みたくない本作ですが、まあ事実は事実として取り上げざるを得ません。

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