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シェルミーの横暴(2)

 パントスは雌の職員のレイデにあやされて泣き止んだし、俺にぺろぺろされたルッキもくすぐったがって持ち直した。

 だが、相棒とシェルミーの睨み合いは収まってない。


「意味って、決まってるじゃないか。コストーみたいなのは、将来うちや村長さんとこの畑の使用人になるしかないだろ? 継ぐ親の職が無ければ、土地も無いんだから」

 こんな田舎じゃそう思いたくもなるか。

「なら勉強なんかしてないで、僕に媚びでも売っておいたほうが将来の為になるんじゃないか?」


 シェラードが交易商人になって、土地を丸ごと継いだクローグは土地持ちになってる。広大な農地は家族だけで世話できるわけもなく、使用人を雇って耕してる。

 分けるほどの土地の無い農家では、三番目や四番目の雄の子はそんな使用人として生きていくしかないらしい。悪いばかりでもなく、給料制の使用人は収入が収量に大きく左右されない利点もある。契約制だからな。


 シェルミーは、雇い主の息子だから使用人からちやほやされ続けて育った。だからこんなに鼻持ちならない性格になっちまったみたいだ。相棒がそんな風に零していたっけ。


「そんなことはないわ! ルドウ基金には職業斡旋の仕組みがあるの。コストーたちが何かを目指そうとすれば、その道を歩ませてくれるはず」

 それも聞いたことあるな。

「ふん! そう簡単にいくもんか! その歳になって身体強化も魔法士の才能も発現してない奴に行く場所なんてない!」

「うるさい! 僕だって何かの職を手に付けて立派な大人になってやる!」

 おお、頑張ってんな。言ってやれ。

「じゃあ、こうしろよ。僕もトビネズミを捕まえてくるから、お前のトビネズミとどっちが遠くまで跳べるか勝負だ。負けたらうちの使用人になるの決定だからな」

「なんて馬鹿なことを……」

「いいよ! こいつはすごいんだ! 他のトビネズミになんて負けない!」

 言い切ったな。お前も立派な雄だぜ。

「よし、三陽(みっか)後に勝負だから忘れるなよ?」

「お前が負けたら今までのこと、僕とリーエに手を突いて謝ってもらうからな!」

「そりゃ無理だ。ははは」


 どうやら使用人に命じて良く跳ぶトビネズミを探させる気だな? それで自信満々なわけだ。こいつは分が悪いかもな。


   ◇      ◇      ◇


 昼メシ食って片付けをしたらコストーたちも自由時間がやってくる。


 ステインガルドの託児院じゃ、午前の勉強の時間が終わったらほとんどの子供が家に帰る。目的は勉強だけだから親も何も言わない。

 残る子供がいないこともないが、数が知れているのでモリックとレイデだけで充分面倒が見られるから三人は自由の身だ。


「どうしてあんなこと言っちゃったの、コストー」

 相棒はお怒りだぞ、コストー。

「でも、悔しかったから」

「それでもあんな約束したらダメ。本気にしたらどうするのよ?」

「大丈夫、こいつは絶対に負けないから! 僕が今まで見た中で一番遠くまで跳べるんだ!」

 確かに見事なジャンプだったけどな。

「頼むよ。これから村長さんとこの畑を手伝って落穂をもらってやるから」


 コストーは胸に抱いている小箱を持ち上げる。そして蓋をちょっと開けて中を覗いてる。


「お前を信じてるからな?」

チチッ(ごはん)?」

 残念だがお前の思いは通じてないぞ、コストー。

チチュー(お腹減ったー)!」

 おっ!


 トビネズミは箱を飛び出して着地する。ぴょんぴょんと跳ねながら通りの向こうのほうへ逃げ出していっちまった。


「わっ! ダメっ!」

 ほら、さっさと追い掛けろ。

「待てー!」

「ちょっと! 大変!」


 そこへ折り悪く通り掛かった奴がいる。


にゃーん(ごはーん)!」

 待て! そいつは勘弁してやれ、フィー。

「わー!」

「うそ……」


 トビネズミを咥えて走り抜けたのは猫のフィー。この村に棲みついている猫で、大概はどこかの家の屋根で寝起きしてる。

 走って止めに入りたかったが、あいにく俺の背中にはルッキとパントスが乗っかってる。急に走り出すわけにはいかないじゃん。


「ん? 食べちゃダメなの?」

 ああ、そいつには大事な仕事があったんだ。

「そうなんだー。返す?」

 いや、お前の口から力無く垂れさがっているそいつを返されてもな。

「じゃ、食べる。またねー」

 それがお前の役目だからな。


 フィーがうろうろしてても村の誰も咎めないのはこうやってネズミを捕ってくれるからだ。それをとやかく言っても仕方ないしな。


「あ……」

「フィー、行っちゃったよー」

 行っちまったな、ルッキ。

「ど、どうしよう?」


 コストーは顔を青褪めさせてる。相棒もあたふたして困ってるな。それで困った時の俺頼みなわけだ。自然と視線がこっちに向いてる。


「だ、大丈夫! キグノならもっと跳ぶトビネズミを嗅ぎ当ててくれるから!」

 そんなん匂いで分かるもんか。

今陽(きょう)は怪我したダレンさんとこに行かないといけないから、明陽(あす)探しに行きましょ!」

「でも、あいつより跳ぶ奴なんて……」

「心配ないわ!」

 保証すんな。

「午前中は病気の人のおうちを回らないといけないから午後よ、コストー。必ずすごいトビネズミを探し出すから」

 いや、だから保証すんな。

「うん……」

 納得もすんな。


 仕方ないから力は貸してやる。だからそんな顔すんなよ、コストーぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第十四話は勝負の約束と逃げたトビネズミの話でした。前作と違って今回は子供にも楽しめる作品をと思って始めた今作ですが、読んでいると今のところは完全に子供向けになってますよね。まあ、キグノのツッコミスキルをお楽しみください。

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