表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
幸せの場所へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/146

獣人の夢(5)

「くすぐったいの、キグノ」

 一気に綺麗になるだろ。

「カッチもけづくろいするー」

 お前の小さい舌じゃ、俺の全身を毛繕いするのに一()掛かりじゃん。


 また俺の背中に登ったカッチが頭の上あたりをぺろぺろしているのに任せながら、四人の話に耳を傾ける。


「ノインはそうと知っていて、ティムを手助けするって言ったのですか?」

 行動がちぐはぐだもんな。

「僕は君たちが事業申請すれば商業ギルドは許可を出すと思っているんだ」

「でも規制されてるって」

「うん、人族が魔法具を郷に持ち込むのは自粛されているね」

 その、人族がってのが肝心だな。

「ティムたちの行商はその範囲ではないと見做されるのね?」

「もう一段階上だね。彼らはきっと先駆けだとされると思うんだ、リーエ。獣人が自発的に魔法文明的な暮らしを望んでいるとの判断を王国は下す」

「二人はその先駆者として今後の基準になると?」


 つまり二人が獣人(ごう)に持ち込もうとした魔法具が、獣人の暮らしに必要だとされる基準になるのだとノインは言ってるわけだ。その魔法具が普及するにつれて、規制は緩和されていくんじゃないかって話。


「フェルはそんな重大なことをしようとは思ってないのよ。そんなに期待されても困るのよ」

「気にする必要は無いよ。君たちは思うがままに獣人郷を深く知り、彼らの生活の助けとなるような魔法具の知識を与えればいいだけ。郷を変えていく切っ掛けとなるティムとフェルを僕は応援したいと思ったんだよ」

「そこまで考えてくれていたんですか、ノイン」

 感動してるな、ティム。


 あいかわらずすっとぼけた振りして気の回る奴なんだ、こいつは。だから俺も相棒に近付くのを止められない。


「頑張ってね、お二人さん」

「ありがとう、リーエ。治癒魔法士のあなたが商業的な知識に秀でているとは思いませんでした」

 言葉の端々から察せられるだろ?

「そりゃあね、彼女の父上は交易商人だったから」

「そうだったのですか?」

「うん。だからいっぱいお金が必要なのは分かるんだ」


 ティムは今後必要になるものを相談し始める。

 今のところは少しずつ反転リングを買い揃えていってるらしい。獣人である二人は『倉庫持ち』能力は望めない。反転リングで代用するしかないじゃん。

 あと最低限必要なのは初期の運転資金だな。或る程度魔法具を仕入れなくては行商にならない。


「確か北辺府に申請すれば、新事業融資制度もあったはずだって伝えたんだけどね」

「まず自分たちで稼ぐって決めたんです。それができなきゃ商人になんてなれないって思って」

「そうなんだ。わたし、父さんが遺してくれた反転リングをいっぱい持っているから譲ってもいいって思ったんだけど」

 この二人なら有効利用できそうだしな。

「お気持ちだけで結構です。今は夢に向けて自力で頑張りたいので」

「うん! じゃあ、お金ができたら安くしてあげる。それじゃ駄目?」

「喜んで」


 フェルから感謝の抱擁を受け取って笑顔の相棒だけど、ノインへと向ける目は疑問に満ちている。そりゃそうだよな。

 二人は気付かなかったようだが、王国の規制の話は一般人が知ってるような情報だとは思えないじゃん。お姫様の口にも名前が上ったし、この緑眼の雄はどうにも秘密がいっぱいだ。

 さて、機会を見つけて問い詰めないとな。こいつの意図を。


   ◇      ◇      ◇


 ステッケンに着いた俺たちは衛兵詰所で賞金首(荷物)を引き渡す。代わりに捕縛証明を受け取ったら、あとは冒険者ギルドでの事務処理だ。

 とりあえず一緒に行動すると決めてたので相棒もパーティー登録する。これで捕縛分のポイントが入るからな。賞金の分け前は断ろうとしたけど、二人は納得してくれない。一方的に助けてもらっておいて、賞金まで受け取ったら立つ瀬がないと。気にしなくてもいいのにな。


 その代わりと言っちゃなんだが、リーエとノインの奢りで祝勝会をすることにして、食って騒いで楽しんだ。


「へえ、ここは冒険者ギルド提携旅宿のはずなんだけど、まさかあの『魔犬使い』を泊めたくないなんて言うんだ?」

 俺の宿泊を渋るからってそんなに言わなくてもいいんだぜ?

「『魔犬使い』! とんでもございません! どうぞうちをご利用くださいませ。おい、いいお部屋を用意して差し上げろ!」

「……恥ずかしいからやめて」

「何を言っているんだい? 名前っていうのはこうやって使うものさ」

 確かに上手いな。今度からこの手でいこうぜ、相棒。


 体よくいい感じの四人部屋をせしめた俺たちはようやく柔らかい寝床にありつけることになる。


「おなかいっぱいー。くだもの、おいしかったの」

 たらふく詰め込んでたもんな。

「おにくもまあまあだったの。ほんとはむしがたべたかったけど」

 おうふ。そういえばお前たちは虫も食うんだったな。ラウディと一緒で。

「むし、きらい? ぱりぱりしておいしいのに」

 そいつは遠慮させてくれ。俺は肉のほうが好きだ。


 装備を外して身軽になった四人もそれぞれにくつろいだ空気を出して、ぽつりぽつりと世間話をしてる。


 そろそろ切り出せよ、相棒つんつんつつんつーんつんつん。

第百十七話は先駆者の話でした。二人の夢に対するノインの意図が明らかにされます。他にも明らかにしたい部分があるのですが、おいおいと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ