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ステインガルドの危機(2)

 今夜、襲撃が無いのが一番だが、とりあえずはしのぐのが先決だな。そうすれば明陽(あす)の昼間は動ける。何とか火系魔獣の群れを見つけて追い払うしかない。


「キグノ-!」

 生き延びてたか、フィー。

「大変だったよ」

 だからって、俺の背中を着地場所に選ぶな。

「小さい家畜とか全部やられちゃった。セネル鳥(せねるちょう)は応戦してるけど、馬は何頭か食われちゃったよー」

 少なくない被害だな。奴らの数は?

「昨晩で五十か六十は居たね。でも、だんだん増えてるの」

 警戒してるな。小出しにして被害を少なくしようとしてるんだろ?

「だと思う。でも、ここに抵抗できる人間は居ないって分かっただろうから、そろそろ本格的に襲ってくるかもー?」

 面白くない報告だ。何にせよ、かなりマズい状況じゃん。屋根上をうろうろしてないで、どうにか人間の集まってるところに潜り込んどけよ?

「そうするー。このまま村長さんとこ連れてって」

 俺は乗り物か!

「だって安全だもん。キグノがやっつけちゃってよ?」

 無理だ。人間の前で特性魔法は使えない。俺が持つ者(魔獣)だってばれちまうだろ?

「あいつら、強過ぎるんだよー。食べられたくないもん」

 力の強い人間が来た。連中に希望を託せ。

「ほんとに頼りになるのかな?」


 村長宅に到着すると、相棒はすぐに治療を始める。襲撃の規模の割に怪我人は少なめか? それでも二十人以上は居るな。気張れよ、リーエ。


 クローグは家に戻った。頑丈な家を防衛拠点にして、分散して閉じ籠るしかない状況だ。ステインガルドには使えそうな家がいくつかしかない。俺達の家も頑丈な作りになっているから当てはまるんだけど、現状じゃここに詰めるほうが正解かもな。何かあればここに運ばれてくる。


 薄暗くなってくる中、冒険者達は村長宅の前に居座ってる。そこに魔獣の目を引き付けて迎撃する気なんだろうな。魔法士が一人居るから、明るくする魔法を使ってくれればトルウェイを始めにした村の狩人も屋根上から迎撃ができるはずだな。順当な構えだろう。


「行こう、キグノ」

 済んだのか?

「また、ここに戻るつもりだけど、大事な物だけは持ち出したいの。だって火を放つ魔獣らしいから」

 だな。うちも壁は土魔法製だけど、屋根や窓枠なんかは木製だもんな。焼かれちゃただで済まない。

「急ぐね」

 合点だ。


 家に帰ってからすぐに寝室に向かった相棒は、例の戸棚からお袋さんの遺髪と肖像画を取り出すとすぐさま反転リングの中に収めた。一緒にもう一枚の肖像画も大事そうに仕舞う。親父さんと二人で描いてもらったものだ。遺影になっちまったな。

 あとはもしもの為に、金目の物は片っ端から入れとこうぜ。うちも他よりはマシって程度に過ぎないからな。


 む? ちょっとだけ間に合わなかったか。

 外がとっぷりと暮れたところで、そうそうに足音が聞こえてきやがった。こりゃ多いぜ。もう移動は無理だ。

 俺が扉の前で押し返すと、リーエはすぐに理解してくれる。


「来ちゃったの?」

 ああ、ここに籠るぞ。

「託児院は大丈夫かな?」

 窓から見えるだろ? きっちり雨戸まで閉めてるから、すぐにやられたりはしないはずだぜ。

「大丈夫よね?」

 察してくれたか。


 しばらくすると通りを(くだん)の魔獣の群れが駆けてきた。厄介だな、炎狼(ヒートファング)か。この数でもあの冒険者は持ち堪えられるのかよ。

 もう通りに家畜が出歩いていることはないから通り過ぎていく。人間の匂いが村長のとこからしてるだろうから、そこを狙ってやがるんだ。だが、行き掛けとばかりにほうぼうの家も探ってるな。気配がしたら襲うつもりなんだろう。


 うちも窓から覗かれる。でも、そこで待ち受けてるのは俺だぜ?

 きっちり睨み返してやったら驚いてやがる。そりゃ、同類が中に居るとは思ってなかっただろうぜ。痛い目見たくなかったら素通りしていけ。

 さっき通り抜けていった一団にボスが居るだろうな。これで報告がいったと思ったほうがいい。どう動くは分からないが。


 くそっ! 託児院に何匹か取り付きやがった。中でルッキかパントスが泣き出しちまったのかもしれないな。完全に気配を読まれたんだ。

 でも、頑丈だから爪で引っ掻いた程度じゃ扉は破れないだろ? あとは特性魔法をしのげるかどうかだな。


 おっ、持ち堪えてるぞ、相棒。

「火の玉が消失してる。魔法防御刻印?」

 ルドウ基金は憎い事するな。あれなら問題無さそうだぜ。

「良かった」


 気付いたか。連中、腹いせみたいに周りに火球を放ってやがる。魔力切れでぶっ倒れやがれ。

 っと、おい、待て! 隣が燃え始めちまった。いくら魔法防御刻印入れてあっても、火が燃え移るのは防げないぞ。マズいマズい!


「いけない、助けに行かないと!」

 俺が行くからそこで待ってろ。

「行ってくれるのね? お願い」

 任せとけ。


 リーエを押し留めた後、開けてもらった扉を擦り抜けて外に出る。脚を忍ばせて近付き、一匹目の喉笛に食らい付いて倒す。すぐ放り出して二匹目に対する。

 牙を搔い潜って喉に噛み付き引き倒す。が、もう一匹が後ろ脚に食い付きやがった。痛みを堪えて爪で引っ掻いたら放す。反転したところへ放たれた火球を躱し、真っ正面から頭に噛み付いて潰してやる。


 出てこい! 逃げろ!

「キグノ! 来てくれてありがとう!」

 良いからさっさとうちに来い!

「早く!」

 ほら、相棒も呼んでるぜ。


 託児院に居た五人と、もう二家族をうちに入れて閉め切った。これで一段落だぜ。


 ほれ、ルッキ、そんなに泣きじゃくるんじゃないぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第三十二話は魔獣襲来の話でした。立てこもり作戦開始ですが、なかなか思い通りに事は進みません。苦境はまだ続きます。

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