湖のピクニック(1)
裏の菜園で緑の丸いのがごろごろと育っているのを俺と相棒で眺めている。
「立派に育ったね、キグノ」
だろ? ところどころにしっかりと肥やしをやってるからな。
「こんなに小さな菜園なのに、最近になってやっと普通に収穫できるような野菜を育てられるようになったんだもの。農家の人って大変なのね」
リーエの肥やしだって効いてるんだから味も問題無いだろ。
菜園の横には小部屋になったトイレがある。相棒はそこで用足ししてるわけだ。裏に蓋付きの箱が据えてあって、その中にもらってきた麦藁と摘み取った雑草、実を収穫して枯れた野菜なんかを放り込み、そこへトイレに溜まってるものを掛けて簡易に堆肥を作ってる。菜園の野菜は、その堆肥と俺が穴を掘って失礼したもので育ってる。
「菜園を作り始めて二輪でようやく形になって来たんだもの。ちょっと嬉しい」
村には専門家だらけだが、リーエは相談するだけで自力でここまでにしたんだもんな。そりゃ感慨深いよな。
「でもこれはいっぺんに育ち過ぎかしら?」
まるまると育ってんじゃん。良いことだろ?
青々と茂ってるのはラタッチャって野菜だ。外側の緑の葉っぱを捲っていくと、中に薄緑色の玉がある。この葉っぱの締まった玉を収穫していただくのさ。
玉を剥くとしゃきしゃきの葉っぱが採れる。煮たり炒めたりしても食えるが、主にはサラダにして塩やソースを掛けて食うのが一般的だな。
俺は量は食わないけど、しっかりした歯応えとほんのり甘いところは嫌いじゃないぜ。案外味にはうるさいだろ?
「どうしよ? こればかりはご近所にお裾分けするのも憚られちゃうよね」
向こうのが専門家だしな。持ってくなら託児院くらいだろ?
「んー? 村の子達を誘ってたまには遠出しようかな? ハムサンドいっぱい作って皆に食べてもらおう? それが良いわね」
そりゃ楽しいだろうがよ?
別に急いで食べようとしなくたって、摘み取ってから反転リングに収めときゃ腐ったりしないで済む話なんだけどな。みんなにご馳走しようとする辺りがリーエらしいだろ? だから俺も止めたりしないぜ。
「ハリスもステインガルドに馴染んできたし、今度の眠の陽にみんなを誘って遠出しよう。頑張らなきゃ!」
張り切ってるな、相棒。
◇ ◇ ◇
農家の子供たちも手伝いを休ませてもらい、数十人が誘い合わせて遠出することになった。ハリスも鼻息を荒げていたし、コストーたちも参加するからモリックとレイデが引率してくれることにもなった。子供の世話に長けた大人がいりゃ安心ってもんだな。
泉からの小川に沿ってアルクーキーへの小道が続いているが、2ルッツも歩けば小道から離れ始める。そんで、そこからまた川沿いに一刻ほど進むと湖がある。それほど大きな湖じゃないが、小川の水と山からの川の水が流れ込んでいるから、澄んだ綺麗な湖だ。
子供の足でも片道二刻。遠出するには程よい距離だと言えるんじゃないか。荷物は全て相棒の反転リングの中だから楽なもんだ。
「きれーい!」
「わーい!」
「泳ごー!」
到着したら休憩もそこそこに子供たちは湖へ向かっちまう。小さい子は脱ぎ散らかして素っ裸で走っていくし、大きいほうの子だって下着になるだけだ。水着なんて持ってるのは相棒とハリスぐらい。
「そ、それ、素敵だね?」
「そう? 父さんは実用的なのを買ってきたって言ってたし、地味でしょ?」
足だの肩だのは露わになってるし、あとは黄色の無地なんだから派手じゃないじゃん。
まあ、ハリスが目移りしてんのは相棒の胸だの尻だのだしな。身体の線が完全に出る水着にどぎまぎしてやがる。だから何だって人間の雄は……、って何度も言っても仕方ないな。
ちびすけたちが呼んでるぞ、相棒。
「あ、泳ぎましょ、ハリス」
「ああ……、うん……」
ほんと、ぷにぷにと柔らかいな。
「あはは、そんなにお尻を押さないでよ、キグノ」
なんか危なっかしくて心配になるだろ? 柔らかいとこには毛を生やしときゃいいものを。
俺の鼻先で尻を突かれてくすくす笑うリーエを見て、またもじもじし始めやがった。なんでしゃがみ込んで動けなくなるんだ? さてはまた盛ってやがるな? ほんとに面白いな、こいつ。
「あーははー、速い速い!」
「はーやいー!」
乗り心地はどんなもんだ?
ルッキとパントスを背中に乗せて泳ぐのは結構骨が折れるぜ。それでもジークみたいな短毛種よりは楽だろうな。俺はかなりふさふさだから水を掻けば結構進む。でも定員はちび二人にしといてくれ。
そんな羨ましそうな目で見るなよ、相棒。昔ならともかく、そんなに育っちまったらさすがに厳しいぜ。
「むー、逃げるなー」
「魚捕まえるのは無理だよ、パントス。速いもん」
そいつは確かに無理ってもんだ。
今陽ばかりは目くらましを使う訳にはいかないから勘弁な。そんなことしたら俺が闇犬だってばれちまうだろ? そのうち、また川で大物捕ってきてやるから我慢しとけ。昼は相棒の作ってくれたサンドイッチが待ってるぜ。
そんなにむくれるなよ。舐めてやるからぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。
第二十三話はピクニックに行こうの話でした。日常に密着しようとすると、どうしても下の話まで言及せざるを得なくなる現実に直面しています(笑)。あと、相当隙の多いキャラになって来ちゃったな、リーエ。