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ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~  作者: 八波草三郎
幸せの場所へ

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牧場の生活(2)

 俺の無言の圧力に屈した相棒はポレットに頼んでくれる。ここの新鮮な牛乳が飲んでみたいと。

 快諾してくれたポレットは俺たちを伴って柵沿いに歩き、別に設けられた柵の一角へと案内してくれた。ちょっと遠かったぜ。


「ここは?」

「この柵の中は仔牛たちの場所。お乳を搾るんだから一緒にはしてあげられないんだ。繋いだりしないで自由にさせてるけど、まあ言い訳になっちゃうかな。本当は一緒に暮らさせてあげたいところだもん」

 確かに中は仔牛だらけだな。

「今朝搾った分はもう出荷しちゃってるから、あの中の分だけ」

「保管庫か何か?」


 柵の途切れたそこには建物があって、リーエも俺もそこが保管庫になってるのかと思っちまったんだな。


「違う違う。仔牛たちがお乳を飲むところ。一頭一頭あげるほど人手はないから、お腹が空いたら自由に飲めるようになってるんだよ」

「え、そんな仕組みが?」


 建物の一面には相当数の脚が出ていて、その先に乳首の代用品のような出っ張りが付いてる。仔牛たちはそこに吸い付いてお乳を飲んでんじゃん。そこから出てるのかよ。


「うまー」

「おいちー」

「お腹空いた。変わってよー」

「もういいからこっちおいでー」

 おお、自分たちで好き勝手に飲んでるのか。

「親と離されてても大丈夫なんでやんすね。おいらはお乳を飲まないんでよく解らないでやすけど、これでも良いんでやんすか?」


 ポレットは、その建物の中に程よい温度にお乳を保つ仕組みが設えてあるんだと説明してくれる。仔牛用の保育設備なんだそうな。

 まあ、こいつらならそれなりに頭は良い。一度学べば、ここでお乳にありつけるのくらいすぐに憶えるだろう。


「構造上、そんなに保管が利かないんだ。この中の分も今朝搾った牛乳で、だいたい飲み尽くす量入れてあるけど、君たちにお裾分けしても大差ないから大丈夫」

 悪いな。無理言って。

「ポレットはこっちのほうから来たよね?」

「そう。親牛はそんなに悪さはしないけど、仔牛はやんちゃだからあまり目を離すと何かやらかしてたりするの。それを見守ってるだけの簡単なお仕事だよ」

「そうなのね」


 建物の中に入った娘は、小振りな缶とコップ、皿を持ち出してきた。お待ちかねの味見だぜ。ひゃっほう!


「うちのシュリフにあげる時に使う皿だけどいいよね、わんちゃん?」

 おう、そんなん気にしないぜ。

「彼はキグノ。あの子はラウディっていうのよ」

「へえ。よろしく、キグノ」

 よろしくな。それより早くくれ。


 シュリフってのはあのセネル鳥(せねるちょう)のことみたいだな。体色が黄色ってことは属性セネルだろ? 高価な騎乗動物がいるってことは案外潤ってるんだな。

 おっと、こいつがここの牛乳か。ぬるめに温めてあるから匂いが濃いぜ。とびきり濃厚で、食欲をがつんと刺激する独特の匂いは堪らないものがある。涎がたれそうだ。いただくぜ。


 ぐはっ! 堪らん! 美味すぎだ。俺の舌が別の生き物みたいに止まらなくなってる。胃袋がよこせよこせって騒いで仕方ないじゃん。

「美味しいもんでやんすねぇ。何というか、旨味と甘みが舌に広がっていくでやんすよ。これが母の味ってやつでやんしょう?」

 いや、お前、生まれてすぐ餌を食ってたろ?


 一丁前に味を語りやがるぜ。お乳を知らない癖によ。だからこの美味さに逆に冷静なのか。


「はぁ、すごい。こんなに濃くって奥深いのね。それでいて重たいって感じないのはなぜなのかしら?」

「褒めてくれてありがと。親父も喜ぶよ」

「お世辞じゃないのよ。ここまで新鮮な牛乳をいただいたの初めてだからかな? ちょっと衝撃的」

 そりゃこれだけ美味かったらな。

「シュリフも欲しいの? あげるよ」

「その子はポレットのなの? 属性セネル、貴重なんじゃないの?」

「そう。でも、こいつは隣のセネル牧場から下賜されたんだ。セイナ様のところで生まれた子」


 家名とは別に、色々便宜が図られてるんだとさ。頭の良い属性セネルがいれば作業性の向上が見込めるだろうってな。なによりここは、属性セネル生産の本場だって聞いたことあるしな。

 で、その生産に携わっているのが、現国王の姉でセイナなる人物らしい。各種事業に先見の明がある優れた王族で、牧場の生産性向上は国益に直結すると見込んでるからずいぶんと配慮してくれるって話だ。


「ねー、あそぼー」

「あそばないのー?」

「ねえねえ、なんて生き物?」

「初めて見たー」

 賑やかじゃん。犬を知らないのか?

「犬ー? あのうるさいのと違うー」

「ふさふさだもん」

「舐めてみたい」

 お、舐める気だな? そいつは負けられん!


 柵の近くには大量の仔牛が集まって俺を眺めてやがる。こいつら親に輪を掛けて好奇心旺盛じゃん。


「あはは、騒いでる騒いでる。キグノくんに興味津々だね」

「本当にやんちゃそう」

「でも、駄目。あっちに行ってな」

 追い散らすのか?

「どうして?」

「ん? だってこいつら子供だけど黒縞牛(ストライプカウ)だよ? 魔獣だもん。怖いでしょ?」

「全然」

 相棒には通じないぜ。

「だってキグノも魔獣よ。狼犬。お母さんが闇犬(ナイトドッグ)でお父さんが地狼(ランドウルフ)

「嘘……。ちょっと待って。ここ、魔獣避け、しっかりしてあるのに?」


 俺の首を抱いてにこやかに説明するリーエに呆然とした面持ちで応じてる。信じられないのか?


 落ち着け、ポレットぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

第百話は仔牛柵の話でした。話しながら仲良くなっていくフュリーエンヌとポレット。そうなれば必然的にサブタイトルな展開が待っています。

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