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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
幸せの場所へ

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牧場の生活(12)

 さすが王族、いい匂いしてるなー。きっと人間の雄ならふるい立つような別嬪なんだろうなー。普通なら羨ましがられるような状況なんだけどなー。

 って、お姫様と睨めっことか洒落にならねー。誰か何とかしてくれよ。


「あなた、魔獣ね?」

 勘違いだ忘れろ。

「誤魔化そうったって無理。漏出魔力、隠し切れていなくてよ?」

 う、魔力に鋭敏なタイプの人間か。抑えてるつもりなんだけどな。

「お分かりになられるのですね?」

「ええ、見間違えようも無く、ね。彼はあなたの友?」

「家族です」

 ちっ、相棒は諦めちまってる。


 下見の人員を糾弾する声が上がるとともに、騎士も柵を越えて迫る。こいつは最悪の事態かもな。


「おやめなさい!」

 下がらせていいのか?

「名前は?」

「フュリーエンヌです、ルテヴィ殿下。彼はキグノといいます」

「フュリーエンヌ、あなたはここ、魔獣避け魔法陣の圏内にキグノが入れる意味をご存知?」

 意味?

「理由なら分かりますけど」

「教えてくださらない?」

「除外刻印を持っているからです」


 しゃがんだルテヴィは、俺の顎に指を当てるとぐいと持ち上げてくる。冗談はよせ。俺にキスなんてしたら、そいつら剣を抜くぞ。

 だが、刻印の入ったメダルを確認したら指を放す。そんで頭を撫でてきた。撫で方が優しいってことは敵意はないんだな?


「これはどこで手に入れたのかしら?」

「えっと、その……」

 そんな貴重なものだったのか?

「ノインという冒険者から贈られました」

「ノイン様に?」


 なんだ、この雲行きは? 全然意味が解らないぞ。ノイン様だって?


「なるほど。あなたは認められた存在なのね? ここに居ることを」

 俺がか?

「そして、あなたもよ、フュリーエンヌ」

「すみません。何をおっしゃられているのかさっぱりです」

「少しお待ちなさい」


 そう言ったお姫様は随伴員のほうへ向き直ってる。どうして怒った匂いを出してるんだ?


「下見の責任者はどなただったかしら?」

「私です、殿下。魔獣などをお傍に寄らせたこと、大変申し訳なく存じます」

「フォルトン爵子、あなたは除外記述が何を意味するか知っている立場に居るのでしょう?」

 匂いがどんどん強くなってきてるぞ。

「彼を遠ざけるのは一族の方の意に反する行為だと分からない? それとも、わたくしたち王家が見放されれば良いとでも?」

「滅相もございません! そんな意図は……」

「これより国務院に上がる必要はありません。解職とします」

 わお、いきなり馘か?

「そんな、あまりにも唐突に過ぎます! 私には魔獣であるのを知る術がございません!」

「そんなのはこちらの方々と誠実に向き合って話を聞けば知れることです。民を見下ろし、自らの職務を疎かにする者など不要。下がりなさい。国務卿にはわたくしから伝えておきます」


 尻尾を後ろ脚に挟みたくなるくらいの空気を醸し出してるじゃん。おお、怖い怖い。聞いた通りの鋭さを持つ雌みたいだな。


「お待たせしたわね」

 やっと話を戻すのか。ぶっちゃけ聞き捨てならない単語がいっぱい聞こえたんだけどな。

「あなたが国際上、わたくしと遜色ない重要人物と目されているのだと判明いたしました」

「ふぇっ?」


 このお姫様は、こういうのが当たり前のタイプなんだな。頭は切れるが、そこで下した判断を一方的に告げるだけで説明が足りないんだよ。


「それはどういう……?」

「じっくりお話したいから、先に視察のほうをひと通り済ませたいのだけれどよろしいかしら? ご一緒してくださらない、フュリーエンヌ」

「もちろん構いませんけど」


 口調が完全に変わったな。つまりお姫様の中で相棒の位置づけが変わったってことじゃん。


「では話を続けるわね。仔牛の飼育力を向上させるのは設備の更新だけで賄えるように見えるのだけれど、その理解で構わないかしら?」

「おっしゃる通りです、殿下」

 応対してるのは見たことある雄だな。確か基金本部の人間だっけ?

「でしたら繁殖の強化はそれほど難しくないのではなくて?」

「はい。ですが、ご説明申し上げておりますように、この牧場事業は託児院の情操教育の一環であるとともに自立心を養う目的で運営しているのです。決して利潤を追求する施設ではございません」

「それは重々承知しています。そこを曲げて生産性の向上に協力をしてくださらないか打診しているのです」


 ルテヴィ曰く、アリスタ家を含めたテレンキ家、ローダ家の三家の牧場。それ以外に専門家を集めた従業員だけで構成された牧場を新たに開いて、乳牛の飼育数を今の二倍にしたいんだとさ。


「もちろん従業員の募集や土地の確保、設備建設費用も王国で準備します。事務手続き以上は基金の負担になることはありません。産業税も免除となるよう計らいます。本部が首を縦に振ってくだされば、わたくしが予算の申請をして通してみせましょう」

「では、王国で運営なされることをお勧めいたします。繁殖を強化して、仔牛をお譲りするのであれば喜んで協力しますので。一()足らずで牛乳の生産まで漕ぎ着けられますよ?」

 本部の職員さんの主張は真っ当だと思うんだけどな?


 飲まれてるじゃんか。目を覚ませ、相棒ぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第百十話は除外刻印の話でした。読者さんにも聞き捨てならない単語が続出したことでしょうが、それに触れるのは以降の内容となります。まずはルテヴィの意向を。

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