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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
放浪の旅路

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開拓村の魔獣騒動(7)

 今陽(きょう)今陽(きょう)とて、子熊は柵の下をするりとくぐり抜ける。頼むからもうちょっとマシな柵をしてくれよ。

 そうは思うのだが、ステインガルドも似たようなものだったからなぁ。俺が簡単に飛び越えられる時点で、柵の用をなしてないんだから何ともいえない。


 一軒の家に飛び付いて、よじ登り始めたところで俺がジャンプし咥えて降りる。


「うわーい! ぶんぶん!」

 ぶんぶんじゃない! 遊びにきちゃ駄目だってお袋さんが言ってたろ?

「いってたー?」

 聞いてないのかよ!


 マズい。村の人間の雄たちまでぞろぞろと歩いてやがる。

 しまった。今陽(きょう)(ねむり)()か。開墾のほうは休みにして、農作業だけにして休憩に帰ってきたんだな。

 もう隠してる暇はない。俺は子熊を後ろへと放り投げる。そこにはラウディに乗って追いかけてきた相棒がいる。泡を食ったリーエだったが、宙を舞った子熊を何とか受け止めた。


「ぽーん、たのしい! もういっかい、ぽーんして!」

 いや、そんな暇ないから!


 面白くはなさそうだが、相棒に撫でられたら暴れたりはしなさそうだ。

 やばいのはこっちのほう。農具を手に村の雄たちが気色ばんで睨んできてる。


「そいつか!? 村を襲っていた魔獣は!」

「まだ子供だな。今のうちに殺せ! 大きくなったら手を付けられないぞ!」

「冒険者の娘! それをこっちに渡せ!」

 やっぱりかよ。

「渡せません。よく見てください。この子は魔獣ではなく普通の子熊です」

「なら余計に怖くはないな。簡単に殺せる」

「なんでそんなことを言うんですか! 子熊がちょっと悪戯しただけなのに、それを咎め立てして命まで奪うというのですか!」


 リーエは小熊を抱きしめて、自らの身体を盾に庇おうとしている。その姿勢を見て、村人たちは戸惑いを感じてるみたいじゃん。

 こいつらにとって、相棒の行動は常識の外なんだろうな。邪魔なものは排除すればいい。その小さな常識に捉われて生きてきたんだろう。


「そんな傲慢な考えで、この自然の中で生きていけると思っているのですか? それは大きな間違いです」

「じゃあ、その子熊みたいな外敵の好きにさせて我慢しろっていうのか?」

 外敵だとよ。その言葉がこいつらの意識を象徴してんじゃん。

「そんなことは言ってません。なぜこんな小さな命の悪戯にくらい寛容に接してあげられないのですか? 家に少しくらい傷が付いたからって何なんです? (チャマ)がちょっと怪我したからって何なんです? その命まで奪われたわけじゃないでしょう?」

「今はそうでも、放っておけばエスカレートするかもしれないじゃないか? そのうち僕たちの大切な食料を奪っていくようになる! もし人間を襲うようになったら、その時はお前が責任を取ってくれるのか?」

「極端だって言っているんです。手を叩いて脅して、ここは危険だから入ってはいけないって教えてあげればいいじゃないですか? 犬を飼って、危険を感じさせてあげればいいじゃないですか? それが寛容というのです」


 そんな簡単な手段が思い付けない。考えることを放棄して人任せにして、自分たちは安穏と陽々(ひび)を繰り返してきただけだって証拠だな。


「う……、で、でも、そんな面倒なことまでしてたら、いつまで経っても俺らの暮らしが楽にならないじゃないか?」

「そんなの元々難しいことなんです。それでも人は努力して自然と共存しようと頑張ってきたんです。どうして貴方がただけ頑張らなくても大丈夫だって思えるんですか?」

「豊かになろうとして何が悪い!」

 それが我儘だって言ってるのにな。

「自分だけ豊かになるのなんて無理なんです。畑だって、周囲の自然なしに上手くいくわけがないんですよ?」


 そのまま自然をないがしろにして、人の領域だけを広げようとすればどうなるか? 危険だからと肉食獣を狩り続ければ、天敵の少なくなった小動物が増える。農作物被害は増大する一方。その小動物を狩れば、今度は餌となる虫が増える。農作物は壊滅するだろう。

 相棒は危ぶまれる未来をきちんと語って聞かせる。


「共存できなければ終わりです。それが解ってない」

 失敗経験が無いんだろうからな。

「我慢しろってのか?」

「努力してください」

 そこで舌打ちを返すようじゃ反省はしてないな。

「この子熊は森に帰します。もっとよく考えてみてください」


 リーエはサインだけされた対面契約書を放り出した。


「何もしていないのでお代は結構です」

 まあ、ただ働きでも仕方ないな。

「ですが、これだけは言っておきます。あなた方の傲慢は、いつかあなた方自身を殺しますよ?」

「脅したって金は出さないぞ!」

「無用です」


 興奮して逆上した一部の雄たちがいきり立って詰め寄ろうとしてきやがる。冷静に話し合えればと思って引いていた俺は、それに合わせて前に出て牙を剥いてやった。


「覚えていろ。冒険者ギルドに訴えてやるからな!」

「どうぞご随意に」

 勝手にしやがれ。


 悲しそうな面持ちの相棒を子熊が舐めているぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。うわやめろ、それは俺の仕事だ!

第六十話は説得の話でした。この部分が重くなるので、ここまでをできるだけ軽めにと構成してました。さて、後始末です。

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