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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
幸せの場所へ

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牧場の生活(5)

 目覚めてすぐに軽く朝食を摂っていたけど、朝の搾乳が終わると本格的な朝食だ。腹ごしらえが済んだら、ナネットとポレットは柵内の牛糞拾いをするというから、相棒はそれを手伝うと言って張り切ってる。


「ごめんね。つい零しちゃう時があって」

 無意識だから仕方ないだろ、牛だし。それに牧草の肥やしになってんじゃん?

「一応はあそこにする決まりになってるの」

 それからどうすんだ?

「やっぱり肥やしにするみたい。それが私たちが食べてる麦穂や豆になって帰ってくるの。だからやっぱり大事」

 色々と無駄のない仕組みを作り上げてんだな。


 糞箱をひくラウディにリーエを任せて、俺は製乳棟に出向く。何だか来客が多くて賑やかだもんな。気になるじゃん。


「もう少し都合してくれないかな?」

「いやいや、結構融通しているほうだろう? 付き合いも長いんだから」

「儲けたくて言ってるんじゃない。お客様を喜ばせたくてだな……」


 ごたついてるな。牛乳の引き合いか。これだけの味だ。あるだけ売れるだろう。

 問題はこの香りの元だ。最初に飲ませてもらった時から気付いてんだよ。ここの牛乳の香りは、あれ(・・)からほのかに香るやつと同じなんだよ。つまり、あれ(・・)にはここの牛乳が使われているはずなんだ。

 だからあれ(・・)の香りが製乳棟から漂ってきた時、すぐに分かった。関係者がこの中に居る。


「お? なんだね、この……、犬?」

 そう、あんたが犯人だ。

「どうしたんだい、キグノ? その人はモノリコート工場の仕入れ担当者。いい匂いがするのかな?」

 ビンビンにするぜ。持ってんだろ? くれ。

「犬を飼い始めたのかい?」

「いや、昨陽(きのう)から泊っているポレットの友人の家族。狼犬だ」

「なるほど。それは分かったが、どうして私の身体中を嗅いでいる?」

 モノリコートの香りしかしないからに決まってんじゃん。

「いい匂いがするんだろう。製品を持っているんじゃないか?」

「ああ、娘さんたちに会えたら渡そうと思ってね。狼犬はモノリコートを食べるのかな?」

 大好物だ。くれ。

「良ければ分けてやってくれ。娘の友人だからな」

 でかした、ウッドの親父さん。


 取り出されたのは植物繊維紙(かみ)包装だ。おおう、高級感丸出しじゃん。

 欠片に割ってくれるのを、咢を開けて大人しく待ってる。太い牙なんか気にせず放り込んでくれ。なんなら丸ごとでも良いぜ。


 美味い。染みるぜ。口いっぱいに広がる甘味を追いかけてくるようなコクと程よい苦み。素晴らしい。

「ぐるぐる言ってるのは喜んでいるのか?」

「そうじゃないか? 味の分かるお客さんで結構なことじゃないか」

「確かにな。目を細めて幸せそうにされると、さすがに分かる」

 いい仕事だ、仕入れのおっさん。よし、持っていけ。


 俺はウッドの横まで歩いていくと、保冷缶の横腹を前脚でぽんぽんと叩く。


「キグノがそこまで言うんなら仕方ないな。あと十缶渡そう。はっはっは!」

「本当か!? 助かる」

「チーズ棟の子が残しておいてくれるよう言ってたんだがな。まあ、別の作業をしてもらえばいい」

 む? チーズ棟だと? しくじったか?

「ここは私の顔に免じて彼のことは許してやってくれ。よしよし、今度から彼のために数枚調達しておかないとな」

「おっと、毎度まいど賄賂は通用しないぞ?」

「さて、どうかな? まあ、この残りはキグノくんに渡しておこう」

 いやっほう!


 最高のデザートをいただいたぜ。半分くらいは相棒に残しておいてやるか。


   ◇      ◇      ◇


「え、そんなことが?」


 昼メシ中に席を立つなよ、相棒。行儀が悪……、う、頬を両手で挟んで視線を合わせてくるとは怒ってるな? お裾分けしたじゃんか。


「どうしてキグノは食べ物が絡むとそんなにやんちゃなの。恥ずかしい」

 忘れてるのはそっちだろ? 俺は犬なんだぜ?

「許してあげたら。匂いに釣られることにかけたら、私たちの比じゃないんでしょ?」

 ポレットのほうが分かってるじゃん。

「駄目! 甘やかすと同じことしちゃう」

 分かった分かった。もう商売には口出ししないから。

「午後はラウディに代わって箱をひくのよ」

 うわお! そんな殺生な。


   ◇      ◇      ◇


 昼の三の刻(午後三時半)くらいになるとまた子供たちが勢ぞろいする。夕方の搾乳時間なんだとさ。一刻(一時間強)で作業を終えると自由時間らしくて、それぞれに遊び始めた。


「おいでー!」

んべー(待てー)!」


 仔牛と追いかけっこか。作業中と違って無邪気だな。


「あっ!」

べー(痛い)! んべー(痛いよう)!」


 あいつ、柵に跳び乗った子供を追いかけて、勢い余って激突しちまったな。ポレットがすぐに駆け寄る。どんな感じだ?


「前脚が折れてる。残念だけど、この子は楽にしてやるしかないね」

「そんな! ごめん、僕が無茶させたから!」

 待てって。そいつは気が早い。来てくれ、相棒!


 リーエも急いで走ってきてる。


 動くなよ。変な形になると難しくなるから。

「うん。でも痛いよう」

 ちょっとだけ我慢してろ。すぐに治る。

「治るの?」

 リーエに任せりゃな。


「どうしたの、ポレット?」

「足が折れたんだ。固定しても腐ってきちゃうから楽にしてあげるしかできない」

「そんなの駄目! 任せて」

 頼むぜ。

「ちょっと痛いけど我慢してね?」

べー(うん)


 手探りで骨を合わせると治癒(キュア)を使う。これで一応は繋がったはずだぜ?


「痛くない」

 だろ? 良かったな。

「うん! この人間すごいね?」

 礼はしとけ。

「はーい」


 ぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

 最近、ちょっと慣れてきたぜ。でも、それは俺の役目だっつーの!

第百三話は収賄キグノと仔牛骨折の話でした。依然として役立たずのフュリーエンヌ。そろそろ活躍の場を作ってあげないといけません。

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