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アルクーキーの陽(1)

 おー、何か久しぶりに相棒と出会った頃の夢見たな。昨夜、あんな星空を見ちまった所為か。

 結局、あの後俺の名前を決めるのに三陽(みっか)もうんうん唸ってたな。神話がどうだの、過去の英雄の話がどうだのとさんざん悩んだ挙句に、最後には音の響きと呼びやすさで「キグノ」に決めたんだっけ。


 このステインガルドのある国イーサルは、一応智神デオグラードを奉ずる国だってことになってる。でもな、話に聞く東方動乱ってでかい戦争が終わってから五十()、ゼプル歴1088()の大陸中はどこも繋がっているようなもんなんだろ? 自国の神様だの英雄だのに拘る必要は無いんじゃないかと思うのさ。

 だから、雌の気紛れってやつがこの場合正解だと俺は思うわけだ。親父さんもそう言ってたしな。


 おっと、今陽(きょう)はアルクーキーの()じゃないか。こいつはマズい。リーエをさっさと起こさないと。

 寝室の扉に左前脚を掛けて右前脚でノブを押し下げる。軽く引いて隙間を開けたら鼻面を押し込めば中に入れるってわけ。この家の中は玄関に鍵が掛かってなきゃ自由自在なんだぜ。慣れたもんさ。

 さて、朝寝坊娘を揺すり起こすか。


 鼻面で頬っぺたをぐいぐいと押して頭を揺らしてやると唸り出したな。

「んー、キグノ? もう少し寝かせて。ほら一緒に」

 何ぬかしてんだ。ちびの頃ならともかく、今の俺がベッドに上がったらお前の寝るとこなんか無いぜ。

「ちょっとごわごわするー。洗わなきゃねー」

 毛皮のことなんてどうでもいいから早く起きろ。アルクーキーの()だぞ。


 アルクーキーの()ってのは、相棒が隣町アルクーキーの治療院に出稼ぎに行く()のことなんだ。

 別に無理に稼ぎに出る必要は無いんだがな、治療院にはリーエの伯母さん、親父さんの妹が勤めてる。そんな縁もあって、向こうからのたっての願いで契約治癒魔法士として、三巡(18日)置きで一往(一ヶ月)に二回出向くことになってる。

 要するに相棒の小遣い稼ぎだ。自分の能力を活かして金にしちゃ好きなことするんだから罪は無い。


「わあ、もうこんなに昼の白焔(たいよう)が高い! 急がなきゃ!」

 だろう?


 ステインガルドの共有財産である馬を借りるんだから、気分次第でずらすわけにもいかない。予定ってもんがある。

 村長のスランディにしてみりゃ大事な治癒魔法士を貸し出すんだからアルクーキーに貸しが作れる。その代りに、設備に乏しいステインガルドに、大きめの町じゃなきゃ無いもので便宜を図ってもらっているのさ。

 具体的に言えば、伝文装置の連絡先をアルクーキーにしとけば定期的に届けてくれたり、緊急の時は人を走らせてくれる。冒険者ギルドに届いた物も運んでくれたりするってわけだ。


「ひゃー、朝食たべてる暇ないかも!」

 魔法具コンロに火は入れといたから、あれ掻き込んでさっさと行くぞ。


 その気になりゃ、馬だってセネル鳥(せねるちょう)だって買うくらいの財産は有るんだが、一往(一ヶ月)に二回だけ使う為に面倒見るのを嫌がったんだから世話無いな。自業自得ってやつだろ?


   ◇      ◇      ◇


「何とか遅れずに着いたー」

 相当慌ただしかったけどな。


 門扉までもう少しってとこだ。

 アルクーキーの町はそんなに高くは無いものの、頑丈そうな柵で囲まれていて出入りは門扉からだけ。そこにも交代で衛士がいるが、通い込んでる相棒は顔見ただけで通してくれる。まあ、俺が本当は闇犬(ナイトドッグ)だって知ったら入れてくれないだろうがよ。


 ここでリーエは午後の診療から治療院に入って、明陽(あす)の昼間と明後陽(あさって)の午前の診療を勤めるのが契約だ。割といい稼ぎになるらしいぜ。


「ご苦労様、リーエ。一休みしたらお願いね」

 待ち受けていたみたいに……、いや待ち受けてただろ?

「ありがと、ウィスカ伯母さん。でも、外にいっぱい並んでたもの。お昼だけもらったらすぐに治療室に入るね」

「あら、ごめんなさいね、気を遣わせて。あの連中ったら、今陽(きょう)があなたの入る()だって分かってて押し掛けてくるんだもの。適当に流してやんなさい」

 嘘つけ。患者集めに入る()を宣伝してんのは割れてんだぜ?

「あはは。でも、お代をいただく以上はちゃんと治癒(キュア)します」

「真面目なんだから」

 いや、ちゃんとやって実績上げてもらわなきゃ困るのはあんただろ? どうせ相棒を引き入れる代わりに、それなりの手当てを受け取ってんじゃないか?


 まあ、このアルクーキーの奴らも困りもんだ。

 若い雌が話を聞いてくれて、治療までしてくれるんだから人間の雄としちゃ見逃せないかもしれないぜ。しかも、見目は上等で、雌っぽい色艶も付いてきたところだとすりゃあな。

 しかしな、そんなに行儀よくずらっと並んでんのはどうかと思うぜ。雄のプライドってもんは無いのかよ? 誇れるもんを作って、雌の関心を勝ち取るのが筋なんじゃないのか? 俺にはよく解らんが、そりゃ財力ってのも人間にとったら誇れるもんなのかもしれないがな。


「はい、これ、キグノの分。さっさと食べちゃおうね」

 おっと、忘れちゃいけない。俺も腹ごしらえしとかないとな。


 ほらみろ。泡食って嚙り付くから色んなとこに付いてるだろぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第六話はキグノとリーエの普段の生活に入っていきます。あとはちょっと現状を。という訳で、本作は『魔闘拳士』ラストエピソードの五十年後の話なのでした。

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