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どっちが速い?(2)

 小川で遊んだ帰り道。やっと俺の毛が乾いて、村への小道に出たところで通り掛かりの村人と出会った。


 その、多少歳は食っているものの、意気盛んな雄は鍛冶屋のハーマン。体格も良くて腕利きの鍛冶屋で、ステインガルドでも頼りにされている雄だ。

 腕がいいだけに、時々村の外からも注文を受けて仕事しているらしいから、商品を届けに行った帰りなんじゃないかと俺は思った。


「よう、リーエ。川遊びに来てたのか?」

「そうなの。今陽(きょう)一緒なのはキグノだけだけど。ハーマンさんはお仕事で出掛けてたの?」

「ああ、アルクーキーまで商品を届けにな。何せステインガルドまでは駅馬車が来ないだろ? 客が村まで取りに来れないって言いやがる。俺様の打った剣が欲しけりゃ村まで来いってんだ」


 このおっさん、自信家でしかも頑固ときてる。口では何とでも言うが、それだけに自分の腕を買って仕事を入れてくる客には良い顔をするってわけだ。

 今陽(きょう)も出来上がった品を客の都合に合わせてアルクーキーまで届けに行った帰りってことだな。こういうのは少なくないみたいで、俺も良くハーマンが村を出入りするところを見ている。


「新しいお馬さんも元気? ロニィドロップちゃんよね?」

「おお、憶えていてくれたか!? 良い毛並の馬だろ、ロニィドロップ号は。やっぱ一流の職人は乗り物も一流でないとな。美しいだろ?」

「うん、綺麗な子」


 新しく買った牝馬を褒められておっさんも上機嫌だ。

 ハーマンは新しいもの好きでも有名だからな。こうして馬も何()か置きに変えてる。それまでの馬は村の共有財産にしてくれているから誰も文句なんか言わないけどな。コルビーも元はハーマンとこの馬だったんだぜ。


 おう、大事にしてもらってるか?

「ええ、ご主人はちょっと重いけど、あまり無理しませんから。ありがとう、キグノさん」

 気にすんな。お前もたぶん何()かしたら村の馬房に入るだろ? そん時は相棒の役に立ってもらわないといけないからな。

「はい、その時は宜しくお願いしますね?」

 そんな丁寧にしなくても良いんだぜ?

「でも、あなたは『持つ者』ではないですか? それなのに私を餌として狙わないばかりか、こうして親切に接してくださいます。尊敬いたしますわ」


 ロニィドロップが言った「持つ者」ってのは、こいつらが魔獣を指して言う呼び名だ。魔力を持つ者、魔核、人間が言う魔石を持つ者っていう意味で「持つ者(魔獣)」って呼んでるらしい。


 まあ良いか。俺はお前達を襲ったりはしない。腹が減ったとしても村の外で狩りをするさ。安心しろ。

「はい、あなたがどうして人間と暮らしているのかは気になりますけど、それはまたの機会に教えてくださいね?」

 気が向いたらな。

「ええ」


 そこへ厄介事がやってきた。小道をあとから来たのは狩人のトルウェイだ。若手だけど、安定して獲物を仕留めて帰ってくるから村人達も期待してる。


「やあ、リーエちゃん、今陽(きょう)も可愛いね! っと、それとハーマンの親父かよ……」

 また始まるのか。

「何だ、若造。口の利き方も知らんのか? 躾が足らんな」

「ああ、うるせえ、うるせえ。田舎者が腕を鼻に掛けてどうするんだって。王都に行けばあんた程度はごろごろいるって解れよ」

「ああん、もう! 喧嘩しないでよ!」


 この二人はそりが合わない。顔を突き合わせては喧嘩をしてる。

 ハーマンは自分を一流だと思ってるし、トルウェイは珍しい獲物を狩って毛皮を手に入れた時に何度か王都スリッツまで売りに行った事があって、都会を知ってるって鼻に掛けてる。


「そこそこ稼いでるらしいが、そんな鳥に乗ってる時点でお前は二流だ」

 あー、確かにトルウェイが乗ってるのはセネル鳥(せねるちょう)だがな。

「馬鹿言うな。こいつは足も速いし、森に入ったって木立の間をすいすい走ってくれるんだって。そんな鈍重な四本脚とは違う」

「む! 俺のロニィドロップ号を鈍重だと? なら勝負するか?」

「受けて立つぜ。ここから村までどっちが速いか勝負だ!」

 無茶言うな、兄ちゃん。


 成り行きで発展した勝負に相棒は目を白黒させてる。


 お前ら、良いのか?

「ご主人の決めたことです。仕方ありませんわ」

「そういうことっす、旦那」

 聞き分け良いな!


「じゃあ、リーエ。審判を頼む」

「わたし?」

「公正にしてくれよ」

 やっぱりそうくるか。

「どうやって判定すれば良いの? そもそも歩きだし」


 ハーマンとトルウェイは俺をじっと見る。だよな。おっさんたちは無理にしても、相棒くらいなら乗せられる身体してるからな。


「追い掛けてくるくらいはできるだろ?」

「キグノで? 大丈夫?」

 走りが専門の奴らでも追い掛けるくらいならな。


 リーエは恐る恐る俺に跨って首に手を回してしがみ付いた。それからスタートの号令を掛ける。

 最初はトルウェイがリードしてる。軽い分だけ加速が良い。だが、ハーマンがじわりじわりと差を詰めていく。最高速度はロニィドロップのほうが上かもしれない。俺はその様子を小道の横の草原を走りながら観察している。


「ひゃっ! やっ!」

 しっかり捕まってろよ、相棒。もう村の入り口が見えてきたぜ。とりあえずあそこまでは一気に駆け抜けられそうだ。


「あっ!」

 あっ!

「「ああっ!?」」


 ……一番に村に入ったのは俺だった。

 非常に気まずい空気が流れる。いや、このくらいの距離だと俺のスタミナでもなぁ……。


 おっさんと兄ちゃんはしょんぼりとして、とぼとぼと自分の家に帰っていった。リーエはそれを呆然と見送っている。


 悪かった。そんなに気を落とすな。舐めてやるからぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第十二話は馬とセネル鳥、どっちが速いの?という話でした。これがもっと距離があればキグノもリーエを乗せては走れないのですが、2400m異種G1レースでしたので残念なオチに……。

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