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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
放浪の旅路

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いたずらな恋(2)

 その雄の名はジールっていうらしい。王国衛士、つまりメルクトゥー王国が雇っている治安組織の人間だ。

 治安のために力を行使するのだから能力は問われる。ジールは力の強い人間、身体強化能力者なのさ。


 そんで、そのジールが連れてきたのは、町で酒を飲んで喧嘩していた奴の片方。それほどでなければ取り押さえて説教するくらいだけど、顔が変形するほどやられてたんで治療院に連れてきたんだとさ。

 これもいつものことで、再々馬鹿をやって怪我している人間をコビントス治療院に連れてくるもんだから、治癒魔法士のアローラとも顔馴染みって話。そこで説教されたもんだからジールは苦笑い。


「すみません! わたしったらなんて勘違いを……」

「いや、いいって。自分が悪人顔だって自覚できたから」

「そんなことは!」

 齧られたいのか、あんちゃん?

「冗談だって。それより君は?」

「ここでしばらくお世話になることになった、流しの治癒魔法士のフュリーエンヌです。アローラさんのお知り合いですか?」

「まあね。こういう馬鹿を何とかするのが仕事だからさ」


 連れてこられた奴は自分を癒してくれた相棒を崇めんばかりにしてる。酒も興奮も抜けて強烈な痛みに襲われていたところを、全て取り去ってくれたんだから仕方ないかもな。


「む、娘さん、フュリーエンヌちゃんっていうのか? ありがとう!」

 改心したか?

「えっと……、こういう時のお代は?」

「気にしなくていいわ、私がやるから」

「フュリーエンヌちゃん、ここで勤めるのか。よし、分かった!」

 何が分かったんだよ、さっきまで顔腫らしてたくせに。嫌な予感しかしない。

「腕は確かなようだけど、ずいぶん可愛らしい流しもいたもんだな。ここは困った奴も多いから、何かの時は衛士詰所に来なさい」

「はい、よろしくお願いします。でも、わたしには心強い味方がいますので」

「なるほど。こいつは強そうだ」

 だろ? 冗談はほどほどにしとけ。


 俺はジールの足を踏んでやった。


   ◇      ◇      ◇


 次の()から治療院は大入り満員になった。一気に広まった噂で、鉱員が押し寄せてきやがったのさ。


「フュリーエンヌちゃん、怪我しちゃったんだ。治してくれよ」

「これ、喧嘩したんでしょう? お酒飲んで喧嘩する人は嫌いです!」


「フュリーエンヌちゃん、調子悪いんだ。病気みたいだから治してくれないか?」

「どこも悪いとこ無いじゃないですか? 仮病を使う人は嫌いです!」


 相棒を騙そうとしたって無理ってもんだぜ。治癒魔法士は体内の具合も或る程度は掴めるんだからな。


「わたしの魔力にも限りがあるんです! 患者じゃない人は出ていってください!」

「そんなぁ!」


 一度は追い払われたものの、若い雄ってのは簡単には諦めはしないもんじゃん。今度は本当の客が押し掛けはじめる。

 なにせ鉱員連中だ。仕事してりゃ、生傷もつきもんだろ? 今までなら、唾付けときゃ治るとか言って治療費をケチって酒を食らってたのに、ちょっとした傷でもやってくるようになったってわけ。


「リーエちゃん、今陽(きょう)も可愛いね?」

「手前ぇ、何馴れ馴れしくしてんだよ! フュリーエンヌさんに失礼だろ?」

「そうだ! そんなん放っといても治るから帰れ帰れ!」

 だからなんで並ぶ、お前ら?

「喧嘩するなら出てってください!」

「大人しくします!」


 こんな塩梅だ。賑やかで仕方がない。

 中には言い寄ってくる奴もいるからな。そんな時は俺がこの藍色の瞳でじっと見つめて、尻尾の一振りでもしたら震えてやがる。相棒の足元には自分たちよりでっかい護衛が付いているんだから忘れるんじゃないぞ?


 三陽(みっか)ほどそんな状態が続くと治療院の対応も変わってきた。


「リーエちゃん、数陽(すうじつ)って話だったがもうしばらくは居られないもんかね?」

 ほくほく顔だぞ、院長のおっさん。

「指名依頼で出し直させてもらうから。一割増、いや二割増でどうだい?」

「そんな急ぐ旅でもないんで構いませんけど、依頼料はそのままで結構です」

「まあそう言わずに、気持ちだから受け取っておくれ」

 引き留めに掛かってんな?


 相手するのは鉱員ばかりじゃない。その()の昼前には見た顔がやってきたんだ。


「フュリーエンヌさん、母を診てもらえないだろうか?」

 どうした、衛士のあんちゃん?

「ジールさん、どうなさったんですか?」

「今朝がたから調子が悪そうだったんで様子を見に帰ったら悪くなっていたみたいでね。いつもならアローラに頼むんだけど、今陽(きょう)は非番なんだ」

「すぐに。お風邪を召していらっしゃるようですね?」


 リーエは、ジールの母親だっていうおばさんを横たえさせると、体内の調子を診る。それからロッドリングを握りに変えると治癒(キュア)を唱えた。


「これでかなり良くなったはずです」

「本当だ。全然苦しくないよ」

「とりあえずはしっかり栄養を取って、休んでくださいね?」

 ただの風邪なら相棒の治癒(キュア)で一発だぜ。

「本当にすごいな、君の治療は」

「なんて魔法だい? こんなによく効くのは初めてだ」

 おばさん、身を乗り出してきたぞ。

「あなた、うちの子の嫁に来ないかい?」

「へ?」

「こんなだけど頼りにはなるよ?」


 妙なことを言い出したもんだから、ジールは頭を掻きながらおばさんを促して出ていった。置いてきぼりの相棒は呆然としたままさ。


 動揺を隠すように俺のたてがみを撫でるなよ。舐め返すけどなぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第六十七話は治療院でのお仕事の話でした。フュリーエンヌ、大人気の巻です。そろそろ転がしていきたいところです。

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