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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
放浪の旅路

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開拓村の魔獣騒動(8)

 棲み処の森に到着すると、母熊が待ち受けていやがった。


「てへり」

 てへりじゃねーよ!


 そりゃ、あの開拓村を悪く印象付けられなかった俺たちにも責任はある。人間が怖ろしいと思えなけりゃ、また遊びに来るような気もしてた。

 だが、翌陽(よくじつ)そうそうってのはどういう了見だ? ちゃんと見張るって言質を取ったから忠告するに留めたってのに。


「ごめんね。このくらいの時ってどこをすり抜けて見えなくなるか分からないとこあって」

 ああ、そうだな。こんなちびじゃ、成獣(おとな)には想像つかないような茂みの隙間を抜けたりするだろ? でも、頑張れよ?

「無理っぽい。諦めるわ」

 どうすんだ?

「棲み処を変える。この辺りは大型魔獣少なくって子育てしやすそうだったんだけど、もう少し北の餌の多い辺りに移動するわ。ちょっと危険だけど」

 無難かもな。人里から離れたところにしとけ。


 雌の子熊のほうも、相棒の姿を見ただけですぐに駆け寄っていってる。これはもう、人間に対する印象が変わってしまってるから難しいだろう。


 仕方ない。付き合ってやるから移動しようぜ。

「手伝ってくれるの? 何からなにまでありがと」

「行くでやんすか」


 ラウディも、子熊が脚をよじ登り始めたので、嘴で押しやってからしゃがみ込む。リーエに抱き上げられて嬉しそうだ。


「ねえ、ぽーんしないの? ぽーんして」

 お前さんはやんちゃが過ぎる……。


 代わりに俺のところにやってきた子熊を、母熊の背中に投げ上げてやった。


   ◇      ◇      ◇


 辿り着いた先で因縁をつけてきた氷豹(アイスパンサー)をぶっとばして相棒の戦果にしちまった。大人しく棲み分けてくれりゃ放置してやったものを、最初から喧嘩腰できやがるから魔核と豹皮に化ける羽目になるんだぜ?


「おいしー。あまーい」

「甘いでやんしょう? この実は黒っぽくなってからが食べ頃でやんすよ?」

「とりのおじちゃん、ものしりー」

 果物関係はラウディのほうが得意分野だもんな。

「おじちゃんはやめてほしいでやんす。おいら、こっちの旦那より年下でやんすから」

「そなのー?」


 前に訊いたら十歳くらいって言ってたもんな。俺よりも若い。

 群れでも若いグループのほうに属しているから、狩りの時なんかは先頭切って走らされていたらしい。そういうのに飽き飽きしていて、たまには一羽(ひとり)でのんびりと散策と洒落こんでいた途中に俺と出くわしたらしいからな。


「どぽーんするの?」

 ああ、いくぜ。ほらな。

「おにいちゃん、とんだー!」


 しばらく森を探検してたら川に突き当たった。この辺りは山になっているから上のほうに水源があるんだろうぜ。

 そんで遡ってたら滝にぶち当たったんで、横の岩の上まで子熊たちを連れてあがると、そこから滝つぼに飛び込んで見せたのさ。ちびたちも俺の真似をして飛び込んで遊び始める。


「ひゃう! 水冷たいよ、キグノ」

 山水の川だから仕方ないだろ。でも、ちびすけは平気みたいじゃん。

「子熊ちゃんたちも普通に泳げちゃうのね」

 案外、本能的にな。


 水着に着替えた相棒も恐るおそる飛び込みに参加する。水遊びをしたり、魚捕りをしたりして時間を過ごす。装具を外してもらったラウディも、滝つぼに入って水浴びをしていた。


 その後は、スリッツで買った温風の出る魔法具で乾かしてもらう。先に乾かしてもらった子熊は、母熊に毛繕いをしてもらってる。俺も乾いたところからさっさと毛繕いしないとなれろれーろ。


「おさかなもおいしー」

「美味いでやんすねー?」

 この辺は結構魚も多いな。

「ええ、わたしでも簡単に捕れそうだから、この子たちを飢えさせなくて済みそうよ」

 そうでないと困る。


「子熊ちゃんたち、ここで暮らせそうかな?」

 これだけ餌が豊富なのを印象付けてやれば大丈夫だろ。

「こんな風に、豊かな自然の恵みのお裾分けを受けて暮らしていれば、野生の子たちとも争わなくてすむのに、どうして人間って貪欲に食料を求めてしまうのかしら?」

 それができる知恵が付いちまったのが、逆に業になっちまってるのかもな。

「こうしていると、わたしまでここで暮らしてしまいたくなっちゃう」

 おいおい、相棒。


 母熊に寄り添い、丸くなって眠る子熊たち。

 ラウディに寄り掛かったリーエは翼で包んでもらい、膝の上の俺の頭を撫でながら目を細めてる。お前が穏やかに眠れるのなら、今はこれで良しとしようか。


   ◇      ◇      ◇


 翌朝、フタツメクロクマの母子と別れを交わした俺たちは、山を下りて続く草原を眺める。


 ここ、どこだ?

「あっちこっちしちゃったから、完全に街道を見失っちゃったね?」

 まあ、何とかなるだろ。東に見える隔絶山脈を目指していけば、どうしたところで街道に行き当たるんだ。

きゅきゅるきゃる(心配ないでやんす)きゅる、きゅりっきゅ(おいら、いくらでも)きゅいっきー(走るでやんすよー)!」

 待て待て、その前に腹ごしらえさせてくれ。

「お腹減っちゃったの、キグノ?」


 俺が耳の後ろ辺りをごしごしすり付けると相棒は解ってくれる。


 おう、軽く甘いもんでも腹に入れとかないか? 指に付いた分は任せてくれていいからよぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第六十一話は引っ越し先の話でした。ほとんど遊んでいるだけです。人間への好印象は更に高まりますが、ともかく森で暮らす楽しさを強く教え込まないといけなかったのです。

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