序章 ときめけ!魔法少女マン!
各国首脳は否定しているが、魔法少女の存在は明らかだ。
人知を超えた魔法技術を駆使する少女の戦士
全世界の自由と平和を守り、邪悪と暴虐に立ち向かうこと
それが彼女の使命である──多分──
「私の名前は八手いずみ、38歳、独身。
ある日、魔法少女と接近遭遇、地球を救えと熱い啓示を与えらたような気がしました。
ところが、自分には力も度胸もなく、もう大変!
悪と対峙しても取り逃がしたり逆襲されたり・・・
しかし、それから身も心も鍛え直しバッチリ任務は遂行してます!
魔法少女にトキメキ、魔法少女を目指す者、魔法少女マン!
果たして、どういうことになりますか・・・
あ、そうそう言い忘れていましたが、私の性別は─男─です!」
『ときめけ!魔法少女マン!』※タイトルコール
地球、それは、広大な宇宙に浮かぶ蒼きエメラルド
その地球に降り注ぐ太陽の光が今日も大地に平和な朝をもたらす。
あこがれを追い求める男がいるこの大地、日本にも・・・・・・
「・・・・・・ときめく・・・・・・」
全身を移す姿見の前で、八手いずみは思わず呟いた。
「うむ!魔法少女バトルドレスBタイプは、これでひとまず完成です!」
鏡に映る自分の姿に、いずみは思わずトキメいてしまったが、
彼は別にナルシシストという訳ではない。
トキメキの理由、それは身に纏ったこの衣装、いずみ自身がデザインし縫い上げたこの衣装によるものだ。
厳選したピンクの生地で作られたキュートなドレスにあしらわれた盛りだくさんなフリルに、
素肌を晒した二の腕や、へそ周りのたくましさが引き立つ。
ふわっとひろがった短めのスカートからは丸太のような素足が伸び、
ピンクのブーツへとつながる。
『これが!悪と戦い、正義と平和を守る魔法少女のトキメキ衣装バトルドレス!
全身に配されたフリルと真っ赤なリボンは正義の証!』
「AタイプドレスもKAWAIIものでしたが、Bタイプはさらに洗練されたような気がしますね!」
そう、いずみがつぶやいた通り、AタイプドレスもKAWAIIデザインであったが、
いかんせん耐久力に問題があった。
スカートが足の動きを邪魔したり、胴回りが腹筋で破れてしまったり・・・
おまけにブーツの高いハイヒール、
これは見た目はよかったのだが何度も足をくじいた挙句、最終的にはもげてしまった。
特にまずかったのはバトルランジェリー・・・つまりおパンティー、
必殺技の際、敗れて臀部が剥き出しになってしまったのはさすがにまずかった。
まあ、結果的にそのおかげで勝利できたのは皮肉だったが。
以上の点をふまえ制作したBタイプはKAWAIIだけでなく、耐久度もアップした!
布地を伸縮性の高い物に変え、足回りを改良、接地性を向上!
スカートの丈を短くしフリルをマシマシ!KAWAII!
胴回りは腹筋自体を鍛え上げる事により防御性能をアップ!PERFECT BODY!
加えて女子力アップもかねて、あえてデザインをヘソ出しに変更!SUTEKI!
そして、最大の変更点は目元を覆う新たなる仮面!MYSTERIOUS!
Aタイプでは布製だったマスクを、FRPを基本に強化ゴムと植毛のハイブリッド素材で製作した仮面、
これは正体を隠しつつ、頭部を強固に守る事が出来るし、
なにより、キラメく大きな瞳が綺麗に塗装された仮面はいずみの中に眠っている女子力を強く呼び起こす!
『さあ!平和を守る準備は整った!
いざ!出動せよ!魔法少女マン!!』
と、その時、腕時計のアラームが鳴り響いた。
「う~ん、もうこんな時間か・・・」
いずみは時計に手をかけ、アラームのスイッチを切る。
「結局、徹夜作業になってしまいましたね・・・
仕上げはまだだけど仕方ありません、仮眠を取らずに会社に行く準備をするとしましょう」
『魔法少女マン八手いずみは会社員でもある!
働かなければ自分の生活を維持することが出来ないのだ!』
手馴れた速さで変身を解いたいづみ。
仮面を取り、晒された素顔は均整のとれた顔立ちであったが、
優しい眼差しは頼りなげで、年齢よりも若い印象を与えるものであった。
いづみは衣装をてきぱきと綺麗にたたみバッグに入れ、風呂場と向かい、一風呂浴びることにする。
『朝シャンは女子力を高める効果があるのだ!』
シャワーを浴び終えたいづみは、綺麗にアイロンがけされた背広に着替え、
台所に行き、昨日の残り物を冷ご飯にくわえ、フライパンで軽く炒め始める。
『魔法少女マン八手いずみは独身である!
長い独身生活で料理も得意になってきたのだ!』
炒めたチャーハンを手早く腹の中に収め食器を洗い、
歯を磨き、身だしなみを整えたいづみは鏡に向かって気合を入れる。
「よし!それでは今日も会社へ、レッツらゴー!」
玄関のドアをあけ両手にカバンと可燃ゴミの入った袋を持ち
朝の光の中へ躍り出るいずみ。
こうしていつも通りの日常の中、新たなる希望を胸に秘めた八手いずみ、
いや、魔法少女マンの一日が始まるのだった。
『取り敢えず出勤せよ!八手いずみ!
ときめけ!魔法少女マン!!』
つづく