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シェラードの帰郷(4)

「兄さん、俺は間違えたのかなぁ」

 結果は認めなきゃいけないんじゃないか?

「いつかはシェルミーが気付いてくれると信じていたんだけど」

「人には向き不向きがある。人をよく観察してその行いから学ぶ人間と、他人の振りを気にせず自らの道を行くタイプがいるだろう? それは子供にも言えるんじゃないか? やり方が悪かったんじゃなく、お前も息子と向き合っていなかったんだと私は思う」


 親父さんの弟クローグがやってきてる。どうやら相棒はシェラードに従弟のシェルミーのことを相談したみたいだな。それで親父さんはクローグを呼び出したんだろう。

 リーエは台所で料理をしてる。シェラードもいつまでもは家に居られないからな。居る間は喜んでもらおうと頑張ってるみたいじゃん。

 凝った料理を作ろうとしているのは本当だろうが、難しい話も二人でできるように外しているのかもしれないけどな。


 畑で見ているから知ってるが、クローグは農場や使用人を管理して収量を上げようと努力するタイプじゃない。自分も一緒になって働いて汗水たらし、苦楽をともにすることで農場を上手に回そうとするタイプだ。

 たぶん自分の背中を見て、シェルミーが学んでくれると思ったんだろう。だが、実際には息子はそんなものに見向きもせず、広大な土地を持って使用人を使うっていう今の環境だけしか興味が持てずにいたわけだな。

 それで使用人たちの態度から傲慢な考えを持つに至り、それを否定する相棒に反発したのさ。それでもリーエのほうが立場が下なら見下すだけだったんだろうけど、どう見ても自分より優秀で金持ちでもある相手となれば対抗心を燃やすしか道が無かったんじゃないか?


「兄さんの言う通りだな。俺はもっとあいつと一緒の時間を過ごさないとダメなんだろう」

「話し合うといい。シェルミーはお前と同じ道は選ばないかもしれないが、人や命に対する傲慢な考えだけは改めさせなくてはいけない」

 その辺が最低でも分からせなきゃいけないとこだな。

「せっかく譲ってもらった農場なんだ。あいつの代で終わらせたり手放さなくてはならなくなるのは避けたい。決めたよ。できるだけ早く息子を農場で働かせる。説得に耳を貸さないなら叱りつけてでもな」

「まずはシンディさんと話しなさい。彼女はあの子を溺愛している」

 それが事態を悪くしてるとこもあるな。

「説得する。それでシェルミーの教育をトレクにやってもらう。叱ってもいいから、いかに自分が何もできない人間なのか、見下してる相手がどれだけ仕事ができる人間なのか分からせる」

「使用人に教育を任せるのは良いが、お前もきちんと目配りしておかないとダメだぞ」

「もちろんさ」


 何とか落ち着くところへ落ち着いたようじゃん。これであいつが大人しくなってくれればいいけどな。


「伯父さん、夕食ご一緒してくださるでしょう?」

「ありがとう、リーエ。だが、ちょっと忙しくなりそうなんで帰るよ」

「そう? 残念」

 ああ、最高に美味そうな匂いがするぜ?

「また寄らせてもらう。困ったらいつでも頼るんだぞ?」

「はーい」


 結局、水入らずの晩メシになっちまったな。俺が床に居るけど。


   ◇      ◇      ◇


「なあ、キグノ」

 言っておくが、俺は酒には付き合えないぜ。


 相棒は料理で張り切り過ぎちまったのか、早々に眠くなったと言って寝室に入ってる。寝息が聞こえるから、もう夢の中だろうぜ。


「つまらん話かもしれないが聞いてくれ」

 話なら付き合うぜ。

「リーエは大きくなるほどにクレアに……、あの子の母親のクレアヴェスに似ていく。見てるだけで切なくなる時があるんだ。私はクレアを幸せにできなかっただけじゃなく、娘まで幸せにできていないんじゃないかって」

 今陽(きょう)の相棒の笑顔を見て、どうしてそんなことが言える?

「経済的には幸せにできても、こんな放りっぱなしにしといてあの子に辛い思いをさせてるんじゃないだろうか? 私こそがリーエと一緒の時間をもっと作ってあげなくてはならないと思う」


 そりゃ否めない。でもよく考えろよ、シェラード。相棒を幸せにするのは俺たちのすべきことじゃない。あんたも、そんで俺もずっとは一緒に居てやれないんだぜ?

 あいつを幸せにしてやれる相手に送り出すのが俺たちがすべきことだ。それまでは経済的でも何でも、とにかく守ってやるのが役目だ。ここは一つ、分担してやらないか?


 俺は親父さんの膝に片脚を置いてじっと見る。伝わってくれると良いんだがな。


「お前が何をやっているかは察してる。こんな辺鄙な場所にある村が魔獣の襲撃を受けないのは異常なんだ」

 何だ。ばれてるのか。

「一()程度なら偶然で片付くが、もう何()もだ。お前が守ってくれているんだろう?」

 そういうことだ。

「そうだな。私は娘の豊かな生活を守る。だからそれ以外は頼んでも良いか?」


 俺は片脚でシェラード膝をぽんぽんと叩く。了解だ。


「お前が居てくれて助かる。あの時、引き合わせてくれたことを神に感謝しないとな」

 お互い様だ。親父さんのやっていることは俺にはできないんだぜ?


   ◇      ◇      ◇


 数陽(すうじつ)後、シェラードはまた馬車で旅立っていく。


「次は新輪(しんねん)までに帰る。一緒に歳を取ろうな?」

 今が七往だから頃合いだろうな。


 相棒は親父さんの胸に顔を埋めている。それでも頷いているんだから聞き分けてはいるんだろう。


「ウィスカのところも呼んで少し盛大に祝おうか?」

「うん。……いってらっしゃい。気を付けてね」

「ああ、行ってくる」


 リーエはずっと馬車に手を振っている。


 今陽(きょう)の頬っぺたは塩っぱいぜぺろぺろ……。

第十九話はシェルミーの件とシェラードの出発の話でした。会話にはなっていませんが男同士の話し合いです。それぞれに思いがあるのです。

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