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どっちが速い?(1)

 相棒と小川まで遊びに来ている。村の子供達ともよく来る場所なんだが、今陽(きょう)は他に誰もいない。


 ステインガルドの近くには湧き水の泉がある。正確にいうと、この泉が有るからここに人が集まって村になったらしい。

 その泉は清い状態を保つ為に沐浴や洗濯を禁じられてる。水なんて陽々(ひび)変わるもんだから、本当のところは湧き出し口に悪戯をして水道(みずみち)が変わるのを嫌っての規則なんだろうぜ。

 そんな理由からこの村の名前は穢れなき泉の守部(ステインガルド)っていうらしい。


 だから村の人間はそこから流れ出した小川のほうを使ってる。川上の、ろくに魚も棲んでない辺りは飲用水も採れるし、川下のほうなら魚も獲れる。沐浴もするし、洗濯もする。村には井戸も掘ってあるが、水を運ぶ手間を考えりゃ洗濯や沐浴は小川のほうが楽だってのもあるだろう。

 イーサルでも北のほうのこの村じゃいつも暑いから、冷たい小川の水でも平気ってもんだ。風呂を焚く贅沢なんてしてないで、昼間のうちに小川で身体を洗うのが手っ取り早い。

 その為に、雌が身体を洗う場所には囲いがしてあったりするんだが、雄や子供はその辺で済ましちまう。


 でも今陽(きょう)はちょっと足を伸ばして、2ルッツ(2.4km)先の水遊び場まで来てるのさ。この辺は魚も多いから、晩メシのおかずも調達しようって腹だ。

 相棒は川に入って身体を洗ってるが水着を着てる。他には俺しかいないんだから素っ裸でも構わないだろうに、誰か来たら恥ずかしいんだとさ。すっかり色気づいてきやがったな。

 こいつは親父さんがザウバで買ってきた、最新の伸縮素材とやらで出来ている優れ物らしい。身体の線がそのまんまなんだから、着てても着てなくても変わらないような気がするぜ。そんなに地肌を見せるのが嫌なもんだろうか? 毛皮の無い人間は不便だな。


 そんでもって俺は魚捕りだ。結構下流のこの辺りはそれなりの大物がいる。普通なら警戒心が強い大物は釣りでもしない限り捕れないんだが、俺には関係ないぜ。

 見つけたら幻惑の黒い霧を出して目くらましを掛けてやる。それで魚は俺の事が分からなくなるから、あとはそっと近付いてがぶりとやるだけで終わりだ。


「上手上手ー!」

 そんなに手を叩くなよ。闇犬(ナイトドッグ)の面目躍如ってとこだろ?

「ありがと。しばらくはお魚が食べられるね」

 せっかくの獲物だ。美味しくいただいてやれ。俺は生で構わないぜ。

「どうやって食べようかなー?」

 好きにしろ。籠に入れとくからな。


 その後も結構な数の魚を捕っておく。俺達が食う分と、近所に分けるには十分な数だろ。

 運ぶのも保管にも苦労はしない。相棒は親父さんみたいな『倉庫』能力者じゃないが、うちにはかなりの数の反転リングがある。『倉庫』能力を使える魔法具だ。

 これは腕輪(バングル)に水晶球を付けたもので、その水晶と大きな袋を繋げてあるらしい。腕輪の水晶に魔力を流すと反転して袋が現れる。中に入れたい物を入れて、もう一度袋の口の水晶に魔力を流すと腕輪に戻る。

 行商や交易には今や必須と言っていい魔法具なんだとさ。だから親父さんは大量に仕入れて持ってるし、その一部をリーエが使えるよう家に置いている。

 だから相棒はいつも左腕に二、三個は填めている。どこに行くにも身軽なもんだ。


 あとは適当に遊ぶだけだ。俺がじゃぶじゃぶと水に入ると相棒が水を掛けてくる。真似して水を掛け返すのは無理だ。手を使うように前脚を器用には使えないからな。

 その代わりちょっと離れてから、ジャンプしてリーエの傍に着地してやる。俺のでかい身体はそれだけで相当の水を撥ね飛ばすから、相棒にもかなりの量が掛かる寸法だ。

 そうやってしばらくは水を掛け合って遊んでた。


 おい、ぶるぶるするぞ。

「え? なに?」

 だからぶるぶるするからちょっと離れとけ。

「あ、ちょっと待って!」

 やっと気付いたか。でももう我慢ならん。


 岸に上がったら身体の水を払いたいから鼻先で押してやっていたのに、なかなか気付かないから我慢の限界が来ちまった。半分は反射行動みたいなもんだから勘弁しろよ。

 俺は全身を捻って毛皮の水を撥ね散らす。飛び散った雫を相棒はまともに浴びてる。


「きゃあ!」

 言ったじゃん。

「もう! そんなしなくてもちゃんと拭いてあげるっていつも言ってるのに!」

 無茶言うな。こうしなきゃいけないって衝動的に感じるもんなんだからよ。

「はい、そのまま立ってて」

 了解だ。


 自分の身体を軽く拭ったら、リーエは俺の身体を拭き始める。とは言え、毛皮が水気を含んでいるんだからそう簡単には拭い切れない。適当なところで日向で乾燥するしかない。

 そうしているうちに相棒がぷるぷると震え始める。寒いわけじゃないだろ?


 なんだ? 小便したいのか?

「キグノ。おしっこしてくるから、人が来ないか見ててね?」

 いつもながら面倒だな。その辺で片脚上げてしゃーってすればいいだろ、しゃーって? ああ、雌だから腰を落としてしゃーって。

「人が来たらすぐに教えてね!」


 小走りで茂みに向かってる。漏らしそうだったのか。まあ、良いんじゃないか? 濡れても大丈夫なもん着てるんだから。


 ついでに着替えてきたリーエと昼メシにする。俺はさっき捕った魚をパクついているが、相棒はパンに焼いた肉と野菜を挟んだやつを作って持ってきてる。


 何だ、それも美味そうだな。ちょっと寄越せよぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第十一話は水遊びの話でした。普通過ぎる。でも、こんな感じで呑気なんですよ、本作は。

それでもヒロインに野ションをさせるという暴挙も(笑)。他の作品がどうかまでは分かりませんが、この文明レベルだと普通ですからね! 別に描きたかった訳じゃ……。

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