4.新人の笹森
「今日からここで働く笹森勉です。よろしくお願いします。」
「よろしくな、俺は與 徹。分からないことがあったらなんでも聞いくれ。」
「了解です。」
新しいバイトがやってきた。 笹森は少し無愛想だが店長の話ではバイト経験豊富らしい。これで俺が一人で働くことも無くなるので少しは楽になるだろう。
「とりあえず、基本的な仕事から教えるよ。これがフライヤー、唐揚げとかあげるやつね。」
俺は一通りの仕事を教える。笹森は聞いていた通り優秀ですぐに仕事を覚えた。
「笹森、なかなか覚えがいいな。コンビニのバイトやってたことあるの?」
「いえ、でも一度スーパーでバイトしてた時、似たようなものがあったんで。」
「ふーん。」
ポロロンポロローン
そんなことを話してるうちに客が来る。
「いらっしゃいませ〜。」
「いらっしゃいませ〜。」
見た目は普通だな。耳も尖ってない。人間か?
「すいません、店員さん。AB型の血液ってどこにありますか?」
なるほど、ドラキュラか。別に驚かない。ドラキュラなら何度かきたことあるしな。
俺はいつも通り血の販売はしていない事を伝えようとするが……
「お客様、本日はハロウィーンではありませんよ。当店でのドラキュラごっこはご遠慮願います。」
笹森くん?
そういえば笹森には変わった客が来るって伝えてなかったな。
ドラキュラはコスプレ呼ばわりされて怒っている。
「貴様、ドラキュラ伯爵であるこの私を愚弄するか! 貴様の血を吸い尽くしてやろうか!」
「お客様、店内でのご乱心はお控え下さい。頭に血が上っておられるようですので私ではなく自分の頭から血を吸う事をオススメします。」
笹森はとどまるところを知らない。一旦笹森をスタッフルームに引っ込める。
「大変申し訳ありませんお客様、彼はまだ研修生でして、大目に見ていただけると幸いです。」
「ふんっ、こんな店二度と来るか。」
ドラキュラは帰っていった。
「とんでもない客でしたね、対応してくれてありがとうございます。與さん。」
とんでもないのは君だ、笹森くん。
俺は笹森にこのコンビニの事情を伝える。
「なるほど、じゃあ、あのひとは本当に……」
「ああ、ドラキュラだよ。ここは訳の分からない客がよく来るけどさっきみたいな対応はタブーだから。わかった?」
「了解です。」
ふう、これで笹森が失礼な対応をする事もなくなるだろう。
ポロロンポロローン
新しい客だ、猫の顔をしている。多分獣人とか呼ばれる類のものだろう。
服装から見るに女か?
「すいません、店員さーん。」
呼んでいる。ここは笹森に任せてみるか。
「笹森、いってきて。」
「わかりました。」
笹森が猫顔のお客様の方へ向かって行く。俺は少しドキドキしながらその様子を見守る。
「お客様、どうかなさいましたか?」
「あのねー、日焼け止めなんだけどさー、新発売の奴ってまだ売られてないの?」
あるあるの質問だな。忙しい時とかは、見ればわかるだろ!って言いたくなるけど丁寧に対応すればすぐに解決する簡単な質問だ。
「申し訳ございません。まだ販売しておりません。」
よしよし、やればできるじゃん。
「あと一つ、私から助言があるのですが……」
ん? 助言?
「お客様は猫なので日焼け止めクリームを塗ろうにも毛が邪魔して肌に塗れないのでは?」
なに言ってんだ、笹森!
「まずは日焼け止めの前に毛を刈る事をオススメします。」
「ムキー! あんたそれ失礼じゃない? 別に私のじゃないし、友達に頼まれたから買いに来ただけだし! もうこんな店二度と来ないわよ!」
「またのご来店お待ちしています。」
「来ないっていってんでしょ!」
猫顔のお客様は怒って帰っていった。
ここで俺はやっと気づいた。
笹森は一生懸命やってるつもりなのだろうが自然に人を煽るスキルの持ち主だと。
ここのコンビニと笹森は混ぜるな危険の類だろう。厄介な新人が来てしまったもんだ。




