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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
ステインガルドの生活

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パン屋のハリス(1)

 この()話題に上っているのは少し前に引っ越してきたばかりの一家のことなんだ。こんな小さな村にわざわざ引っ越してくるの自体珍しいっちゃ珍しい。でもな、話の種はそっちじゃないんだよなぁ。


「パンって買うものなの?」

 当然の疑問かもしれないな、ルッキ。

「おうちで作るものでしょ? だってルッキだってこねこねしてるもん」

 院じゃ自分のメシを自分で作るのは当たり前だもんな。


 託児院は掃除や洗濯、料理まで家事全般を子供達にも手伝わせるのさ。別に職員がさぼっているわけじゃない。そうやって働く中で自立心や、適性なんかを引き出していく為らしい。

 実際にはモリックたち職員が主導になって作業するし、食材の調達までやらせているんじゃない。あくまで躾や教育の一環として補助させているだけだ。


「そうね。パン種をこねたり形を作ったりするのもルッキやパントスでもやってるけど、失敗する時もあるでしょ?」

「あるー。量間違えて膨らまなかったり固いとこあったりする。悲しくなっちゃう」

 悲しくなるのは分かるが、それを優先的に俺に回すのは勘弁してくれよ。


 イーサル王国は東方文化も強く入ってくるからな。主食は穀類だけど、それが小麦のパンだったり、大麦を炊いたり煮たりしたものだったり半々くらい。

 煮炊きする分なら失敗は少ないが、パンみたいに加工に手間が掛かると子供の手じゃ失敗も多いな。まあ、俺のほうが顎が強いからどんなのでも食うけどよ、そりゃ柔らかくて美味いほうが良いに決まってる。


「パン屋さんはそれを専門にやっている人だから上手なの。失敗しないし、時々ルッキたちでもできるみたいに、すっごく美味しいパンがいつも焼ける人たちなのよ。だから商売に……、美味しい売れるパンを作ってお金をもらうわけ。分かる?」

「分かった。でもそんなに美味しいの?」

「おいしいのー?」

 そこはパントスも食い付いてくるよな?

「きっとね」


 つまりは、今度越してきた一家ってのがパン屋なわけだ。ステインガルドでもパン屋を開いたんだけど、村でずっと暮らしてきたコストーたちには今まで知らなかったものじゃん? それが不思議で仕方なかったんだろうな。


「そこまで違うものなのかな?」

 おう、ものが違うぜ。

「村で商売になるかどうか疑問に思う、コストー?」

「うん、どこもそんなにお金に余裕あるって聞かないよ、リーエ? それなのにみんな買うかなって」

「ふふふ……、一度食べてみたほうがいいかもね」

 食ってみりゃ分かるって。


 かくいう俺も、親父さんと一緒に旅暮らしの頃はスリッツやザウバで有名どころのパンの分け前ををちょうだいしてるからな。売りもんのパンがどんな代物か知ってるんだぜ。相棒だってそんなに下手じゃないが、あれと比べるのは可哀想ってもんじゃん。


「三人で食べておいで」

「ええ、それが良いわ。頼んでいい、リーエ?」

「分かりました。連れていってみますね?」


 横で話を聞いてたモリックがお金を差し出した。太っ腹だな。

 まあ、こいつらが見識を広めるのにも役立つって思ってんだろう。モリックとレイデは村の外から来た人間だから、パン屋の何たるかは当たり前に知ってる。

 普通の家事の一部だって、道を究めれば仕事になるって分かってほしいんだろうな。それが理解できりゃこいつらの将来の選択肢だって増えるって寸法だ。


 パン屋行きが決まったってことは、俺も美味いもんにありつけそうじゃん。


   ◇      ◇      ◇


 おお、案外まともな構えのパン屋じゃないか。ステインガルドみたいな所で開くんだからもっと雑かと思ったぜ。

 ちゃんと通り側にでっかい窓を作ってパンを並べてやがる。あの窓ガラスだけでも相当金掛けてるだろうな。


「やっぱりほとんど客なんか来ないじゃないか! だから無理してでもアルクーキーの町で店を開いたほうが良いって僕は言ったはずだよ?」

 おい、聞こえてるぜ。

「仕方ないだろう。あそこだってそんなに大きな町じゃない。パン屋が二軒もあれば潰し合いになるって説明したじゃないか」

「父さんは負けるのが嫌だったんだろう? 古参のパン屋には馴染みの客が付いているから、最初は物珍しくてもすぐに頭打ちになるって思ったんだ!」

「ああ、間違いだと思うか? 同じ商売で競い合うのはともかく共倒れは利口じゃない」

 へえ、主人はなかなか真っ当な人間みたいじゃん。

「勝てばいいんだよ! 父さんのパンなら勝てると思ってたんだ! その為なら頑張って手伝おうって! でも、最初から諦めたんじゃ……。僕はこんな小さな村でパン屋を諦めたくなかったんだよ! 何にも無いこんな所で!」

「こら! 静かにしろ。お客さんだ」


 やっと窓からパンを覗き込んでるのに気付いたのかよ。まあ、いくらか声を落としてたから、相棒やちびたちには聞こえてなかっただろうぜ。


「お邪魔します」


 食いもん置いてる店だからな。俺は扉のとこで待っといてやるぜ。店内もそんなに広くない。目は届くしな。


「いらっしゃい。君は初めてだね。ゆっくり見てくれ」

 急に店主の声になったな。

「ありがとう。わたし、フュリーエンヌっていいます」

「おお、すると君が治癒魔法士なのか!」

「ご存知でしたか」

 誰かに聞いたんだろ。

「村長さんが何かの時には君を頼れと。ここには治療院が無いからね」

「ええ、承りますので」


 こっちの雄がさっきうるさく言ってたやつか。ボーっとしやがって。


 しかし、堪らん匂いだなくんかくんかくんかくーんかくんかくんか。

第二十話は引っ越してきたパン屋の話でした。とうとう、ぺろぺろ限界がやってきました。さすがにパンをぺろぺろすると叱られてしまうので、くんくんするに留めておきます。でも、この動作関係を死守していきたいところですね(笑)。

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