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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
放浪の旅路

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冒険者フュリーエンヌ(6)

 閃光のたてがみ(フラッシュメイン)というくらいだから、閃獅子(フラッシュメイン)は光属性の大型猫科肉食魔獣だ。しかも本来単独狩猟者の猫科の魔獣なのに、群れ(プライド)を作って狩りをしたり外敵を撃退したりする種だときてる。

 そのうえ、光属性。闇犬(ナイトドッグ)の俺とは相克属性にあたって、すこぶる相性が悪い。よりによってこいつらとはな。何も無けりゃ即座に逃げ出してる。


「これはいけない。閃獅子だ。キグノ、君は下がったほうがいい」

 汲んでくれるか、ノイン?

「後衛のガードに付いてくれ。メイブの魔法と僕たち前衛で何とかしよう」

 でもな。七頭も居やがるとそうもいかないじゃん。


 身体が反応して鼻面がめくれ上がり、長大な牙をさらしちまう。そうすると相手も鼻面に皺を寄せ、牙を剥いて威嚇してきやがった。


「そんなに餌になりたいのなら掛かってくるがいい。狼など美味くもないが腹の足しくらいにはなる」

 御免だね。

「足掻いても無理だぞ。力の差は歴然としている」

 そいつは認めるぜ。だが一つ間違ってる。俺は闇犬(ナイトドッグ)だ!


 せめてこの馬鹿でかい雄だけでも何とかしてやる。ノインやホルコースの腕前のほどは分からないけど、こんなのを相手しつつ複数の閃獅子と戦うのはどう考えても無理じゃん。

 頑張って押さえとくから、その間に他を始末しといてくれよ。頼むぜ。


 幻惑の霧を放出して目くらましを掛ける。その間に接近しようとするが、閃獅子がその咢を開くと特性魔法の光熱球を放ってきやがった。

 見えていないから当てずっぽうの攻撃なんだが、その余波には光の成分が含まれてるんだ。俺の幻惑の霧が剥がされて、奴から見える状態になっちまった。


 俺の頭の位置に閃獅子の前脚が振り下ろされる。闇が剥がされたと感じた瞬間に飛び退いているから躱し切れたが、叩き付けられた鉤爪ががっつり地面をえぐってんじゃないか。

 おいおい、あんなの食らったら骨が砕けちまうだろ? 同じ魔獣のよしみで加減くらいしてくれないもんかね? そりゃまあ無理ってもんだな。食うか食われるかは人間と暮らす俺だって身に染みて分かってる。


「逃げないのか? 度胸だけは見上げたものだ」

 逃げたいね。でも相棒を見捨てて逃げようもんなら雄が廃るじゃん。

「うむ、お前は正しい。人間を仲間とする部分以外はな」

 なら同じ雄同士、もうちょっと付き合ってくれよ?

「いいだろう。ただし、いつまで生きていられるかはお前の頑張り次第だ」

 そこは努力するさ。


 一度距離を取ると再び幻惑を纏う。でもな、今回は樹の幹も間に入れている。光熱球だけで位置を見破れると思うなよ?


 それを悟ったのか、閃獅子は光球を撒き散らしつつ駆け出してくる。俺は樹間を走り抜けるようにして、幻惑の霧も補充しつつ位置を覚らせないように移動する。そうしながら奴の隙を窺ってるのさ。

 それでも幻惑の霧を放出する時の魔力のうねりを感じて、方向だけは間違えないように追ってきやがる。これだから群れのリーダーを相手取るのは御免蒙りたい。簡単には攪乱させてくれないんだもんな。


 逆に誘導して有利な状況に持ち込みたい俺は木立を縫って走る。だが、柔軟な身体をしてる閃獅子は容易に距離を取らせてくれないし、なかなか隙も見せてくれない。

 これが、あの人骨が散乱してた原因だな。こんなの相手にちょっと力が強くて腕の立つ程度の人間じゃ、全く歯が立たなかっただろう。


「そろそろ降参したらどうだ? 勝負になってないぞ」

 まだまだこれからさ。

「そうやって引っ張り回す気か? それならあの人間を襲うぞ。お前も仕掛けてくるしかなくなるだろう?」

 これでも勝負を掛けてるつもりなんだがな!


 その瞬間、幹を回り込んで閃獅子の頭めがけて目潰しを吹きかける。それは光球で相殺されるが、その時には俺は下に潜り込みつつある。

 喉笛に食らいついてやろうとしたが、奴は巨大な閃光を放ちやがった。幻惑の霧が吹き払われて俺の姿が露わになる。横薙ぎの一撃は跳んで躱したが、背後の幹を蹴って上を抜けようとしたら、鉤爪で横腹をざっくりとえぐられちまった。


 痛え!

「キグノ!」

 おお、傷が治る。ありがとな、相棒。


 リーエが飛ばしてくれた治癒(キュア)のお陰でちょっと血を流した程度で済んだが、目くらましも目潰しもこいつには通用しない。普通に戦ったところで負けは見えたぜ。こりゃもう覚悟を決めるしかないな。


 反対に勝利を見て取った閃獅子は余裕で俺の出方を窺っている。幻惑の霧を纏いつつ動き出すと、周りに光球を振り撒いて引き剥がされた。奴からもまばらにとはいえ姿が見えてるだろう。

 そこはちょうど開けているから突進も仕掛けやすい。俺は横に逃げる体勢を取るも、見えている状態では逃げ切れない。奴は咢を大きく開いて横腹に噛み付いてこようとした。


「がふう!」

 どうだ? 俺のもう一本の牙は痛いだろう?

「なぜだ……?」

 それを聞くまでお前の命は持たないぜ。


 閃獅子の胸には岩の槍が深くまで突き刺さっている。明らかに急所を貫いているだろう。突進に合わせて撃ち出してやったんだからな。

 それでも数歩進んでくるんだから大した気迫だ。俺は首元に噛み付いて横倒しにしてやった。これで勝負ありだろ?


 痙攣する奴の身体に足を掛けて周囲を窺う。


 やってやったぜ、尻尾ぶんぶんぶんぶぶんぶんぶん!

第五十話は閃獅子(フラッシュメイン)とのバトルの話でした。追い込まれたキグノは奥の手を解放します。薄々とは感じられていたことかと思いますが、次話にて種明かししますので。

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