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「幽霊になっても。」  作者: 佳乃 春
3/3

白黒カメラ

陽がこの世から消えてしまった日、自分だけの時が止まり、世界から色彩が消えたようだった。

食べているのに味がしない、フィルター越しに見る世界に心が躍らない。

ただ、人として生きていく上での最低限の行動以外できないでいた。

あの後、陽と一緒に生活するはずだった家の契約を取りやめようとした。

しかし、綾さんにその旨を伝えたところ大反対された。

というより契約を取り消してもらえなかった。


「雪君、家賃は半分にしてあげる。とにかく契約は取り消さないからね。じゃ、鍵渡しとくね。」


ほぼ強引に終わらされた会話、手元に残った二個の鍵。

綾さんが契約を取り消してくれなかった理由と鍵の重みを心と手元に感じながら新しい家に向かった。

その後のことはおぼろげにしか覚えていない。

陽のお葬式には出なかった。

お葬式に出てしまえば陽の‘死‘を認めたことになるような気がして行けなかった。

翌週、春休みが終わり、大学が始まったが講義に出席する以外、極力大学に居ないようにした。

大学にいると姿を探してしまう。

居ないとわかって悲しくなる。

最初のうちはそうだった、時間が立つにつれそれすらできなくなった。

同好会には新年度になってから一度も顔を出していない。

部員は陽の事を知ってか知らないのか


「たまには顔出してくれよ」


と、声をかけてくれるがそれ以上は何もなかった。

                      ・ 

                      ・ 

                      ・

いつの間にか、桜のシーズンは終わりをつげ、五月の中旬になっていた。

今日で陽が居なくなって四十九日目、明日で陽の記憶さえ消えるような気がして悲しくなった。

今日もいつも通り布団から出て、顔を洗う。ついでに寝癖を直して歯を磨く。

朝食をすませ大学に向かう。

いつも通りじゃないのは陽が居ない。ただ、それだけ。

それだけで、自分の世界は変わってしまった。

通学中、講義中、移動中、講義中、昼食中、講義中、帰宅中。

頭の中で考えているのは陽との日々。

いつも、昨日までが夢でドアを開ければ陽が居て笑ってくれる。

そんなことがないのはわかっている、だけどドアの前で少し立ち止まってしまう。


「ただいま」


今日も僕の世界を救ってくれる返事はなかった。

                      ・

                      ・

                      ・

お風呂に入る、着替える、ご飯を食べる、歯を磨いて寝る。

あと数時間で陽の気配が消えてしまうような気がして寝付けなかった。


「このまま、本当に時間が止まればいいのに」


現実と夢の境界線がわからなくなり意識を手放そうとした。

 

「ただいま!」


夢か現実かわからないまま‘声の主‘を虚ろな意識の中で瞳に捉えた。









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