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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
幸せの場所へ

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魔獣の敵(1)

「がんばれー!」

 俺の応援か?

「ちがうのー!」

 だよな。


 堅刃(ロブストブレード)が木剣を噛む。弾いたと見るや、フェルは身をひるがえして左側に回ってきた。

 鋭い突きを左刃で逸らせる。前のめりの体勢の(すね)に軽く頭突きをくらわせると、狐娘の身体は俺の背中を転がって反対側に落ちた。


 強く踏み込んで落とされた斬撃を堅刃の交差で受ける。剣が引かれたところで右刃の一撃。重い斬撃を両手持ちで弾いたティムは、左刃の攻撃は屈んで躱した。

 その時には、俺は頭を狼娘の股間に滑り込ませている。そのまま頭をあげて腰を浮かせてやると、ティムは背中にしがみ付くのが精一杯。


 その隙にと走り込んでいたフェルは、狼娘が盾になって斬り込めない。彷徨う剣筋に、右刃を絡めると捻って飛ばす。左刃で足を払って倒れるところに背中を持っていってやった。

 結果、俺の背中にはティムとフェルの二段重ねができあがり、相棒の前まで乗せていくと放り出す。怪我はしてないはずだけど、一応治癒はしてもらっとけ。


「あしらわれてしまうのね。キグノ相手じゃ対魔獣戦闘の訓練にはならないんじゃない?」

 俺もそのつもりは無い。

「無理だね。どっちかっていえば対人戦闘訓練に近い。まあ、剣の扱いは上達すると思うんだけど」

「強過ぎるのよ!」

 もうちょっと頑張れよ、フェル。

「獣の匂いが堪りません」

 うっとりすんな、ティム。


 それでもたまに模擬戦をやっていると、だんだんと捌きが難しくなってきた感じがする。二人同時の相手なら、もう少ししたら二対の堅刃を使わないと苦しくなるかもな。刃を殺してある分制御は楽だからな、多少は細かい操作もできるじゃん。


 時々はノインとも模擬戦をやるけど、そっちは軽く合わせる程度だ。本気でやるなら確実に二対は使わないと無理だろう。さすがにハイスレイヤーってところだな。


「ああ、お水美味しい。ありがとう、カッチ」

「ごめんなのよ。今陽(きょう)も負けちゃったのよ」

ひゅるぎゅる(頑張ってれば)るろろん(いつか勝てるの)

 そいつはどうかな?


 俺は相棒の剣だ。そうそう後れを取るわけにはいかないのさ。まだ見せてないけど、堅刃(ロブストブレード)一対の制御なら幻惑の霧との併用もいけるんだぜ。


   ◇      ◇      ◇


 依頼に合わせて移動していると結構あっちこっちする。今はホルツレイン北西部。かなり北まで来たから暑いぜ。それも蒸し暑い。

 身体が勝手に反応してんだか、西方に来てから抜け毛がひどい。そうじゃないと堪ったもんじゃないぜ。はぁはぁだけじゃ体温が調整し切れないじゃん。


 相棒にブラシ掛けしてもらいながらティムたちに話を聞いてる。この辺は60()くらい前までトレバっていう別の国があったんだとさ。その国があんまり横暴な行いをするもんだから、西方二大国ホルツレインとフリギアで滅ぼしちまったらしい。

 なもんだから、この二つの国はとびきりでかい。北西部っつったって、騎乗動物に乗ってても主幹街道を辿って王都ホルムトから一往(一ヶ月強)は掛かる。伝文装置のお陰で情報的な隔絶はないけど、物や人の動きは結構大変だよな。


「じゃあ、この辺の人って王国への反感が残ってたりするの?」

「いいや、案外短期決戦だったから戦争そのものによる疲弊はほとんどなかったみたいだよ。一切抵抗が無かったって言ったら嘘だけど、圧政下にいた国民はむしろ諸手を上げて歓迎したらしい」

 そりゃ、相当しんどかったんだろうな。

「戦後の援助とかも充実していたそうです。復興も早かったって聞きます」

「差別とかも王国が厳しく戒めていたから、旧トレバ領の人も円滑にホルツレイン王国民に意識が変わったのよ」

「戦争が正しいとは言わないけど、この辺りの方にとっては良い変化だったんですね?」


 権力者は何もかも失ったんだろうけど、平民は得るもののほうが多かったって話なんだろうな。歴史なんて主観次第でいくらでも変わっちまうじゃん。


 ふう、すっきりしたぜ。ありがとな、相棒。

「見て見て、この毛玉! こんなに大きいの取れた!」

「あははは、キグノ、全部毛が無くなっちゃいそうな勢いなのよ」

「暑いからね。少しは楽になったんじゃない?」

 かなりな。あー、首輪の下が痒いぜ。後ろ脚でぽりぽり。

「それでは引き取りますのでこちらにください」

ひゅるぅ、ひゃいん(えー、カッチもほしー)

「へ? 捨てちゃうから大丈夫」

 匂いが紛らわしいからさっさと捨ててくれ。

「そんな、もったいない!」

ひゅいんひょろろる(あそぶからちょーだい)

「もったいない?」


 どうしてそんなに欲しがるか全然分からない。そんなもんはまたできるんだぜ?


「その匂いに包まれて眠りたい……」

「は?」

 …………。

「いえ、何でもないです! キグノのような強い雄の匂いが漂うものはお守りになるのです。鳥車に積んでおけば弱い魔獣は近付いてこなくなりますから」

「んー? 要るの? だってキグノが居るのよ。本体のほうが匂いは強いのよ」

 本体……。そいつは分身か?

「将来の為です。だってずっと彼と一緒ではないでしょう? 行商をするようになれば魔獣対策は必須です」

「その為に模擬戦で鍛えてもらっているのよ。今は邪魔になるだけなのよ」

 だよな。


 フェルの主張は無視されて、ティムとカッチが毛玉の奪い合いをしてる。リーエは動揺で汗をかいているが、ノインは笑って見ているだけ。


 俺もちょっと引いてるぜ、汗ぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第二十六話は模擬戦の話……、もとい毛玉の話でした。毛玉? うーん、尻尾甘噛みネタは当初の設定通りなんですけど、ティムがどんどん壊れていっている気がする。もう勝手にしゃべり始めてくれているので流れに任せます。

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