表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
ステインガルドの生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/146

湖のピクニック(2)

 お昼まで遊んだ子供達は湖畔に上がって身体を乾かしてる。いよいよ昼メシだぜ。


 相棒の反転リングからは次々と良い香りの漂う布包みが取り出されてる。この段階から香りまで楽しめるのは俺くらいのもんだぜ? どうだ、羨ましいだろう。

 手渡された子供たちは包みを開けて歓声を上げてる。そりゃ、焼き立てのパンに採り立てのしゃきしゃきラタッチャ、そこに薫り高い自家製ハムが挟まってんだからな。堪んなく腹の虫を刺激するのは間違いないぜ。


 こんな状況なんでリーエはおずおずとハリスにも包みを差し出す。専門家相手に尻込みしてしまうのは仕方ないだろ?

 ところが、この雄は賜り物みたいに恭しく受け取ると口にし、相棒を絶賛する。まあ、その視線はハムサンドじゃなく相手の顔だけを向いているんだから推して知るべしだろ? 非常に分かりやすい奴だな。


 もちろん俺にも分け前はあるぜ。しかも手ずからのお給仕付きだ。

 サンドイッチを前脚で持って食うのは無理だからよ、リーエは右手で自分の分を食いながら、左手で俺に差し出してくれてる。それに嚙り付いてるわけだ。

 ふむふむ、ハムも良い出来だな。塩加減も程よいし、肉もきっちり熟成されて旨味を増してやがる。ピリッと来るスパイスの利きも上々だぜ。ほのかに種類の違う旨味と酸味を感じるのは塩漬けしてた時に入れた果実酒の味か?

 最後の仕上げの燻製の香りが最高だ。これのお陰で家は未だに煙臭さが漂ってるがよ、それだけの価値はあるってもんだ。その家の匂いだって相棒の鼻じゃもう感じられない程度だろうがな。


「美味しい、キグノ?」

 美味いぜ、ルッキ。俺の舌も結構なもんだろ?

「あうー、くすぐったいよー」

 そう言ったってお前もパントスも口の周りがパン屑だらけじゃないか?

「キグノ、お口大っきー。すごいねー?」

 そりゃお前じゃひと抱えどころじゃ済まないだろ、パントス。


 ふさふさの灰色の毛皮に覆われた俺の身体は、尻尾の先まで入れりゃゆうに160メック(192cm)はある。頭のてっぺんから鼻先まででも40メック(48cm)以上あるじゃん。

 そのつもりで口を広げりゃ、人間の大人の頭だって余裕を持って齧れるんだぜ。ちびすけのお前の頭なんか簡単に口の中だ。そこには太くて長い牙まで生えてるじゃん。柔らかい子供なんかぺろりといただいちまう。でも、そんなことはしないから味だけ感じさせろぺろぺろ。


 あっ、こら! 止めろ!

「すごいよ。牙、長ーい」

 掴んで引っ張るな。お前の玩具じゃない、パントス。

「ものすごい牙。優しいけどわんちゃんなんだね、キグノ」

 何だと思ってた、ルッキ。お前らの保護者なら横で笑ってるぞ。

「やめてあげてね、パントス。お口の中は大切なところだからキグノが困ってるわ」

 助かったぜ、相棒。お礼をしてやろう。


 リーエが膝に落としたパン屑を隅から隅まで綺麗に舐め取ってやる。うむ、欠片でも香ばしさは変わらないぜ。美味い美味い。

 そんなのくすぐったがるなよ。そりゃ今は水着だから足は全部地肌だけどな。まったく人間ってのは毛繕いのし甲斐がない。一部しか毛が生えてないんだからよ。

 毛繕いってのはお互いに親愛の情を表す手段なんだぜ? それなのに肝心の毛が無いときてる。どうしろって言うんだ?

 一遍、薄紫色の髪の毛を舐めてやったら相棒は怒りやがったからな。それ以来、髪は舐めないよう気を付けてる。仕方ないから太腿を全部ぺろぺろしてやろう。

 なにを身悶えしてるんだ、ハリス。ほんとに面白い奴だな。


「ああん、もう! べたべたにしちゃって」

 そうは言っても顔が笑ってるぜ、相棒。やっぱり毛繕いは気持ち良いんだろ?

「また喉をぐるぐる言わせてる。本当にキグノはわたしのことが大好きなんだから」

 俺の首周りはたてがみが生えてるからふさふさで、頬ずりすると気持ち良いだろ?


 リーエが腰掛けてると、座ってる俺の頭のほうが上にある。抱き付けば顔は首のところってわけさ。今はそこに顔を埋めてる。


 相棒は雌でも成長し切ってないからな。立っても頭のてっぺんまでで122メック(146cm)しかない。これは測った時に聞いたんだから正確な数字だぜ。体重も測ってたが言わなかったから知らない。

 スチレットの仕立屋で測った時に聞いたのは、胸周りが67メック(80cm)。これを聞いた時に拳を握った相棒は妙に嬉しそうだったから、やっぱり胸の大きさは人間の雌にとっても重要なんだろうな。

 あとは胴回りが48メック(58cm)、尻周りが69メック(83cm)。なんか尻周りの肉付きを気にしてたがよ、スチレットおばさんも人間の雌の成長としては順調だって言ってたろ? 気にすんな。


「美味しかったー! ありがとう、リーエ」

「どういたしまして」


 そう言いながら相棒は胸に手を当てて軽く握り、その手を天に差し上げて開くと瞑目してる。ちびすけもそれを見て真似をした。

 これは糧としてもらった魂を天に還す動作だって聞いた。人間ってのは面白い習性をしてると思ったもんだ。


 よし! 腹ごしらえも済んだし、今なら乗せて泳いでも大丈夫な気がしてきたぜ!


 来い、相棒! 安心して俺の背中に乗っ……、ぶくぶくぶくぶーくぶくぶく。

第二十四話はピクニックの昼食の話でした。ちょっと凝ったら長引いて、そこへ準備していた設定を入れられそうな流れになったので披露しました。一話潰れちゃいましたけどね。まだピクニックは続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ