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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
幸せの場所へ

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牧場の生活(11)

 話に出たルテヴィ殿下ってのは、ここホルツレインの王様の孫らしい。

 ルドウ基金運営の黒縞牛(ストライプカウ)牧場だけど、王国はその存在を重要視してる。便宜を図るとともに、定期的に視察もされてるんだとさ。


「親しくさせていただいてるんだ」

「王孫殿下と? すごいじゃない、ポレット」

 ここの肉の味ほどじゃないが驚いたぜ。

「初めてお声掛けいただいた時は緊張でしゃべれなかったのに、お気になさらず優しくしてくださったの。とっても気さくな方なんだ」

「へえ」

「興味あるでしょ? リーエもきっと好きになるから」


 聞いた限りじゃとても王族とは思えない。ここの王宮はそんなに開かれてるのかよ。


「先王クライン殿下の御代は本当に国民思いの(まつりごと)をなされていたの。とても王家の方とは思えないほど民の心に寄り添ってくださったんだ。優しい時代だったなぁ」

 そいつも王家の人間らしくないじゃん。

「現王の御代になって変わってしまったの?」

「ゼイン陛下も驚くほど優しいお方。ただ、誰も追いつけないほどに開明的なお考えを持っていらっしゃるの。みんな言ってるんだ。陛下はホルツレインを新たな国に羽ばたかせようとしていらっしゃるんだって」

「うーん、わくわくするような怖いような、何ともいえない話だわ」

 変わるのって勇気がいるもんな。

「すごく積極的に優秀な人材が王宮で登用されてるの。貴族も平民も全く境目なくね」

「そういうって反発がありそう。国が乱れる原因になったりしないかしら?」

「無理無理。王家の人気はすさまじいんだから。反対しようものなら人が離れていっちゃうもん」

 誰も逆らえないのか。

「平和と繁栄は王族の方々がお心を砕かれてきた結果なんだ。国民はみんな、それを知ってるもん」


 この国は権力が集中してるんだな。ところがその当人が平民にさえ大きな権限を与えようとしてんじゃん。こういうのを過渡期っていうのか。


「なんだかすごい時代を迎えているのね?」

 ずっと一緒に居れば考え方も似てくるもんだ。

「うんうん、ルテヴィ殿下もそんな王家の一員でいらっしゃるから、人を見る目は鋭いのよ。優秀なら登用を進言なさったりするんだって」

「じゃあ、ポレットも将来を見込まれているんじゃないの?」

「違う違う。殿下の人物眼は私が友人にちょうどいいと感じられたみたい。それはそれで嬉しいかな」

 口振りからして、そのまま伝えてるんだな。相当心を開いてんのか?

「お見えになられるのが楽しみね?」

「うん! 普段は会いたくたって会えないお方だもん」


 さて、どんな雌なんだろうな。もっとも俺が同席させてもらえるとは思えないけどな。


   ◇      ◇      ◇


 下見にやってきた近衛の騎士や政務官は予想通り俺の存在に難色を示したぜ。魔獣だって伝えたわけじゃないのに見掛けだけでだ。まあ、そんなもんだろ。

 そうなりゃ相棒が案内側に入りたがるわけないじゃん? 俺たちは目に入らない場所でのんびりと相成る寸法だ。


 いやだから尻尾はむはむすんじゃねー。

「ぶー、リーエは服はむはむしても怒んないよ?」

 ありゃ服で皮じゃないからだって。髪の毛はむはむしたら叱られるからな。

「はーい」


 仔牛の柵は平和そのものだ。給乳室でお乳を飲んで満足すれば構ってもらいにくる。相棒も落胆した様子は無いから、それほど期待してなかったんだろうな。


 ところが想定外は向こうからやってきた。視察団の一行が仔牛の柵に近付いてくる。ここは視察経路に含まれてなかったじゃん。


「あなたはどちらの方?」

 面倒なことになりそうだな。


 随伴政務官や騎士は露骨に渋い顔してる。どうやら視察経路を外れたのは、このお姫様の独断みたいだな。


「すみません、お目汚しを。すぐに立ち去りますので、どうぞ仔牛たちが元気に育っている様をご覧になってあげてくださいませ」

 いくか。仔牛の興味も視察団に向かったことだしな。

「お待ちなさい。どうしてこんな場所に居るのか説明するのです」

「ごめんなさい、ルテヴィ殿下。彼女は私の友人なんです。牧場への滞在は、そちらの基金本部の方の承認もいただいているんです。どうかお許しを」

 弱ってんな、ポレット。


 最悪、突っ切って逃げるしかないか。騎士なんかと一戦交えれば牧場どころかホルツレイン国内にだって居られなくなるじゃん。そいつはいくら何でも困るぜ。


「そういう話ではないの、ポレット。ここに居ることの意味は大きいのよ」

「彼女は治癒魔法士として牧場の運営に寄与してくれているんです!」

「勘違いはおやめなさい」


 膨らんだスカートだってのにお姫様は平気で柵を飛び越えてきやがった。それなりに鍛えてんな?


 ラウディ、相棒を乗せて逃げろ。

きゅい(合点でやす)!」

「逃がさないわよ。待てといったでしょう?」

 いやいや、そっちこそ待ってくれよ。どうして俺の前に立ちはだかる?


 ルテヴィとかいうお姫様は、よりによって俺の真ん前にきて注視してきやがった。何だってんだ? もしかしてばれたのか? おいおい、尻尾が垂れちまうだろう。


「あなたは何者?」

 よしてくれよ。騎士が気色ばんでるじゃん。


 ヤバいぜヤバいぜ、この状況は。口が乾くぜぺろぺろり。

第百九話はルテヴィの話でした。残念ながら平穏無事に視察を終えてもらうわけにはいきません。彼女は何に気付いたのでしょう。

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