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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
幸せの場所へ

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阻む風(3)

 冗談じゃないぜ。あんなのに偶然出くわすほど行いが悪いとは思えないんだがな。


「あれです! あの犬野郎ですよ、裏切り者は!」

 なんだって? 奴の足元で騒いでるのは犬魔獣か?

「あいつが人間の肩を持って俺たちを北に追いやりやがったんです!」

 北に追いやった? まさかボゴス・カルで噛み付いてきた一派の残党か?


 尾行されたはずはない。気にしてたからな。

 匂いを追われた? あり得るな。土砂降りの雨で消えたとしても、その間は動けないのはお互いさまじゃん。周囲を嗅ぎ回って拾うことはできる。

 しかし、どれだけの執念だよ。腹いせにしちゃ徹底してる。西方の流儀じゃ絶対に許せないほどのことだったのか?


「やっちまってくださいよ。人間のほうは俺たちで何とかしますんで」

 何だと?

「聞いた話では、貴様は我ら魔獣を追放しようとする人間の助勢をしたそうではないか。力を持ちながらも、それほどまでに飼い馴らされているのか?」

 どう聞いたか知らないが、そいつらは徒党を組んで人間の都市を襲おうとしてた。人間側に落ち度があったとはいえ、それがどんな軋轢を生むか想像くらいできるだろ?

「嘘ですぜ。こいつは何百もの同胞を殺しやがったんです!」

 それはお前らがこっちの譲歩を受け……。

「問答無用ですぜ。どう思われます?」

「許しがたい蛮行だ」

 こいつは無理か?


 妙な変異種だ。理性は残しているように聞こえるじゃん。

 ドラゴンの話じゃ魔法演算領域を発達させようとした魔獣は、過剰な魔力で脳の一部を破壊されてまともな思考ができなくなるはずなんだがな。どうやらこの熊魔獣は、思い込みは激しそうだけど普通に思考できているみたいだ。成長を司る部分はぶっ壊れてそうだけどな。


 ラウディ、下がれ。違う意味で話が通じそうにない。

「そうでやんすね。でも、ご主人が許してくれないと思うでやんす」

 危険だと感じたらお前の判断で逃げろ。どこか人間の生活圏に逃げ込め。

「一応、了解でやんす」

 このままだと全く話にならないな。雑音は消しとくか。


 放置してこんなでかぶつ(・・・・)と戦闘になったりしたら、その間に相棒を危険にさらすことになっちまいそうだ。

 土投槍(ランドジャベリン)で犬どもを狙撃する。いきなり魔法をぶっ放してくるとは思わなかったのか、逃げ回るだけで数を減らしていった。無駄な魔力を使わせるなっつーの。


「口封じか?」

 いや、善意だぜ。馬鹿な連中にお前が操られるのを防いでやっただけだ。

「何とでも言える。やはり貴様は同胞の命を何とも思っていないのだな?」

 ひとのことが言えるか? それだけ肥大化した身体を持つに至るまでどれだけ食った? その中に同胞はいなかったとは言わせないぜ。

「節理だ。強い者が食うのは普通だろう」

 自分が強いから他者を餌食にして構わないだと? 結局は欲望に捉われているんじゃん。自分の道理を通そうとした俺を批判できる立場じゃない。

「賢しらなことばかり言う。貴様は我が怖いのだ」

 ああ、怖いね。でも我が身と相棒を守るためなら戦うぜ。

「では魔獣らしく力で決着を付けようではないか?」

 最初からそう言え。


 小出しにできるような相手じゃないな。全力で行くか。

 目覚めろ(オン)


「キグノ、戦うの? 無茶よ! 一緒に逃げましょう!」

 難しいな。あの巨体で結構動けそうだぜ。

「あんなの大勢で掛からないと倒せるわけないわ。助けを呼ばないと!」

 倒し切るのは無理かもしれないけど、逃げ出せるくらいまでは削らなきゃ後がきついじゃん。


 あの巨体から繰り出される攻撃も怖ろしいが、なによりこいつは魔法も使えるはず。それが変異の原因なんだからな。まだ手の内を見せてもらってない。

 三対の堅刃(ロブストブレード)を立ち上げて、正面向きに構える。そんで一対を射出して顔周辺を狙ってみた。

 何かが弾けるような音がしたかと思うと、途中で失速した堅刃はくるくると舞いながら制御から外れて土に還っていく。


 風属性かよ。土属性の俺とは相性が悪いな。

暴風熊(ハリケーンベア)!」


 さすがによく勉強してる。相棒はすぐに相手の正体を言い当てた。

 だからといってそれが弱点になるわけじゃない。どっちかっていえば難しい敵だって分かっちまったじゃん。

 もう二対も時間差で撃ち出してみるけど、破裂音とともに防がれてしまう。こいつ、軌道上に圧縮空気を作って破裂させて弾いてるな。


 距離を取れ、ラウディ。援護頼む。

「合点でやす。でも、真っ正面からは厳しいでやんしょう?」

 だから動く。避難しといてくれ。

「走り回るでやんす!」


 リーエを乗せたラウディが離れると同時に幻惑の霧を纏う。俺を見失った暴風熊は二本脚から四足歩行へと戻った。二本脚なら前脚を攻撃に使いやすいが、あまり自在には動けないんだろう。それだと捕捉できないと思ったんだろうな。そういう理性的な部分が余計に厄介だって―の。


 俺の漏出魔力を追っているうちに、素早く背後に回り込んだ。そこから堅刃を一対、尻に向けて射出する。

 予想通り迎撃はできなかった。だが、ろくにダメージも与えられなかった。俺の刃は突き立ったものの、そう深くはない。分厚い毛皮と強靭な筋肉で受け止めてしまいやがった。


 おいおい、勘弁してくれ。攻撃もまともに通らないのかぺろぺろり。

第百三十八話は暴風熊の話でした。巨大で相性の悪い敵。正念場です。

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