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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
ステインガルドの生活

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湖のピクニック(3)

 昼メシの後もひと遊びして休憩。モリックとレイデがもう少ししたら帰りの準備に入ろうかと話していた頃合いに、湖畔に二人の人物がやって来たんだ。


「ちょっとよろしいですか?」

「どうなさいました? こんな場所で」

「方向だけを頼りに進んできたのですが、この近くに道は有りますか? 我々はスリッツに向かっているんですが」

 なんだ。迷い人か。

「それでしたら、ここから南に進めば小道に当たります。その道を東に辿ればアルクーキーという街に着きますから、そこからは王都への街道が伸びていますよ」

「助かります。ちょっと難儀をしていたので」

 雄の割に妙に柔らかい声をしてやがんな。


 雄と雌の二人組だ。雌のほうはずっとにこにこしてるが、こりゃ(つがい)か?

 旅人にしちゃ軽装だし、セネル鳥(せねるちょう)を一羽連れてるが、それじゃ二人乗れないだろう。どうも何か訳あり臭いな。


「……あ」

 どうした、相棒?

「お母さん……」


 何で泣き出したんだ? もしかして、あの雌のほう、お袋さんに似てんのか? 俺には人間の顔の区別がはっきりと付かないから分からないんだが。少なくとも匂いは別物じゃん?


「わたくしには子供はおりませんが、そんなに似ているのですか?」

 おお、察してくれたか?

「いえ、ごめんなさい、ごめんなさい……。違うんです。お顔だけなんですけど」

「宜しければお話を聞きましょう」


 雌は、へたり込んで顔を擦るリーエに近付くと、両膝を突いて抱き締めてくれた。それで相棒はぽつりぽつりと語り出したんだ。

 やっぱりその雌の顔立ちがお袋さん、クレアヴェスにそっくりなんだそうだ。お袋さんが薄青い瞳に紫の髪をしていたのに対して、碧眼に薄茶色の髪と大きく違うんだが、面立ちは生き写しのように似てるらしい。ただし、リーエも肖像画でしか記憶にない母親の話だがな。


「そうでしたか。フュリーエンヌさんと仰るのね? わたくしはマリアベル、旅の宣教師をしております。思い出させてしまったのでしたらお詫びします」

 謝ることはないんだけどな。

「ですが、お母様はそうまで心を寄せてくれるのを、きっと魂の海で喜んでいらっしゃることでしょう。そして健やかに娘が成長するよう、ずっと見守っていてくださるはずですよ」

「母の言葉のように感じて嬉しいです。お気遣いありがとうございます」

 良かったな、相棒。

「醜態をお見せしてすみません」

「いえ、構いません。貴女が今後も個の研鑽に励み、協調を重んずるのであれば、必ずや神は幸福を与えることでしょう」

「マリアベルさんはどちらの神を?」

 そういや宣教師だったな。

「武神様の教えを説いて回っております。とはいえ、教えは先ほどの二つだけですが」

「武神教の宣教師様でしたか」


 まだ言葉につっかえてる相棒に変わってハリスが説明する。俺も親父さんに聞いたから知ってるぜ。

 武神教ってのはこのイーサルとウルガン王国の南部のほうで広まってきてる宗教だ。昔、その辺りにあったメナスフットって国の窮地を救った武神が説いた教えを基にしてるんだとさ。中身はマリアベルが言った通りで、要するにそれぞれが自らを高める努力を怠らず、互いに気を付けてりゃあまり困り事は大きくならないだろうって意味だ。


 驚いたことにこの神様、生きて(・・・)やがる。何やら長生族って人種らしくて、未だに大陸中をうろうろして困り事を解決してるらしい。変な神様もいたもんだろ?


「落ち着きました。この出会いをマリアベルさんと武神様に感謝します。あの、お二人はご夫婦ですか?」

 リーエも年頃の雌だ。気になるよな。

「違います。ノインさんにはお助けいただいたのです」


 聞けば、マリアベルは東のほうの宿場町で冒険者の護衛を一人雇ったんだけど、人気の無い辺りに行ったところでその雄が盛って不埒に及ぼうとしたらしい。そこへ通り掛かったノインというこの雄が助けて、ついでに護衛してるんだとさ。


「僕も冒険者なのさ。同輩の恥を(そそ)がなきゃいけないだろうし、彼女が対面契約に応じてくれたからそのまま護衛してる」

 なるほど。それで乗り物が一羽だけなのか。

「だけど、呑気な性分で風の向くまま気の向くままに旅しているもんで、道には不案内でね。参っている時に子供の声がするもんだからお邪魔したわけ」

「そうでしたか。お困りでしたら食料ならお分けできますけど?」

「そいつは助かるね」


 相棒から包みを受け取ったノインはすぐに開いて食い始める。その様子にマリアベルも苦笑してんぞ?


「ノインさんは東方の方ですか?」

「どうしてそう思うんだい?」

「黒髪の方は珍しくは無いのですけれど、その深い緑の瞳は珍しいと思って。不躾ですみません」

 どうも掴みどころのない雄だもんな。

「そうかもね。でも珍しいといえば、君も相当なもんだと思うよ?」

「え、そうですか?」


 ノインはリーエを眺め回した後、一応は剣を持っているこいつを警戒してべったりと横に貼り付いている俺のほうを見やがった。俺の藍色の瞳を覗き込んで、ふわりと笑うとはどういう意味だ? まさか、お前……?


「まあ、いいや」

 ばらす気かと思ったぜ。

「そういう人は嫌いじゃないんだ。大歓迎さ」

「……ありがとうございます」


 相棒もそれとなく察して警戒してる。こいつはほんとに不思議な感じがする雄だ。だが、何も言わずに二人は南のほうに行ってくれた。ひやひやするじゃん。


 不安げに俺に抱き付くなよ。涙の痕が塩っぱいぜぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第二十五話は不思議な出会いの話でした。これでピクニックも終わりです。そしてちょっと鬱展開に入っていきます。

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