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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
幸せの場所へ

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阻む風(2)

 遠目に一つの獣人(ごう)を眺めてる。

 周囲は妙な形の樹木に覆われてて、とても中から外が見えているとは思えないので少し近くを通ってみたんだが何も反応はないな。外側には簡易な木柵しかないけど、内側にはしっかりとした土壁でも作ってあるんだろうか?


 相棒曰く、あれが例のナーフスの樹らしい。獣人娘から郷の構造を聞いてたみたいだ。

 樹っていっても、普通の樹には見えないぜ。なにせ全体に緑っぽい。茶色い部分もあるけど、樹皮っていうよりは葉っぱが枯れたような感じに見える。


 極めつけはナーフスの実のほう。一本の樹から何本か分かれた枝の先に放射状に例の黄色い実が付いてるときたもんだ。

 俺は、店で売ってるあの房が、枝のそこかしこにぶら下がっている姿を想像してたぜ。そうじゃなくて、あの放射状の一部を切り取って房にして売ってるんだな。驚きの光景じゃん。


「噂には聞いていたけど、すごい風景だよね。単一樹木の森の中に集落があるんだ」

 すとんとした樹だから、風通しが悪いって感じはしないけどな。

「あっ、集落の外に植樹してナーフス園にしてるって言っていたから順番が逆だね」

 集落の中まで緑に侵食されそうじゃん。

「三~四()で枯れちゃうんだって。でも、いっぱい子株が取れるから増やすのは難しくないみたい」

 なら、管理は楽そうだな。


 この辺りも足元は濃い緑の草原。中隔地方みたいな薄緑の草原じゃなくて、柔らかくて広い葉っぱを付けた草に覆われてる。踏むたびに強い緑の匂いが漂ってくる。

 そんで、丘陵の天辺から見渡すと、遥か彼方には鬱蒼とした緑が一面に広がってるのさ。あれが北部密林だろう。本当にどこもかしこも緑色ってのが北部の印象。


「湿気も強いけど、驟雨(スコール)の影響が大きいんだろうね。この強い日照と十分な水分があったら、植物の楽園になるのも不思議じゃないもん」


 街道から外れて獣人郷がぽつぽつと見える辺りまできたら、最低でも一()に一回は強烈な雨が降ってきやがる。それで植物は潤ってるってすぐ分かった。

 草食動物も餌には困らないだろうし、それを食う肉食の連中も間違いなく肥え太ってんだろう。ここらで狩りをするのも楽しみになってきたぜ。


「キグノが居なきゃ、夜営するのなんて絶対に無理だよね。夜になったら色んな鳴き声が響いてくるもん」

 実は何匹か仕留めているのは内緒だ。あっという間に別の奴にさらわれていっちまったし。

「昼間は時々出会う程度だけど、夜はあの密林からいっぱい出てきてるのよね」

 そういうこと。


 だがな、話に聞くゼプル女王国ってのは、あの密林の中にあるらしい。魔獣避け魔法陣が無きゃ絶対にありえないじゃん。それでも、どんだけ肝の据わった人間からそういう発想が出てきたんだか。とても信じられねー。


「楽しみだね、赤燐宮。受け入れてもらえるかな?」

 噂に聞く限りじゃ大丈夫じゃね?

「悪い話は聞かないけど、常識外れの話もあって不安」

 神使の一族ってやつだな。どんな連中なんだか。


 まずは着いてみないことには分からないじゃん。


   ◇      ◇      ◇


 一度だけ密林の方向へ狩りに向かっているんだろう獣人の一団が遠目に映った。密林から距離は取ってるものの、沿うように旅してる俺たちを見て騒ぐ様子が見えたけど、接触したら厄介だろうからとっとと走って逃げた。


 結構東までやってきたからそろそろ見えてきてもいい頃合いなんだけどな。赤燐宮っていうけど実は平屋とかやめてくれよ。遠くから確認できないじゃん。


「美味しいでやんすねー」

 本場で食うナーフスもおつなもんだな。

「この辺で採れるものでやすから、味も気候に合ってるんでやんしょう」

 俺もそう思う。


 目に付く範囲で大量に購入してたナーフスを齧りながら休憩。これ食ってるだけで、ずっと走れそうな気がするからすごい栄養なんだろうな。

 ただ、強烈な暑さだけは身に堪える。抜け毛もすごくて、また身軽になってきた。ちょっとスマート魔犬になったんだぜ。


 なんか賑やかじゃないか?

「北のほうでやんすね。大きな群れでもいるんでやんすか?」

 どんなんが居ても不思議じゃなさそうじゃん。

「そんな脅さないでほしいでやんす」


 とりあえず退散の準備だけしておこうぜ、相棒。お茶道具とか収めちまえ。


「何だろうね?」

 分からん。巻き込まれないうちに行こうぜ。

「うそ……」

 なんだ、ありゃ!


 密林が弾けた。それなりに樹高があるはずの樹々がくるくると宙を舞っている。何をどうすりゃあんなになるってんだ?


 そこから黒い小山が揺れながら移動してくる。いや、小山なんかじゃない。あれは生き物だ。毛皮を纏った巨大生物、変異種に違いないだろう。

 その変異種はしばらく進んでくると、よりによって二本脚で立ち上がりやがった。熊魔獣だ。とんでもなくでかい。頭頂まで2000メック(24m)以上あるんじゃないか?


「ちょっと洒落にならないでやんすね」

 あれは荷が重いぜ。逃げるぞ。

「合点でやんす」


 ところが、そいつははっきりとこっちに向かってきやがる。勘弁してくれ。あんなに目立つ知り合いに心当たりはないぞ。


 相棒、固まってないで早くラウディに乗れぐいぐいぐぐいのぐーい。

第百三十七話はナーフスと迫る脅威の話でした。ラストバトルは巨大熊との戦いです。

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