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「幽霊になっても。」  作者: 佳乃 春
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泡沫の幸せ

「早く一緒に住みたいな~、そして雪と一緒にいろんな思いで作るんだ」

「僕も。早く陽と一緒に住みたいよ」

「あ、やっと私のこと"陽"って呼んでくれた、いっつも“さん”づけだったからね」

「そりゃそうだよ、一応、陽のほうが一つ年上だしさ」

「一応ってなんだ!!!」


僕たちは今、一緒に住む家を探すため不動産屋に向かっている。

もうすぐ付き合って一年が経つので一緒に住みたいと思っていたのと、今は四月で春休みだし何かを始めるにはちょうどいい時期だと思ったからだ。

もちろん、僕だけでなく陽も同意見だ。

例えば、〇〇応援キャンペーンみたいなもののおかげで家具が安かったり、引っ越し代や部屋代が通常よ安かったりする。

ただ、一番の理由は四月、つまりこの時期は陽の病状が穏やかであるから。

彼女は小さいころから喘息持ちで、季節の変わり目、台風の時期などは発作が起こる事が多い。

今回の家探しも、陽に負担をかけないために病院が近い、空気がきれい(排気ガスなどもよくない)な環境の部屋を探している。


「こんにちは、本日部屋の下見を予約してた遠野雪です」

「あらあらいらっしゃい、陽ちゃんも久しぶりね」

「おばさんも、元気そうでなによりです」


家探しといってもさすがに自力で探したり、ネットで見つけた部屋を見に行き探すのは骨が折れるので、陽と相談したところ、陽の知り合いに不動産屋がいるという事でお世話になることを決めたのだった。


「こちらが陽ちゃんの彼氏さんかい?優しそうないい男ねえ、うちの旦那と交換してほしいもんだ」

「おじさんだって優しいじゃないですか。それに雪は私のものです!」

「きゃーーーー、よかったね雪君!」

「そ、そんな話は置いといて、部屋の下見お願いします」

「あら、なに、照れてるの~?」

「雪君照れてるの~?」

                        ・

                        ・

                        ・

                        ・

そんなやり取りもありつつ、部屋の下見は順調に進んだ。

間鳥 綾(まとり あや)さん、通称"綾さん"は陽のお母さんのお姉さんで、小さいころから陽の事をよく知っている。

もちろん病状の事も知っているため、僕らの要望を聞き厳選して部屋を選んでくれた。

紹介してくれた部屋は四つで、どの部屋を選んでも僕らの要望は叶っていた。


「どう?四つ見た中でいい部屋はあった?」

「ん~四つともよかったけど、私的には最後に見た部屋がいいな~」

「あ、僕もそこがいいと思った!」

「お~息ピッタリだね~。さすがお似合いカップル。じゃあ一回店に戻って契約しちゃう?」

「"善は急げ"って言うしお願いします、陽もいい?」

「いいよ!」


僕たちが選んだ部屋は大学からは少し遠いいが、自転車や徒歩で通学できる距離であり、近くに商店街や駅、桜がすごく綺麗な公園がある場所だ。

交通量も少なく空気も綺麗で、近くに要望通りの病院がある好立地だ。

部屋も二人で生活するには充分な広さで、お風呂とトイレも分かれている。

大学生には少し贅沢すぎるぐらいかも。

家賃もいい条件にしては安い、これは綾さんが知り合いってのと良いもの見た?とか何とか言って安くしてくれた。


「じゃあ最後にここにサインしてね」


部屋の契約ってすごく時間かかりそうなイメージがあったけど、個人情報とサインを書くだけで終わった。


「部屋の契約ってすぐ終わるんですね」

「ん~?本当はもっと長いよ。きっとめんどくさいだろうから色々省いといた!」

「いいんですかそれ....」

                        ・

                        ・

                        ・

「それじゃあ、部屋に実際に住めるのは約二週間後の四月二九日からね、もちろん荷物入れるのもこの日だからね。あ、住所のメモね。ほい。それと二十九日の朝に鍵を渡すから一回寄ってね」

「わかりました、ありがとうございます」

「おばさんありがとう!」

「いえいえ、9時にはお店開いてるから時間は任せるよ。陽、お母さんによろしくね」

「わかった」

「それじゃあ、僕たちはこれで」

「あ、雪君!」

「なんですか?」

「陽のことよろしくね」

「任せてください!」

「なんで陽が返事するんだよ」

「えへへ、つい」

「大丈夫です、何があっても陽とは離れないので」

(陽&綾さん)「きゃーーーーーー」

                         ・

                         ・ 

                         ・

                       十三日後

「いよいよ明日から一緒に住めるのか」

「嬉しい?ねえ、私と一緒に住めて嬉しい?」

「嬉しいよ、陽を独り占めできるからね」

「えーーー雪だけずるいーー、私も雪の事独り占めする!]

「子供だ」(ボソッ)

(バコッ)「いって」


部屋探しも終わって学校も始まったので学校に通いつつ、陽と少しづつ生活用品を揃えていった。

とは言いつつそこまでお金はないので本当に必要なものだけを買った。

テーブルなどは元から使ってるものを送った。

そして、いよいよ明日までと迫ってきた。

一応、陽がどうしても最後に僕のアパートに泊まりたいと言ったので、前の日はうちに泊まっていき、今日は陽のご家族に挨拶をしてきた。

挨拶といっても、報告という形に近い。


「お父さん泣いてたね、まだ結婚するわけじゃないのに」

「陽のお父さんらしいね、お母さんにも理解してもらえてよかった」

「ねえ、本当にいいの?」

「何が?」

「雪のお母さんとお父さんに挨拶しなくて」

「いいよ、遠いいし、それに...」

「そっか、じゃあ結婚の時だね!」

「そうだね、じゃ、明日、九時に綾さんの所で」

「うん、じゃあ明日ね!」


最後はお互い自分の家で過ごすことにしていた。

帰り道、明日のことを考えると足取りはスキップに近かった。

家に着くとなんとなく懐かしい気持ちになった。

空っぽの部屋、少し感慨深い。

そしてなんとなく陽との思い出を思い返していた。

明日からはもっと思い出が増えていくのだろう。

そんなことに期待しながら、明日に備えて早めに寝ることにした。


そして、その夜に陽は亡くなった。




      




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