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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
放浪の旅路

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ザウバの豊穣祭(2)

 ギャスモントは俺をじっと見てる。その瞳の色は理解を示してるみたいな気がするんだけどな。


「そうか。そう言われれば当然だろうな。私の知っているキグノなら、もう結構な年齢のはずだ。なのにこうも若々しいのは、そうでないと説明が付かないな」

「そんな呑気でいいんですか、ギャスモント部長。闇犬(ナイトドッグ)って魔獣なんでしょう?」

「何を怖がる必要がある。キグノは私が片手で抱き上げられる頃からの付き合いなんだぞ? 絶対に人を襲ったりはしないって分かりきっているんだ」


 甘噛みくらいはした覚えがあるけどな。ちびの頃の俺は、色々食わしてくれるあんたが大好きだったから。

 しゃがみ込んで、俺と肩を組むような恰好をするギャスモントに皆は納得せざるを得ない雰囲気だな。相棒も嬉しそうじゃん。


「でも、闇犬ってこんなだったかな? 僕は移動中によく見かけるけど、もっと毛が短くってほっそりとしてるけど」

「あ、それでしたら少し前に詳しい人と話して分かったんです。彼のお父さんはどうも狼らしくて、正確にいうと狼犬なんですよ」

 属性まで混じりまくってるけどな。

「だとすると闇属性の狼犬? まるで影狼(シャドウウルフ)じゃないか」

「おいおい、それって戦闘系冒険者が名前を聞いただけで震え出すような魔獣だろ?」

「なるほど。リーエちゃんにはずいぶんと心強い護衛が付いていたってことだな」

 それだけで片付けるのか、ギャスモント?

「だが、この話はここだけにしてくれ。皆いいな?」

「ありがとうございます、皆さん」


 すぐさま返る応えにリーエが礼を言ってる。

 この辺りの頭の回転の速さがギャスモントが今の地位に長くいる所以だろうな。俺が魔獣と知ればどんな影響があるか瞬時に計算してる。

 親父さんとも仲が良かったのも計算に入れてくれてるだろうけど、その場で知らせるべき内容かそうでないかはちゃんと区別して判断できるくらいじゃないと強かな商人と渡り合うのは無理ってもんじゃん。


「ところで皆さんはどうして集まってらしたのですか?」

 そういえばそうだな。

「いつもお忙しくしていらした印象が……」

「忙しいのは間違いない。でも、後進を育てて処理能力を上げる努力をしてきたんだ。以前ほどじゃなくなってる」

 あんたならそうするな。

「今はちょっとそれどころじゃなくてな」

「何か問題でも? すみません、立ち入った話ならすぐにお暇しますので」

「部長、おあつらえ向きの若い娘さんの意見が聞けそうなんですけど?」

 お、相棒でも役に立ちそうな雲行きじゃん?

「確かに最適かもしれんな。リーエちゃんなら舌も程よく肥えてる」

「女の子に肥えてるなんて言う人には協力できないかも?」

「いやいや待ってくれ。そんな意味じゃ……」

 顔が笑ってるぞ、相棒。

「冗談です。わたしでも分かるようなことですか?」


 問い掛けに応じるように、集まっていた人間たちが頭を突き合わせて協議していた物が差し出される。なんだそれ? 茶色い薄っぺらのごつごつした植物繊維紙(かみ)


「いったい何ですか、これ?」

「豊穣祭に出そうかと思っている商品だ。豊穣祭が近いのは知ってるだろう?」

「ええ、それを目当てにザウバに到着しようとちょっと急ぎましたから」

 ラウディが頑張ったもんな。嬉しそうだったけど。

「だったら、小さい頃に何度かうちの露店に来たの憶えてないかい?」

「はい。豊穣祭の折には商業ギルドでも露店を出されるのだと父さんに聞いた覚えがあります」

「それってな、実は競い合いになってるんだ」


 行事としての色が濃い新()祭と違って、豊穣祭は祭りの色が濃いのさ。専門の露店が大量に並んで賑わう。皆が食って飲んで祝うお祭りなんだ。

 そんな中に各種の商会や商業ギルドの露店も混じってるんだが、聞いた話じゃちょっと意味が違うんだとさ。その一角じゃ売り上げ数を競って勝負してるって言うんだ。それで優秀な店舗は後陽(ごじつ)王宮で表彰される大変な名誉に与かるらしい。


「そんなことをしてらしたのですか?」

 知らなかったぜ。いつもより美味いもんを食わしてくれる場所だと思ってた。

「それも条件付きなんだよ。既存の売れ筋商品じゃなく、新しく開発した商品を出さないといけないんだ」

「意外と難しい注文ですね?」

「王宮からしてみれば新しい風を送り込む産業振興の一助にしたい思惑があるんだろうね。でも、こっちはなかなか骨が折れる。毎輪(まいとし)商品開発をしなくちゃならない」

 そいつは大変だ。

「ご苦労、お察しします」

「商会の上の面々はそれが仕事みたいなものだからいいだろう。祭りは宣伝にもなる。私たちで太刀打ちできるなんて思ってない。ただな、同じギルドの露店には負けたくなくてな」


 商業ギルドだって交易管理部一部門だけじゃないぜ。他に、商店管理部、商会管理部、輸送管理部、融資管理部、人材斡旋部と様々ある。

 開発手腕では大手商会に及ばなくても、部門ごとの露店にはライバル意識が強いみたいなんだ。今は勝つために、詰めの協議をしてたって話。


「いつもはシェラードさんが良い知恵を出してくれてたのに、今輪(ことし)は僕たちで頑張らなきゃいけなかったからなぁ」

「零すな。本来は私たちでやるのが当たり前なんだぞ?」

 燃えてるな、ギャスモント。


 おっと、こっちにも一人燃えてるのがいた! 目の色が変わってるぞ、相棒?


 そんなに気負うな。空回りしちまうぞ? 太腿ぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第七十二話は交易管理部の課題の話でした。今回はそこへフュリーエンヌが関わっていくエピソードになります。キグノにはちょっと無理なんで。

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