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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
幸せの場所へ

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魔獣の敵(4)

 ノインが冒険者ギルドで得た情報からの推測はこうだった。

 俺たちが見たような狂乱状態の報告件数は十に満たない。つまり目的地の都市周辺での魔獣暴走の兆候は狂乱が原因ではない。それでも狂乱の報告も無視できない件数である以上、魔獣暴走との関連性がないとは考えにくい。


 狂乱状態を確認したからこそ、周囲にうねるように存在する森林帯の調査には二の足を踏んだ。狭い空間であんな攻撃を受けたら命の保証はないからだ。しかし、狂乱が少数事象であるなら森林帯の調査も可能だろうという結論。


「魔獣は通常の状態なのだから、普通に森に潜っても大丈夫だってことですね?」

「そうだよ、ティム。逆に、何ら原因を確定させない状態で魔獣暴走だけ防いでも、たぶん繰り返し起こってしまう」

「それじゃ意味ないのよ!」

 決まりだな、フェル。

「ただし、危険なことに変わりはない。もし、狂乱の気配をわずかでも感じたら即時撤収。いいね?」

「そうよね。本当ならこの提案をギルドにしてもいいくらいだもん」


 とはいえ、確信どころか全てが推測に過ぎない。自分たちでまず確認するしかないじゃん。


   ◇      ◇      ◇


 驚いたことに、混在群体は本当に居やがった。初めて見たぜ。


「キグノが匂いを確認しながら先頭に立ってくれてる。皆、後についていくんだ」

「どきどきなのよ」

「この匂い……」

 俺の尻尾にばかり目を奪われるな、ティム。


 ラウディたちを離れた場所に待たせておいて、群体にみつからないようにこっそりと森林帯に向かう。低い姿勢の俺の後ろに、四人が四つん這いで続いて囁き交わしてるのさ。


「何かあると思う、ノイン?」

「何かが無いとおかしな話だとは思わないかい?」

「あなたの言う通りね」

 同感だ。


 俺たち首尾よく森林帯へと潜り込んだ。ところがその瞬間から異様な感覚に捉われたんだ。


 おいおい、本当かよ。それだったら全部説明つくけど、この国は何を考えてやがるんだ?

「何か見つけたの、キグノ?」

 みつけたも何もこれが原因だろうさ。

「そんな簡単に分かるものなのかい? まさか……」

 ノイン、お前ならピンと来るんじゃないか?


 森林帯の中はむしろ静かだった。動物の気配は薄く、襲われる心配なんかなさそうだ。これが本当なら当然だよな。

 俺は鼻に集中して匂いを探る。ちょっとばかり歩き回ったら目的のものを見つけられた。割と新しいな。最近のことなんだろう。


「近いみたい」

「いったい何なのよ?」

「この静けさが余計に怖ろしく感じてしまいます」

 そっちは問題じゃない。

「この勘は当たってほしくないんだけどなぁ」

「何か思い当たってるの?」

「うーん……」

 あれだぜ。


 樹間を縫って辿り着いた先で、俺はそれを示す。


「これ……!」

「嘘なのよ……」


   ◇      ◇      ◇


 俺たちはボゴス・カルに急行してる。ノインの奴、珍しく厳しい顔して強硬に主張しやがった。

 セネル鳥(せねるちょう)に合わせて走り続けるのはきついんで、今は獣人娘たちの馬車の荷台だ。身体に当たる風が気持ちいいぜ。癖になりそうだ。


「爽快でやんすよ。たまには本気で走りたいでやんす」

「フィッピのことも考えてやれ」

「いいわよ。つらくなったら言うから走りなさいな」

 あいつらも気持ちよさそうだな。


 二人の間から首を覗かせているから、ティムもフェルももふもふを堪能してる。その分、相棒がちょっと不機嫌。やきもち焼くなよ。着いたら腹毛を触らせてやるからさ。


 ボゴス・カルは結構高い街壁で囲われた大きめの都市だった。

 このホルツレイン西部は、伝統的に王太子が統治してるんだと。国土の四分の一近くを占める広さで、イーサルの国土面積とそう大差ないほどだ。

 王太子レヴァインが一人で統治するのは無理なもんだから、任命した執政代行官、通称代官を各地に置いて全体の統治にあたってるらしい。

 で、このボゴス・カルにデメテル地方の公館、代官が執務する役所が置いてあるんだとさ。そこが魔獣暴走の危険にさらされてるってんで大騒ぎしてる。


 ボゴス・カルの冒険者ギルドに顔を覗かせたら中央広場へと案内された。そこで臨時にギルドが卓を置いて、魔獣暴走対応人員の登録を行ってるらしい。

 とにかく頭数を揃えたいギルドは大盤振る舞いの依頼票を貼り出してる。ランク分けされてるけど、結構な額の報酬が保証されてるみたいだ。そのうえ、功績があったパーティーには特別に手当てが出るってんで、広場の荒くれ者どもの士気はとんでもないことになっちまってるじゃん。


「あれ、騎士団?」

「王国騎士団ですね。ティムもびっくりしました。おそらくこの事態を把握した王宮が派遣したようです。予算も王国から出ているのでしょう」

「頑張りどころなのよ」

 ここにも士気が上がってる奴がいたぜ。

「もう少ししたら代官様から訓辞をいただけるそうなのよ。いいところを見せてがっぽり稼ぐのよ」

あれ(・・)のこともあるから、原因究明にも協力いただかないと」

 忘れてくれるなよ。俺的にはそっちの方が重要だ。


 台が設置されて、鼻髭の人物が台上に姿を現す。こいつがここの代官ってわけか。

 ボリス・メイデス爵子っていう政務官だそうだ。長ったらしい挨拶から入って、ようやく本題に差し掛かる。


「諸君にはこのデメテル地方を守るために尽力してほしい。それが諸君らの矜持を満たし、そして社会貢献という冒険者の義務を……」

「お待ちください、代官殿」


 ノインが前に出るのと一緒に相棒も続く。緊張で手汗がすごいぜぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第百二十九話は狂乱の謎の話でした。調査で謎を究明したフュリーエンヌたち。まずは原因の排除から入らねばならないのですが。

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