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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
ステインガルドの生活

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一人と一匹(1)

 ちっ、また絡んでやがる。しかも悪意とは違うからたちが悪い。妙な匂いさせているからすぐに分かるぜ。


 人間の雄ってのはどうして一()中盛っていやがるんだか。そんなんじゃ争い事が絶えないだろうし、増えて増えて仕方ないだろうにな。まあ、その通りになっているわけだが。


 純粋な肉食じゃないにしても、あんまり増えてしまったら食うもん無くなって困るだろうに、際限なく増えていくんだから性懲りが無いと俺が思ったとしても変じゃないだろう?

 まあ、人間なんて牙も無けりゃ力も弱い。中には力がある奴もいるが、それにしたって武器を持たないと攻撃力は低い。走るのも遅けりゃ機敏さも劣る。草ばっかり食ってる連中みたいに増えるくらいしか対抗手段が無いのかもしれないな。


 俺が何と思おうとも、相棒が助けてくれと言わんばかりにこっちをちらちらと見てるから傍観しているわけにもいかないだろうさ。さて、重たい腰を上げるか。


「またか! この犬、毎度毎度邪魔しやがって!」


 身体を割り込ませたら文句を言ってくる。知った事じゃないな。お前の都合を斟酌してやる義理は無い。


「しつこいのよ、あんた。キグノが怒っちゃう前にどこか行っちゃえ」

「そんな犬が怒ったって……、う! 次はちゃんと話聞いてもらうからな!」


 ちょっと牙を見せてやったら尻込みして逃げていくとはね。そんな根性じゃ雌を射止めたりできないぞ。もっと気合見せろよ。

 そりゃ後ろ脚で立ち上がったら、前脚が肩に掛かるくらい体格差が有るからな。牙も爪もなけりゃ、魔法も使えないんじゃ縮み上がっても仕方ないか。


「ありがと、キグノ。でも、もうちょっと早く助けてくれたっていいじゃない」


 そう言うなよ、相棒。俺が全部邪魔してたら、お前は嫁に行く先が無くなるぞ。こんな小さな村なんだからよ、選べる雄なんてたかだか知れてるだろ? もう十六にもなるんだから、適当に見繕って唾つけといたほうが良いんじゃないか?


「いっつものんびり眺めていて、なかなか来てくれないんだもん」


 お前だってなかなか俺の気遣いに気付いてくれないじゃないか? そりゃ、どうせ何言ったところでグルグル唸っているようにしか聞こえないんだろうがな。

 俺はお前の言ってることは解ってるんだぜ、リーエ。でも、お前は人語しか分からないんだから仕方ないっちゃ仕方ないだろうがよ。


「ん? なーに?」

 ほら見ろ。

「そんなに喉を鳴らせて、わたしが好きなの? わたしも大好きよ」

 こんなもんだ、犬と人間の関係なんて。


 もっとも俺が人語を解するのだって普通じゃない。その辺の野生動物なんかにゃちょっと真似できないぜ。頭の出来が違うからな。

 俺はいわゆる魔獣ってやつだ。種族としては闇犬ナイトドッグ。本来ならあまり人間に好かれる種の魔獣じゃない。


 こんな片田舎の村にもやってくる常に武装した人間、職業は冒険者っていうらしいが、そいつらに言わせりゃ駆除推奨魔獣ってのに当たるんだとさ。今はリーエと生活してるけど、普通なら人間には毛嫌いされて追い立てられる対象だろうな。


 それでも簡単にゃやられたりはしないぜ。種族特性魔法ってやつが使えるからな。武器がいっぱいあるってもんだ。

 そのお陰で頭の中身も結構出来がいい。魔法ってのは脳をがっつり使うからな。発達してないと使えないわけだ。そのついでみたいに人語も理解できるようになったんだがな。

 こいつにはちょっと慣れが要る。やっぱり人間に触れ合うような環境じゃないといささか厳しいだろうな。そうじゃなきゃ、何となく空気を察するくらいが関の山だろうぜ。


 俺が人語を聞き取れるのは相棒との付き合いが長いお陰だ。

 リーエがもう少しで三歳になる頃、俺が生まれて一()足らずの頃からだからもう十四()の付き合いになる。当然闇犬(ナイトドッグ)の群れの中で産まれたんだが、すったもんだあって幼馴染みたいな関係だ。

 俺が普通の犬ならもう年寄りだがな、魔獣ってやつは長生きなのさ。通常種の四倍くらいは生きる。だから今が魔獣としても絶頂期ってわけ。相棒はまだ若造だがな。


 その相棒はフュリーエンヌ。貴族でも何でも無いからただのフュリーエンヌだ。名乗るとすりゃ、この村の名前を取ってステインガルドのフュリーエンヌだな。村の人間は相棒をリーエって呼ぶ。

 年頃だから最近めっきり雌らしい身体つきになってきた気もするし、若い雄達が群がるところを見ると、なかなかな別嬪なんじゃないかと思ってる。


 焦げ茶の髪の人間が半数くらいを占めるこの辺りで、リーエは薄紫の髪をしているのも目立つ原因だろうな。当の相棒は、肩の後ろくらいまで伸びた髪の先がピンピン跳ねるのが気になって仕方ないっていつも言ってる。

 瞳は茶色でよく見る色だが、ぱっちりとしていてクルクルと良く動く。何だかんだで動き回るから肌も薄っすらと日焼けしてるが、毛皮も無いしふにゃふにゃと柔らかい。よくそれで平気なもんだといつも思うぜ。

 時々押し付けてくる口なんぞはぷにぷにですぐ破れちまいそうで怖ろしいだろ? ほらまた押し付けてきやがる。俺の口の周りの毛には味なんか付いてないぞ。


 おっ! また匂いやがるぜ?


「もう、キグノったらそんなに手を舐めて。本当に私のこと好きなんだから」

 違うって! いつも言ってんだろうが? メシ食ったら良く手を洗えって!

「くすぐったいよ」


 こんなに匂いが付いちまってるじゃないかぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第一話です。始めましての方は宜しくお願いします。こんな感じでゆるく行こうと思っています。今回は文字数も二千~二千五百ぐらいのゆるい縛りで行くつもりです。

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